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5.さくせんしっぱい

「……あの子はヤバい」


 ついそう口走ってしまった。

 最近転入して来てかなり噂になっている半人半獣。学校に通う半人半獣は珍しいということで、うちもそれに乗じて一目見ようと一年棟に降りてきたわけだが……なに、あれ。

 廊下を歩く噂の半人半獣と、その隣を歩く一人の一年生。恐らく友達か何かだろう。それは置いておいて。

 何故あんなに近くにいるのに気づかないんだ⁉︎ いや、うちも直に見るだけじゃ分からないが、あの歩き方は明らかに──。

 いや、落ち着け、まだそう決まったわけじゃない。落ち着けおちつけ……。

 何度か深呼吸して高ぶる気持ちを抑えるが、依然として鼓動は早まるばかり。……よし。ここでなにもせず戻るのは機械研究開発部の部長としての名が廃る。今取れそうなデータだけ取って戻ろう!

 ポケットからスマホを取り出して、ゆっくりと焦点を合わせる。後ろ姿しか撮れないが、これはもう仕方がない。慎重に録画ボタンに指を伸ばす。と


「…………」


「ルミアちゃん? どしたの?」


「……ん、なんでもない」


 ──はぁ。セーフ。しかし、この距離で気づかれるとは……。もう少し観察したいところだが、仕方ない。この数秒の動画さえあれば色々と分かるはず!

 スマホを握りしめて踵を返し、駆け足で部室に戻る。人混みをすり抜けて、階段を駆け上がりまた廊下。そして──


「廊下走るな」


「わぷっ⁉︎」


 すれ違い様にクリップボードで頭を軽く叩かれた。それにびっくりして足を滑らせ、人を避けた挙句、壁に激突した。


「おうふ……そうはならないだろ……」


「あばば……メガネメガネ……」


 落としたメガネを素早く拾い上げて掛け直す。


「って、先生かぁ」


「『かぁ』ってなんだ『かぁ』って。鈴丘、お前がニヤニヤしながら走ってる時ってのは何かしらやらかす時だからなー。また迷惑被ることするなよー?」


「む、うちはまともですよ⁉︎」


「ホントにそうかー? 去年は何やらかしたっけ?」


「ぬ、それは……」


「えーっと、確か『部室の電力強化です』とか言って勝手にコンセント増やしたり」


「うっ」


「古くなったサーバーをどこからか引き取ってきて部活棟のブレーカー落としたり」


「あっ」


「『湿気った火薬の安全処理です』とか言って校庭に穴あけたりとか」


「ぐはっ……も、もういいじゃないですか! 過ぎたことですし!」


「まあそれはいいんだ、ただ私は同じようなことやらかすと思ってな」


「どんだけ信用ないんですかうち」


「入学早々コンデンサー爆発させたときから何もないぞ」


「うぬぬぅ……ま、まあ今回は大丈夫です! ただの動画解析なので! では!」


 すたたっと逃げるようにその場を後にする。走ると怒られるので今度は早歩きで部活棟に向かった。


「……ん、あれ、鈴丘スマホ落として────後で返すか」




「あれ、あれれ? どこしまったっけ……嘘、ない……?」


 手にも持ってないし、ポケットも空。つまり──どこかで落としたね、これ。


「えぇぇぇぇ……」


 へなへなと椅子に座って、がくりと机に肘をつく。

 機械研究開発部部長、鈴丘結乃。大事なデータが入ったスマホを失くしました。こんなことならサーバに上げておけば良かった……。


「……仕方ない、次こそは……!」


 棚にある箱の中からおもむろにビデオカメラを取り出すと、意気込んで椅子から立ち上がる。


「あれ、これバッテリーどこしまったっけ?」


 結局、バッテリーは見つからなかった。


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