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2.日本十進分類法-44

「今日こそ話しかけるよ!」


「おー、頑張れー」


 太陽が高く昇った昼下がりは、教室が一番騒がしくなる時間。クラスメイトは皆友達同士で固まって、昼食を片手に話に花を咲かせている。開け放たれた窓からはほんのりと暖かい春風が舞い込み、日除けのカーテンを大きく揺らしていた。


 私は素早く食べたお弁当の味を麦茶で流し込み、一息置いた後、胸を張ってミホに今の意気込みを伝えたのだ。


「よーし……!」


 バッグにお弁当箱一式を仕舞って、さっと振り返る。向いた先はお隣のルミアちゃんの席だ。


「ルミアちゃ……、あれ?」


 てっきり居ると思っていた席には、誰も座っていなかった。机の上には一冊の本がぽつんと置かれているのみ。


「ミホ、ルミアちゃんは?」


「出てったよ」


 ミホは右手に箸を持って、左手でPDAを操作しながらそっぽを向いてそっけなくそう言った。


「え────」


 気づかなかった。全然。気付いてるなら教えてくれたっていいじゃん……。


「ん……どこ行ったか分かる?」


 知るはずないと思いつつ、念のために聞いておく。教室から出るときに何かしら物を持っていたとしたら、行き先がある程度掴めるはず。


「あー、ちゃんとは分からないけど、もしかしたら図書館かもね」


「図書館……?」


 私は自然と首を傾げていた。本をよく読んでいるイメージはあるけれど、そんなに足繁く通うものなのかな。蔵書数は決して多くはないし、しかも貴重な昼休みの時間にわざわざ。


「目撃情報が良くあるの。図書館で資料を読み漁ってるって」


「うーん……。分かった、とりあえず行ってみる! ありがと!」


「んー」


 ミホにお礼を言って、私は早歩きで騒がしい教室を後にした。そういえばミホって広報部だったね。




 からからとゆっくり引き戸を開ける。開けた隙間から、図書館の冷たい空気が流れ込んできた。少し肌寒い。

 一歩入って、引き戸を閉めた。本特有の柔らかく甘い匂いが鼻をくすぐってくる。

 図書館に来るのはこれで二回目だ。前来たときは人が多かったせいもあったのか、こんな雰囲気ではなかったし、こんな匂いもしなかった。

 やっぱり、図書館はこういう雰囲気でないと。

 あ、そうだ。ここに半人半獣の資料ってあるのかな? ……まー後でいっか。


 静かに図書館を歩き回る。所狭しと並べられた本棚と、その横に置かれた椅子と机。片隅にはソファーまである。ここは恐らくこの学校で一番寛げる場所だろう。やはり図書館はどこもつよい。


 あ、いた。


 いち、に、さん、と分類別の本棚を片っ端から見ていって、すぐ見つけられた。分類番号四十四の本棚の前に立つ背の低いネコミミの少女。この学校唯一の半人半獣、ルミアちゃんだ。

 ルミアちゃんは整然と並べられた本をじっと見つめて、時折目を見開いて背表紙を流し読みしている。その顔つきは真剣で、とても話しかけられる雰囲気ではない。

 どうしよ……。このまま陰で見てるわけにもいかないし……。

 どうにも動けず、私はルミアちゃんを本棚の陰から見守ることしかできなくなってしまった。

 しばらくしてお目当ての本を見つけたのか、目を輝かせて口を開けたルミアちゃんは、手をまっすぐ上げて背伸びもして本を取ろうとしている。が、全然届いていない。かわいい。


 お、というかこれはチャンスでは……⁉ ここで私が本を取ってあげれば話しかける隙ができるかも……!


 そう策を講じた私は、ルミアちゃんに向かって一歩踏み出そうとした。──その瞬間。


 すとっ。


 ありえないほど小さい足音が、私の耳に届いた。それと同時に、しかと見た。


 ルミアちゃんは高く跳び上がって、本棚から目でやっと追えるくらいの速さで本を抜き取ったかと思うと、跳んだ勢いを抑えるかのように空中で一回転、そして静かに着地した。


「えぇ────」


 見事すぎる動きを目前にした私は、ただ茫然とするしかなかった。そして、すっかり失念していたことがふと頭に過った。


 そういえば、ルミアちゃんってネコ族だったね────

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