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病弱少年の異世界転生~やれなかったことをやるための物語~  作者: ◆smf.0Bn91U
プロローグ:世界に留まるキッカケを
8/63

自己紹介

◇ ◇ ◇


──あと一つ──


◇ ◇ ◇


「っ!」

 聞き覚えのある声に、目が覚めた。


 薄明るくなり始めている空の下、上体を起こす。

 考えるのは、先程聞こえた声。

 覚えがあるのに、どこで聞いたのかを思い出せない。


 ……いや、思い出せてきた。

 あれはそう……誰かに謝罪された時の声だ。


 この世界にきたばかりの時に聞いた、あの。


「目が覚めた?」


 僕を助けてくれた紅い髪の女性の声。周囲を見回っていたのか、少し遠い場所からこちらへと歩み寄ってくる。


「あ、はい。その、一日中、ありがとうございます」

「気にしないで。慣れてるから」


 夜でも冷えない地域だからか季節だからか、毛布のようなものをかけなくても、風邪をひかずに済んだのは幸いした。

 まさか薄手の入院着だけで雑魚寝しても平気とは。

 まあ地面にそのまま寝てるから身体は痛めているかもしれないが。


 かもしれない、と言ったのは、そもそも昨日転がり落ちたダメージがまだ残っているせいで、どれがどの痛みなのか分かっていないというのがあるせいだ。


 ……そういえば今更だけど、元の世界にいた頃の病状が全く無いな……。

 常に付きまとう倦怠感と、時たま訪れる立ち上がることも座ってられることも出来ない筋肉弛緩。

 呼吸すらもままならず、浅い呼吸を繰り返して何とか生き永らえていられるような、突如死の淵へと追いやられた絶望感に支配される、原因不明のその病。


 今もそうだけど、昨日は倦怠感なんて微塵も無かったし、発作的に訪れる筋肉弛緩も無かった。呼吸も普通に安定していたし。

 ただまあ、長い入院生活のせいで、ただただ普通に体力が存在しないのは痛いよなぁ……これからどう生活していけば良いのやら。


「それじゃあ、私は下山するから」


 未だ座ったままの僕を素通りし、焚き火を挟んだ反対側にあった大きな籠を背負う女性。

 軽鎧を身に着け、腰に剣を携えている女戦士然としたその姿からは、かなり浮いているように見える。

 が、まあこの世界ではあれが普通の旅人スタイルなのかもしれない。


「あの!」


 そのまま、こちらに軽く挨拶をして下山しそうだったので、思わず呼び止めてしまう。


「これから、どこに行くんですか?」


 自然と立ち上がっている自分に驚きながらも、このまま何も分からない場所に放置されるのが恐ろしくて……そんな間の抜けたことを言ってしまった。

 ついさっき彼女は、下山すると言ったばかりなのに。


「どこも何も、家に帰るのよ」

「その……ついて行っても良いですか?」

「どうして?」

「どうして、って……その、これから行く場所が無くて……」

「そう。それなら、麓にある街の近くを通るから、そこまで案内してあげる」

「えっ?」


 あっさりと出たその提案に思わず、間の抜けた声が口をつく。


「不服?」

「いえ、それでお願いします!」


 思えば、彼女は優しい人だった。

 きっと昨夜の内から、この答えを用意してくれていたのだろう。

 ただ僕の正体が分からないから、もしかしたらこの場所からでも行くアテがあるかもしれないと、向こうからは何も行ってこなかっただけで。


 だから、僕が困っているのが分かったから、すぐさまそう言ってくれた。


「あ、そう言えば、お互い名乗っていませんでしたね。僕は──」


 そこまで言って、この世界での僕の名前は、もしかして違和感があるのではと気付く。

 だから──


「──アキラです」


 ──そう、苗字は言わず、名前だけを名乗ることにした。


「アキラね。

 私はキリハイル。キリーで良いわ」


 そうお互い自己紹介を終えたところで、伸ばしてくれた彼女の手を取り、握手をした。

 気付いてなかったけど、主人公すら名前を明かしていなかったね……ちょっと名前を明かすにしては微妙なタイミングだったかも。

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