到着した広場で
「殺された……って、どういうこと……?」
水溜りが広がる広場を見て訊ねるが、その光景があまりにも衝撃的だったのか。
三人とも、僕の質問には全く答えてくれない。
どこか、僕の見えない方向に死体でも転がっているのだろうか……?
彼女たちを、僕と同じような人間だと認識してはいけないことを、さっき聞こえない音での会話を教えてもらった段階で分かっていた。
……もしかして、その僕が聞こえない会話で応答が無いとか、死にかけの声が入ってきたとか、そういうのだろうか……?
いや、それだとここに集まっているという人がいない理由の説明が──いないから聞こえない声で会話を試みた……?
う~ん……とりあえず、何も分からない僕が分かるためにも、広場の方に出てみるか……?
なんとなくそんな考えをしていたせいか、一歩、足が進んでしまう。
「動かないでっ!!」
そんな僕の動きを、声を張り上げコハクが止めた。
「……さっきの質問だけどね、その水が、殺された皆なの」
「え……?」
「わたし達の種族は、いきなりは死なないの。まずはああして液体になる。
そして死ぬ時に出た水を補充するように、大量の水の中に入れる。そしたら身体を取り戻すって訳」
「なるほど……」
つくづく、ただの人間でないことを思い知らされる。
本当にこの世界では、意思疎通さえ取れれば“人間”なのだろう。そういう意味では差別のない、良い世界なのかもしれない。
「あれ? でもそれだと、他の人と水が混じってたらどうなるんだ……?」
「その場合は、その人数分の水がないと身体が取り戻せない。だからこれだけの人たちを蘇らせるためには、湖に直接、この水全部を流すしかないかも」
そういう事情があるから、水を汚すことはご法度だし、水の傍で暮らしているのだろうか。
話を聞く限り、そうしてさえいれば、ほぼ不死でいられるようだし。
「どれがどれかは分からないですが、核となる水さえあれば、身体は取り戻せます」
と、これまで黙っていた三人の中の一人が、槍を地面に置きながら声を上げる。
「だから少しは汲めなくても構わない。でも身体に使ってた水もあった方が水の消費量は少なくなるから、出来る限りこの水を回収できた方が良いかも」
「……今からあの水を全部、湖に移動させるつもり?」
どこか冷めたように訊ねるコハクに、真っ直ぐに「ええ」と一人が頷く。
それに続くように、他の二人も顔を見合わせ頷いていた。
「ここの集落の人達もいるんでしょうけど、あの中には、私達の集落から来た、同じ兵たちもいるはず」
「だったら少しでも救わないと」
「でもあの湖には、あなた達が渡してわたしが流した睡眠薬が混ざってるけど?」
「でも……死なないよりマシですから」
言って、真っ直ぐに頷いた子が真っ先に、広場へと向かう。
水を汲むための容器などは無いようだが……どうするつもりだろうか。
というか、睡眠薬が混ざっていると不都合があるみたいな言い方してたけど……まあ、身体を構成する水に睡眠薬があるのは、確かに何となく不都合があるように思えるけど。
「私達も」
「うん」
残りの二人も、広場へと駆け出していく。
それを、やっぱりどこか冷めた目で、コハクは見送っていた。