第三十三章 刺客とラーケーシュ
第三十三章 刺客とラーケーシュ
五人の刺客に捕らえられたハルシャ王子の家庭教師ラーケーシュはどこかの地下牢に閉じ込められていた。光が届かない真っ暗闇の中でラーケーシュは目を覚まし、最初は自分の目が見えなくなったのではないかと思った。けれど、地下牢の階段を下りてくる足音と共にランプのほのかな明かりが見えると、自分の目がまだ見えることを確認できた。
「おい、飯だ。」
ランプを持って地下牢に男がやって来た。この男は五人の刺客の一人、ラエという男で、ここ何日かラーケーシュの世話係りをしていた。ラエは覆面をしていなかった。ラーケーシュは敵の顔を知ってしまったらどうなるかを良く知っていた。
「ここはどこですか?」
ラーケーシュはまぶしそうに目を瞬かせてラエに尋ねた。
「お前が死ぬ場所だ。」
ラエは冷たくそう言うと、食事を載せたお盆を牢の前に置いた。お盆を中に入れてくれるつもりはないようだった。
「私はいつ殺されるのですか?」
ラーケーシュが尋ねた。
「命令が出次第だ。」
ラーケーシュはとりあえず今日のところは大丈夫なようだと思った。
「今度は俺が質問する番だ。」
ラエが言った。
「ハルシャ王子はどこへ行った?」
ラエが尋ねた。ラーケーシュはほんの少し体が軽くなったような気がした。ハルシャ王子はまだ捕まっていないと分かったからだ。
「私は何も存じません。」
ラーケーシュはお決まりの答えを言った。
「そう言うだろうと思った。」
ラエは面倒くさそうに言った。ラエはラーケーシュが決して口を割らないことを分かっていた。けれど聞き出すことが仕事の一つなので仕方なく質問したのだった。
「お前は祭司だな?」
「はい。」
ラーケーシュは正直に答えた。
「スターネーシヴァラ国の祭司は皆おかしな術を使うと聞く。お前は一体何ができる?」
ラエは興味とおかしな術から身を守るために尋ねた。
「私は何もできません。」
「嘘をつくな。」
「本当です。」
「そんなはずないだろう?スターネーシヴァラ国では特殊な能力があることが祭司の絶対条件だ。」
「でも私にはありません。もしあればハルシャ王子をお守りするために使っています。」
ラエは確かにそうだと思った。ラーケーシュはただ逃げるだけで、何も仕掛けて来なかった。何もできないという言葉を信じたわけではなかったが、特に自分に害がある術を使えるわけではないと考えた。
「また来る。ハルシャ王子の居所を話せば、命だけは助けてやる。考えておけ。」
ラエはそう言うとランプの明かりと共に消えた。
ラーケーシュはラエがいなくなると深いため息をついた。ハルシャ王子の行方は正直なところラーケーシュにも分からなかった。アニルを呼び戻しに行ったかどうか定かではなかった。
しかしどちらにせよまだ捕まっていないというのはせめてもの救いだった。ラーケーシュは目を開けているのかそれとも閉じているのか分からないほどの暗闇の中、粗末な食事を口にして眠りについた。




