出来ることをする
歩いている。
何も分からないながらも、周囲を見渡しながら、気配とやらが消えているように願いながら、足音を殺して進んでいく。
背中には大きな籠。
中にはキリーさんが脱いで置いていった鎧が入っている。
極力ギッチリと詰まるようにして、少しの振動では音を鳴らないようにして。
……そう。
結局僕は、テントの外へと出た。
ただ、キリーさんを探しに行く訳でも、コハクと少女の行方を探るわけでもない。
キリーさんは偶然会えれば良いなと思っているが、コハクはおそらく、自分から積極的に動かなければ見つからないだろう。
だからといって彼女の不可解な行動を知るためにと動いたところで、どうせ僕では大したことがは出来ない。
これは悲観的だったりネガティブな思考に耽っている訳でもない。
紛れもない事実だ。
だからそんな自分が、今出来ることをしようということで……コハクに教えてもらった、地下にある水源とやらに向かっている。
あのままあそこで待機しているよりかは出来ることで、文字が書けずメモが残せないキリーさんにも居場所が分かってもらえる、そして今の僕が出来る──純度の高い水を採集しておける場所。
何もしないままでいるよりかは、その方が良いだろう。
それに、何か考えながらでも採集しておけるかもしれないし。
「……っと」
口の中で殺しきれるような小さな声が出る。
コハクのテントからこの集落付近までは、場所が開けていたため周囲を見渡せ先に相手を見つけやすかったが、ここに来てからはさすがに、こちらから先に相手を見つけるのは難しいだろう。
さっきから遠くに、もしくはテントの角の先に、水着姿の女性が何人も歩いている。
……この言葉だけを見ればまるで天国のような状況なのだろうが、その手には長槍がある時点で、僕にとっては恐怖の方が先にくる。
槍が怖い……というのもあるが、それはむしろ非現実が過ぎて逆に恐怖はあまり感じていない。
それよりも怖いと思っているのは、集落のテント内から、眠っている女性や女の子を担ぐようにして連れて、この集落の中心へと向かっているからだ。
ああして連れて行った先で何をするのか……それが分からないからこそ恐怖しているのだろう。
殺すのか、脅すのか、拷問にかけるのか……色々と想像してしまう。
ゾワリと、寒気が走った。
僕だってもし、迂闊な見つかり方をすれば、そのまま一突きされて死んでしまうだろう。
そうならないために、見つかるなら堂々と、会話をする機会を得られるように、だ。
そうすればもしかしたら、生きるための会話が出来るかもしれない。
もちろん、見つからないに越したことはないのだけど。
「…………」
教えてもらった地下への入口までまだまだ先か……。
テントとテントの間で道となった場所を、テントの影に隠れながら進んでいっている。
何か、僅かな音すらも、発さないようにしなければ。
「っ!」
そうして、もう少しで、遠くにその教えてもらった地下洞窟へと通じる道が見えてこようかというところで……ある姿が目に写った。
集落の中央へと向かう道──テントの中にいた住民たちが連れて行かれているその方向。
会わないだろうと高を括っていたコハクが、そちらに向かって歩いていたのだ。
「止まれ」
それを見つけた時、声が出たはずはない。
でも、何故か──
──そのタイミングで、腰の部分に、槍の穂先が、突きつけられた。