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4.My sister was there.

「ねえルミアちゃんー。暇だよー」


「本でも読んでればー?」


「私にはちんぷんかんぷんだよー」


「じゃあ……えっと……なんでもない」


「そっか……」


 私たち二人は、絶賛閉じ込められ中です。

 この図書館唯一の扉はオートロックで、設定された時間になると自動で施錠されるようになっている。ここだけじゃなく、この学校全ての扉がそう。

 じゃあなんで中に人がいる状態で鍵が閉まっちゃったかって?

 知らない。多分何かが壊れてるんだと思う。

 というわけで。私とルミアちゃんは、図書館の端っこに置かれたこの学校で一番ふかふかで快適(だと思う)ソファーに深く腰掛けて時間が経つのを待っているというわけです。

 脱出しようにもここは校舎の端っこの四階だし、窓はダメ。扉を蹴破るのは相当難しい。だから、誰かに見つけてもらうというのが一番いい策なのである。ちなみにこれはルミアちゃんが考えた策。

 だけれど……やっぱり……。


「ひーまー」


 です。

 閉じ込められてから数十分経つけれど一向に助けが来ない。監視カメラの当番の人サボってるのでは、と疑いたくなるレベルである。そろそろ五時間目終わっちゃいますよ。


「ねぇルミアちゃん」


 ルミアちゃんは依然として難しそうな本に目を通している。私から話しかけてもその目線は本から離れることはなく、無表情でじっ……と読み続けている。

 でもその横顔がまた可愛いんだよなぁ……。ルミアちゃんの元々のジト目から感じられる文学少女感が、本を読む姿になることで一層引き立てられる。これは良い……可愛い……。

 しかも、私に目もくれない一方で、ミミはちゃんと私の方を向いてくれるのだ。こんな中身のない話でもちゃんと聞いてくれてるんだと実感して安心するし、なにより……とっても可愛い。


「……なに?」


「そろそろ一時間経つけど誰も来ないよー」


 カウンターの向こうに掛かった壁掛け時計に目をやりながら、私は気の抜けた声でそう声をかける。すると、ルミアちゃんは初めて本から目線を外したかと思ったら、正面の本棚を見つめてぼーっとした表情を見せた。その後に、


「ほんとだ」


 独り言のようにぼそっとそう言った。時間を忘れていたみたいですね。


「どうする? 強行突破する⁉︎」


 両腕をぶんぶんと振り回りながら意気揚々と声をかけると、ルミアちゃんはしばらく考えて、また本に目線を落とした。


「もうちょっと」


 その一言と同時に、ページのめくられる音が静かな図書館に響いた。

 ……えー。半人半獣の力なら突破できると思うんだけどなー。


「備品壊すのはダメだよ」


 さらっと心読まれました。



「暇だね」


「うん」


 流石のルミアちゃんも集中力が途切れたらしく、本を戻してきてからずっと、私と同じようにぼーっとソファーの背もたれに寄りかかって天井を見つめている。


「……あ」


 ついそんな声を洩らしてしまった。


「どうしたの?」


「えっと、つい、思い出しちゃって」


 少しの苦笑いをしながら、ぼそっとそう言った。

 ルミアちゃんは私の発したその言葉に興味を持ったらしく、天井から視線を外してこちらをじっと見つめてくる。見開かれた綺麗な青い瞳に少し胸を締め付けられた。


「暇だし、話そっか」


 背筋をぴんと伸ばし、少し伸びをしてから、私は口を開いた。


「お姉ちゃんが居たんだ、私」


「居た……んだ」


 静かに、ルミアちゃんは頷いてくれた。


「うん。詳しいことはまだ聴けてないんだけどね。顔も声も、どんな人だったかも覚えてないけど。でも、時々思い出しちゃうんだよね」


 といっても、私とお姉ちゃんが最後にあったのは、私が丁度一歳になる頃だったし覚えていないのは当たり前なんだけど。でも、時々。


「私にお姉ちゃんが居たら、どんな関係になってたんだろうなーって……」


 どんなお話したんだろうなとか、趣味とか合ったのかな、とか。色々考えちゃうんだよね。


「あっ、ごめんね⁉︎ 暗い話するつもりじゃなくて……」


 肌で感じられた空気感にぞっとした寒気を感じながら、慌ててそう弁解した。ルミアちゃんは考え込むような表情と仕草で、ぼーっと虚空を見つめながら、ほんの少し悲しそうな顔をした。


「サナ……ボクと、友達になりませんか?」


 再び目があったとき、ルミアちゃんの口から出た言葉はそれだった。


「えぇっ⁉︎ え、それは嬉しいけど、なんでこの話の流れで⁉︎ ていうか自己紹介は友達判定じゃなかったの……?」


 慌てて色々と口走ってしまった。あわあわと変な挙動をする私の左手を、ルミアちゃんはぱしっと捕まえた。


「良いから、約束」


 すごく真面目な顔だった。


「う、うん」


 どこか懐かしい、子供っぽい約束の仕方である指切り。それを今になって、しかも、憧れの人とやることになるとは到底思っていなくて。


「これで、友達」


 胸を貫かれたと感じるくらいの微笑みを見た瞬間に、何故か目頭が熱くなった。




「……それで、どうするの?」


「んー……引っ張って壊す」


「しかないかー」


 結局、扉を強行突破することになりました。かなり待ったけれど、一向に誰も来ないんだもん。仕方ないよね、うん。

 ルミアちゃんが言うには、蹴破るより横に引いて鍵を破壊する寸法みたい。まあ引き戸だもんね。


「よーし、それじゃあやるぞー!」


 私は意気込んで扉の引き手に指を引っ掛ける。ルミアちゃんと一緒に引けば少しくらいは助けになるよね……!


「ルミアちゃんも!」


 と声をかけると、ルミアちゃんはゆっくりと歩み寄ってくる、が


「……あ」


 三角のネコミミをぴくっと動かして立ち止まった。


「どうしたの?」


「サナ、多分引っ張る必要なくなった」


「え?」


 と答えた瞬間に、体重を掛けていた扉の引き手がいきなり動いた。いや、扉自体が動いて、


「わわっ……⁉︎」


 盛大に尻餅をついてしまった。


「入るぞー」


 何故か開いた扉からぬっと現れた人影は、よく知った声でそう宣言しながら図書館へと足を踏み入れてきた。


「誰⁉︎ って、先生?」


 猫背でつまらなそうな目つきを向けられてすぐに分かった。


「お、無事かー?」


「無事ですけど……なんで?」


「なんでって、助けに来てやったんだぞー? お前ら二人が居ないって連絡あって。ま、案の定ね」


「案の定?」


「あー、なんていうか、あれ」


 と言いながら先生が指差したのは、天井から生えた黒い半球の物体。あれは──。


「あれ……監視カメラ?」


「そ。あれ結構前から壊れてんの」


「やっぱり壊れてたんだ……じゃあ先生はなんで?」


「ん? いや、ルミアからメールがあったぞ? 確認するの遅れてこんな時間になっちゃったけど」


「え? めーる⁇」


 私は立ち上がりながらルミアちゃんの方に視線を向けた。先生にも子供扱いされているらしいルミアちゃんは、先生に「えらいぞー」とばかりに頭を撫でられていた。

 その時私は始めて、ルミアちゃんのむすっとした照れ顔を見た。

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