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3.地上四階、約二万冊の蔵書がお出迎え。教室から歩いて三分の好立地!

「なにしてるんですか」


 えぇ……。


「なに、してるんですか」


 ええぇ……。


「あの!」


「ふぇっ!?」


 気づかないうちに目の前に立っていたケモミミ少女に、何度も声をかけられやっと我に帰った私は、思わず気の抜けた声を出してしまった。

 半人半獣の身体能力を目の当たりにした私は、しばらく頭の回転が停止していたらしく……。


「そんなとこで口開けて固まってられると、こっちも困るんですけど」


 呆然と立ち尽くしていたみたいです。

 ……あれ、というか、もしかして見てたのバレてたかな……?


「えっ、あっ、その……ごめんなさい」


 とりあえず謝っておこう……。

 ルミアちゃんに向けてきっちり九十度の最敬礼をついやってしまった私は

 

「いや、そんなに謝らなくていいんですけど……」


 やっぱり引かれてしまった。

 初対面(多分)の場面にする動作を完全に誤ってしまった私は、恐らく印象最悪だろう。あーやっちゃった……。


「あれ、もしかして隣の席の……」


 『隣の席の』……⁉︎

 その言葉を聞いた瞬間に、私はがばっと頭を上げて、ルミアちゃんの目をじっと見つめた。

 深い青色の瞳、こんなに近くで見たのは初めてだ。生き物なのか疑わしくなる位の美しさを持ったその目を私は長く見つめることは出来なくて。

 咄嗟に顔を手で覆ってしまった。


「えっと、覚えててくれたんだ」


「顔隠したまま言われてもよく分かりませんよ」


 そう言われた次の瞬間、私の左手にほんのりとした温もりと、柔らかい感触が伝わってきた。

 左手がそれに包まれた矢先、私の顔を覆う手はいとも簡単に目の前から離れていった。

 明るくなった目の前には、尻尾をぴんと立てた、変わらず可愛いルミアちゃんがいたが……その手はぎゅっと私の左手を握っていて。


「あの……ルミア、さん?」


 状況を掴めずにいる私は相手の名前を言うことしかできなかった。


「……名前」


「え?」


「名前、教えてください」


 頬を赤らめて言われたその言葉に、私の顔も火照りを感じるようになる。

 ふぅ、と一呼吸おいて、私はルミアちゃんの手を両手でぎゅっと握った。


「ひととせ……春秋佐奈です! サナって呼んでね! あと、タメ口で大丈夫だから!」


 その自己紹介を聞いたルミアちゃんは、大きく目を見開いて


「春秋……佐奈……?」


 と、小鳥の囀りの様な声でそう復唱した。しかも尻尾を小刻みに震わせながら。

 あれ、語尾に疑問符付いてたような……?


「……うん、よろしくね、サナ」


 んなっ……⁉︎

 いきなり呼ばれた名前に、さっきまで考えていたこと全てが頭から吹き飛んだ。

 ……呼び捨て可愛いかよ……。


 きーんこーんかーんこーん……


 悦に浸っていた私を、突然の音が襲った。


「……予鈴⁉︎」


 現実に引き戻された私は、壁に掛かった時計を見てぽかんと口を開けた。


「サナ、どうしたの?」


 そっか、ルミアちゃん編入してきて日が浅いから知らないんだ。


「えっとね……お昼休みの次の時間……五時間目の開始十分前の予鈴、だね」


 丁寧にそう説明する。授業準備に結構時間がかかるので、早めに教室に戻らないと間に合わないのだ。


「つまり、早めに戻ったほうがいいってこと?」


「そゆこと!」


 理解が早くて助かる。流石ルミアちゃん!


「よし戻ろう!」


 意気込んで本棚の通路から抜ける。机の間を縫って進み、図書館唯一の出入り口へ。

 引き戸に手を掛けて開け──


 がしゃん。


 ……。開け──


 がしゃん。


 …………。開けて──


 がしゃしゃん。


「開かない────⁉︎」


「サナ、そこに閉館って書いてあるけどどういうこと?」

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