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病弱少年の異世界転生~やれなかったことをやるための物語~  作者: ◆smf.0Bn91U
プロローグ:世界に留まるキッカケを
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感謝の気持ちと情けない気持ち

「それで、えっと……」


 着て、一息ついたところで、名前を訊ねる前にしなきゃいけないことを思い出したので、まずはそこから。


「まずは、助けてくれてありがとうございます。

 あの『骨』から、僕を助けてくれたんですよね?」

「まあ、成り行きよ。気にしないで」

「それでも、ありがとうございます」


 座ったまま改めて、しっかりと頭を下げる。


「……そんなことされると、申し訳なくなるからやめて」

「え?」

「あなたを気絶させたのは私だから」

「ん……?」


 言われて、もしかして、と気付く。

 転がっている時に感じた全身の痛みは、まあ転がりながら石や岩にぶつかっていたからだろう。


 となれば、気絶するキッカケになった後頭部の痛みこそが、この人の言っている原因だろうか。


「いや、それこそ申し訳なくなるんで……醜いものを見せたのは僕ですし」

「でも……」

「だいたい、ちょっと変態的なことを考えてしまったりもしましたしね……」


 小声で言った言葉に少しだけ首をかしげるが、すぐに無関係なことと受け取ったのか、話を続けてくれる。


「だったら、図々しい提案だけど、このことはもう終わりってことで良い?」

「それで良いですよ。

 あ、でもそれなら、どうせなら色々と教えてほしいんですけど」

「なに?」

「ここって、どこですか?」

「……どういうこと?」


 顔を上げて訊ねた僕の疑問に、意味が分からないとばかりの表情を浮かべられる。


 まあ、そりゃそうか。

 ただこの世界──もしくはこの世界のこの国の人にとってこの山は、それなりに有名であることは分かった。


「実は僕、この国の人じゃないんです」

「ああ……」


 と、何やら納得してくれる。

 鎧とか着てる、僕の世界ではあり得ない紅い髪の女性からしてみれば、こんな山中で布一枚でいる男なんて、何やら特殊な事情でもない限り、それこそ普通の事情では“あり得ない”ように見えるだろう。


「ここはカノリス山。火の参照データ資源が豊富な山よ」

「火の参照データ資源……?」

「……参照術も知らないなんて……あなた、どれだけ世間知らずなの?」


 呆れられてしまった。

 それほど当たり前のことなのだろうか。


「さすがにソレを教える気は起きないから、自分で考えて」

「んな無茶な」


 と言ってはみたものの、逆に僕が、こんな夜の山中で算数を教えてくれといい大人に言われたとして、果たして教える気が起きるかというと、絶対に起きない自信がある。

 彼女の反応は至極真っ当だとも思えた。


「それとも、あなたの国では参照術が無かったとでも言うつもり? 今どきそんな国があるとは思えないけど」


 それぐらい当たり前のことなのか……例えで出した“算数”と同じぐらい、この世界では広まっている学問のような何かなのだろう。


「ともかく、有力な資源が取れる山だとでも思っておいて。

 で、その分ここはかなり危険な場所なの。

 今は年に数回しかない騎士団派遣のおかげで、その危険はある程度取り除かれてるけどね」

「え? じゃあさっきの『骨』って、そこまで危なくなかった?」

「危ないわよ。少なくとも、参照術も知らない武器も持たない服は一枚だけの薄着、なんていう格好をした人にとってはね。

 アレだけは仕方がないのよ。他の危険とは違って、アレだけは一日経ったら復活する代物だから」

「じゃあ、ここにいたら危ないんじゃないですか? って、そんなはずもないですね」


 言ってから気付いたが、今いる場所はさっき一度溺れかけた温泉の近くではない。

 それに、転がり落ちた坂道の近くでも、僕が最初に目が覚めた場所でもない。

 あの『骨』をこの人が倒してくれた上であの場から離れているのなら、確かに問題はないか。


「ということは、ここまでも運んでくれたんですね……本当、何から何まで」

「そのことはもう終わりだって話したはずよ?」

「え? これもですか? 普通に感謝したいんですけど」

「その都度私が申し訳なくなるから終わり」


 ……なんて優しい人なんだろうか……!


「ともかく、これでこの場所の説明は終わったから。もう休んだら?」

「え?」

「目が覚めたといっても、頭を殴ったのは確かよ。あまり長い間起きてるのも問題だしね。

 火の番なら私がしておくから、遠慮せず休んでおいて」

「それは……」


 とてつもなく申し訳ないけれど、だからといって代われるほど僕に体力があるはずもない。


「……それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 異世界に来ても誰かに助けてもらってばかりな自分を、心底情けなく思う。


 でもここで無茶をしても、逆に迷惑をかけることになるのは、長い入院生活で身にしみている。


 だから、そんな悔しいという気持ちを押し殺し、気持ちを落ち着けて眠れるよう努めた。

 いい加減山から降りたいですねぇ~……。

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