感情の吐露
そうして、彼女に連れられる形で下山開始。
……が。
「はあ……はあ……はあ……」
ものの三十分で僕の体力が切れた。
下り始めた時は余裕だと思っていたのになぁ……やはり山は下山の時のほうが体力の消耗が激しいというのは本当だったか。
「情けないわね」
座り込む僕に向け、責めるような視線と共に棘のある言葉をぶつけてくるキリーさん。
「よくこれまで生きてこれたわね。
あなた、今まで何してきたの?」
「ベッドの上で、ずっとゴロゴロした生活を少々……」
少々、と語尾につけてしまった自分の心理がよく分からない。
「何その情けない生活……お金持ちなの?」
「そんなことはないよ。
親が必死になって稼いでくれたお金を使って、ずっと寝てただけ」
「スネかじり?」
「みたいなものかな」
「最低……」
ついに蔑むような視線へと変化した。
街まで連れて行く約束なんてするんじゃなかった、といった態度を取られそうだ。
……さすがにそれは困るので、あまり言いたくない情けない部分が、つい口から出てしまう。
「そう、最低なんだ、僕は。
病気だからって、親に頼ってばかりだった」
一度出たら止まらない。
きっと、未だかつてないほど疲れてしまったせいだろう。
「入院して、その費用を稼ぐために、親はずっと働いて、頑張ってくれた。
それが分かっていながら僕は、両親ともっと会いたいと、ずっとずっと思ってた。
でも、分かっていたせいで、親には言えなかった」
頭の中のどこか冷静な部分が、疲れると思考力が鈍るというのは本当だったのかと、感心している気がした。
喋らなくていいことまで、口からどんどんと漏れていく。
「死んでしまいたいとさえ思ったこともある。
でも、頑張ってくれてるのが分かったから、自分からは死ねなかった。
ううん。
多分、そんな勇気は最初から無かったんだと思う。
その言い訳に親を使ってただけだと思う。
情けない。
情けないんだよ、僕は。
自分で自分を殺せなくて、だけど親に何かを訴える勇気も持てなくて……ずっとずっと、溜め込むことしか出来なかった、情けない男なんだ」
きっと、誰かに言いたかったのだろう。
怒りとして周りにぶつけられるほど、僕が器用じゃなかったから。
ずっとずっと、溜め込んでいたソレを、吐き出したかったのだ。
ここはもう、僕がいた世界じゃないから。
「そんなこと、ない」
それは、キリーの言葉。
優しさが伴っていることは分かるのに、その顔を見ることは出来ない。
顔を伏せたまま、僕は首を振る。
「そんなことあるよ。
今だってそうだ。
僕はこんなにも不幸なんだとあなたに言って、この全く無い体力の免罪符を得ようとしている。
あなたに、なら仕方がないか、と思ってもらおうとしている。
仕方ないなんてことはないのに。
この世界に来た以上は──別の世界に来た以上は、新しい自分として、出発しないといけないのに」
体力がない。
情けない。
もっと体力が欲しい。
ずっとずっと、歩いていける体力が。
こんな愚痴を零さないよう注意していられる、持続する集中力が。
そしたらこんな、情けないことを、こんなに優しい人に、言うことも……無かったのに……。
山を降りてる途中な訳ですが……いつになったら場面が移るんですかねぇ……。