コハクの優しさ
「あ、彼が持ってた荷物はそのままね~。彼が持っていくから」
「中の確認はしなくても?」
「わたしにとって大切な人の荷物だもん。大丈夫大丈夫」
そうしてコハクに守ってもらいつつ、彼女を先頭に、周りをさっきまで僕を追いかけて来ていた人たちに囲まれたまま、集落の中央へと進んでいく。
「にしても、あのテントから出てきたんだね。
てっきりキリーお姉ちゃんが戻ってくるまでそのままいるかと思ってたけど」
「まあ、臆病者だから、そうしても良かったんだけど」
「だよね~」
バッサリだった。
……まあ、否定して欲しかった訳ではないので良いのだけれど。
ただやっぱり、コハクの中での僕の印象は『臆病者』だったようだ。
「でも、それでも出てきたんだ。不思議と。なんで?」
「少しでも役に立ちたくて。教えてもらった水源にでも行って、水属性の純度が高い水でも採っておこうかなぁ……っていう軽い気持ちで出たら、こんなことにって感じ」
「ダッサいな~」
すっごい笑顔だった。
清々しいぐらいである。
「それにしても、コハクが来るとは思ってなかった」
「え? なんで?」
「僕を殴って眠らせた張本人だから」
だからさっきの状況で僕を助けてくれるなら、キリーさんだと思っていた。
「なんであんなことしてきたのか、聞いていい?」
「なんで、って……アキラはさ、自分の身体の異常に気付いてなかったの?」
「異常?」
「いやマジで……?」
はぁ~……と一度呆れているのが分かる大きなため息を吐いて、
「もしかしてだけど、ものすっごく酷い睡眠不足だって、気付いてなかった?」
僕の評価が『臆病者』よりもさらに下になったのが分かるぐらい小馬鹿にしてきた。
「睡眠不足? それは、もしかしたらそうかなぁ、とは思ってたよ?
でも僕、寝なくても大丈夫な身体だし、眠れないから」
「はぁ? そんなの、普通の人間にいる訳ないじゃん」
「でも事実そうなんだって」
「は~……? じゃあそうだったとして、アキラは目を瞑ったりして頭の中を整理したりしてた?」
「いや、そんなこ――」
――とない、と続けようとして、しまった、と気付いた。
「あのね、どんな生き物でも、記憶の中を整理してないと辛いんだって。
人間の種族の中には、ある程度は眠らなくても大丈夫なような種族だっているけど、そういう子たちでも数日に一回は、眠ってるわけじゃないけど目を閉じて、頭の中を整理する時間を作ってるの」
眠っている時に見る夢というのは、脳内を整理している結果だという。
……僕のように眠れないということは、その整理が行われないということ。
それは、人の身体にとって、大きな負担となっていたはずだ。
その結果こそがあの頭痛だった。
……それは知っていた。
知っていたはずなのに、僕は……寝ている時と同じことが出来るだろうに、目を閉じて何も考えないという行為すら、行わなかった。
眠れないからどうやっても解消できないと……限界が来たら死ぬしかないと、決めつけていた。
それをしていればきっと、多少はマシになっていただろうに。
「何も出来ない自分に意地でも張ってたって感じ? さっき行ってた一人で水源に向かうのだって、多分同じっしょ」
「…………」
言い返せなかった。
全くもってその通りだった。
自分は何も出来ないから、せめて出来ることをしたいと、焦っていた。
何も出来ないと自覚しているのなら、コハクの言う通り、あのテントで大人しく、何も出来ない焦りを抑え込んで、待っておくべきだった。
「少しでもマシにしてやろうと思って無理やり寝かせて放置しておこうかと思ってやったんだけど……失敗だったかもね」
本当に、何も言い返せなかった。
あ、2時ピッタリに投下してしまいましたな……失敗した。
この後書き、こういう編集でずらせないかなぁ……という足掻きみたいになったの、控えめに言ってダサさ極まってますね、はい。