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毒瓶の行方

「……はぁ~……」


 コハクの追求に、リアはついに両手を挙げて、降参の意を示す。


「分かった。話す。どうして私が、滝側のトップを殺せたのか。

 どうして毒瓶を見せないのか。

 もう、想像できてるかもしれないけど。

 使ったの、トップに向けて」

「それって……!」

「まあ、一種のクーデターかも。

 個人的には、ただの復讐みたいなものだけど」


 考えてもみて、と遠い目をして続ける。


「私に無責任なことを頼んできて、最終的にはどうするつもりだったのか聞いたら、湖側の集落に押し付けるって言ったのよ?

 向こうがやられる前に、最後の悪あがきをした、って。

 そんなことが通るとは思えないのに」

「え? それって別に、リアにとっては関係無いんじゃ……?」


 リアは滝側の人だ。

 それなら湖側の人がどういう扱いを受けようと関係ないはずだけど……。


「今はいがみ合ってるけど、同族であることに変わりはない。

 それなのに、そんな殺し合いみたいなことして……。

 自分たちが嫌っているただの人間と同じことをしてるって自覚が欠けたその行動が、私には許せなかった。

 そんなことを思って、行動に移ってるのも、一度自殺しようとして生きたからだけど」

「でも、一度自殺しようとして生きたから、気に入らない人を殺すだけ殺してからまた死ぬつもりなんじゃない?」

「まあ、ね」

「わたしも死のうとしてた部分では一緒だからね、分かっちゃうんだよ。

 ヤケクソとはちょっと違うんだけど、何かこう、腹が括れちゃってるような感覚がさ」


 コハクの言葉に反した明るい声に、ふふっ、とリアは、少し力なく笑った。


「私が撒いた毒で誰も死ぬ心配はないし、人間を殺す心配もない。そして、滝側のトップは殺したけど、他の皆は殺してない。

 皆殺しして終わるつもりだったのに、その終わるための理由が無くなるか無くならないか微妙な状況に置かれるのって、どうしたら良いか分からなくなるね」

「それね」


 コハクの同意を聞いて、ああやっぱりな、と思ってしまう。

 それは、コハクもまた、同様だということで……。


 彼女は、自分にとって大切な、キリーさんの妹を助けるという僕の言葉を、完全には信じていないのだ。

 僕が本当に助けられるだなんて、思ってもいない。


 だから、死のうとしていた感情のままに動けば良いのか、生きるための方向に舵を切るべきなのか……道が別れたまま、立ち止まることを強いられてしまっている。


 その中途半端な状況に置かれている今、とりあえず状況に流されているだけでしかないのが、この女の子二人なのだ。

 ……当たり前のことだけれど、何度も分かっていると思っていたことだけど、やっぱり少しヘコんでしまう。


 ここで、水の中の毒素も抜いて、何もかもなかったことにしてあげると、リアと約束するのは簡単だ。

 でもそれは結局……彼女をコハクと同じ状況に置くのと何も、変わらない──


「……トップの体内に、毒を塗った刃を刺した。

 私達は本来の姿に戻ればかなり固くなるけど、その時は油断してたのか、刃が通ってくれた。

 だから体内に毒が溶け込んで……あの人は死んだ。

 私は間違いなく、同族を一人殺してしまっている。

 私が嫌っている人間と同じ。

 死ぬつもりだったから。その罪の意識から逃げるつもりだったから

 だから、出来たこと。

 もしこのまま生きることになっても……私はその罪の重さを背負って生きていくことになる。

 その、想像するだけで辛いことを続ける覚悟も、私には無い」


 ──変わらないが、それでも……!


「あの──」




「だったら、殺してあげる」




 僕の、言葉が出るよりも早く……静かな、新しい声が聞こえた。

 誰が、と認識するよりも、さらに早く──




 リアのお腹から、刃が飛び出てきた。




「……………………え?」


 呆然とした本人の声を聞いている間にも……その首に、一閃の煌めき。


「あ……」


 目の前で繰り広げられる、人の死。

 でも、落ちた首が水となって、地面に溶けるのを見て……やっぱり人じゃなかったんだと、心のどこかで思う自分が、本当にイヤになった。

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