目覚めての最初の会話
パチパチと、耳元から聞こえる、何かが爆ぜるような音。
僕はその音を目覚ましにして、目を開いた。
まず見えたのは黒い空。
そこに瞬く輝く星々。
無数にあるその点々が、初めて見たものだったせいか……つい、その空に向けて手を伸ばす。
その動作をしたところで、自分が寝転んでいることに気付いた。
「目が覚めた?」
静かに訊ねる女性の声。
固い物を枕にしていたなと、起き上がる時に視界の端に映った少し大きな石を見ながら思う。
「っつ!」
と、全身に鈍い痛みが走った。
「まだ起き上がらないほうが良い」
そう言えば坂道を転がり落ちたっけ……後頭部に強い痛みも走ったし……きっとアレがトドメだったのだろう。
心配してくれた声は、最初に耳元で聞こえた音の方から。
痛みが走ったせいで見なかったその方向へと顔を向けると、焚き火を挟んだ向こう側に、一人の女性が座っていた。
紅く短い髪に、鉄製の胸当てのような軽鎧……で、良いのだろうか?
少なくともその格好が、僕のいた世界のものでないことを確かだ。
コスプレイベントとかなら見ることも出来るんだろうけど……生憎と、僕はそういうのを生で見たことが無いので分からない。
というか、こんな山中で焚き火を起こしたコスプレイヤーがいるとなったほうが、異世界にいるよりもある意味怖い。
「あの……あなたは?」
上体を起こし、おそらくは僕を助けてくれたであろうその人に訊ねる。
「……事情はちゃんと話すから、まずはソレを着て」
こちらを見ずに指差すその先──僕のお腹へと視線を追えば、そこには僕が途中で脱ぎ捨てた入院着がかけてあった。
おそらく、寝ている間に毛布のようにしてかけてくれていたのだろう。
「……あ」
そこで、思い至った。
転がった時にはだけて、立ち上がった時に脱げた入院着を、僕は放置して逃げていた。
そしてその中は、何も履いていなかった。
今だってそうだ。
フルにさらけ出すことになりそうなのを、薄手の入院着で隠せているだけ。
冷静になって考えれば、あの時のあの悲鳴は、本当は僕を見てのものだったのだろう。
厳密には僕の息子かもしれないけれど。
「ご、ごめんなさい! その、醜いものを見せてしまったようで」
「構わない」
「でも、なんかスゴい悲鳴を上げてたような」
「構わない」
う~ん……頑なだ。
心なしか二回目のほうは語気も強かったように感じる。
もしかしてあの悲鳴自体、本人的には結構恥ずかしかったとか……?
クールに見える雰囲気だけど、意外に純情だったりするのかな……。
この反応は正直、かなり新鮮だ。
入院生活の長い僕の「ココ」は、今まで大勢の人に見られてきたからか、見られること自体に慣れてしまっている。おかげで何も恥ずかしくない。
何より見てきたその人達自身も、仕事だからか当然のように慣れている反応ばかりをしてきた。
そんな環境に浸かっていただけに、こんな女の子っぽい声を上げて今も照れているかと思うと……当人が基本的にクールな雰囲気でしかもかなりキレイな顔立ちなのも合わさって──って変態か! これはもう僕が意図的に見せていたと思われても言い訳がきかないぞっ!
「本当にごめんなさい……」
いそいそと、軽く立ち上がりつつ、急いでその入院着を身に纏った。
やっと出会えたな…。
…さて、ここからどうするか…。
とりあえず、ネタ出しも兼ねて、明日は更新お休みします。
申し訳ない。