現れる犯人
「……そもそも、誰かに殺される、ってあり得るんですか?」
「あり得るに決まってんじゃん。
じゃなかったら、誰がこの集落の人を殺した後、襲ってきた人たちを殺したのよ」
「……襲ってきた人たちが集落の人を殺した後、その襲ってきた人たちを誰かが殺した……?」
「だから、その仲間であるあの三人も殺された。
にしては、違和感あるけどね~」
「なん──いや、そうか。集落の人たちを殺した人も助けようとしてるのに、それを無視して殺したってことだから……」
「あまりにも無差別過ぎるって訳」
槍を構えて、一歩、広場へと向かうコハク。
「……戦うつもり?」
「戦わないに越したことはないと思ってるけど。
相手側次第かな~!」
後半の言葉は、その誰かへ伝えるためのものなのか。声が少し大きかった。
「……っ!」
不意に、ピクリと、身体を震わせるコハク。
「コハク……?」
「…………」
しばらく、無言で広場へと視線を向けている。
全てを見渡し、警戒心を顕にしているのか。
本当に、土の地面の上に、水溜りがあるだけ。
地形自体が少し窪んでいるからか、液体が広場の外へと流れることはないが……それでも、ああして水などの測るものが無ければ分からない程のものだ。
人が隠れられるはずもない。
「……良いから! この人にも話しを聞いてもらいたいから。出てきてもらえるっ?」
急に、声を張り上げる。
それでやっと、例のこちらには聞こえない声で会話しているのだと気付いた。
「…………ん?」
と、不意に、目の前の地面が盛り上がった。
いや、地面にある水が、だ。
「そうか……参照術……!」
「そういうこと。
水のように溶け込む参照術。アレで住人たちの身体を構成してた水溜りの中に紛れ込んで、近づいてきた人を殺してた」
そう、コハクが説明してくれている間に、その盛り上がった水が人型となり、形を成す。
「君は……!」
「…………」
驚く僕に、目の前に立つ少女――いや、少女の外見をした女性は、疑惑の視線をぶつけてくる。
目の前に立っていたのは……少し前、僕とキリーさんが助けた、あの女の子だったから。
「まず、名前を教えてあげて」
「……リア」
コハクに促され、警戒心を抱いたまま、名前を教えてくれる。
「……色々と教えたくないみたいだけど、この人とお姉ちゃんが、道端で倒れていたあなたを助けてくれたんだけど」
「え?」
その言葉のおかげで、警戒心が少し解れてくれた。
「で、えっと……」
「アキラ。よろしく」
年上だろう、と思っているのに、結局外見が子供っぽいせいで、コハクを相手にする時のように、敬語を使えなかった。
「さ、これで自己紹介は終わったっしょ。
それじゃあ早速、さっき話そうとしてた、あなたがやりたいことを話してくれる? どうしてわたし達に、ここを離れるように言ったのか」
「それは……この広場にいる皆を、殺したくないから」
「どういうこと?」
このまま水でいる方が危ないような気がするけど……。
そりゃ、さっきコハクが言っていたように、核となる部分さえ無事なら大丈夫なのだろうが……それに時間制限が無いにしても、どこかには保存しておくべきだろう。
「今の湖に、彼らを入れて蘇らせる訳にはいかない」
「だから、それはどうして?」
コハクの改めての問いかけに、一度、気まずそうに言葉をつまらせ、視線をそらした後――
「あの湖には、私が撒いた毒が混ざってるから」
――そう、答えてくれた。