これからの指針
あの小柄な身体で、自分より少しだけ大きな女の子を連れて出ていく。
普通に考えればあり得ないだろう。
普通に考えれば。
……コハクが子供っぽいから油断していた。
あの子は普通じゃない。
普通の人間じゃない。
そうした会話をずっと聞いていたし、していたじゃないか。
「あ~……間抜けだ」
気付いた。
というか、思い出した。
キリーさんが、コハクを戦力外のように話していなかったことを。
戦力外のように話す――つまり、僕を相手にするようにしていなかった。
顕著なのは、キリーさんが家を出て行く時だ。
僕にはキッパリを戦力外と言っていたが、コハクにはそんなことを言っていなかった。
あの子はああ見えて、キリーさんが認める程度の力はあったんだ。
僕よりも圧倒的に強い。
それが当たり前の子だった。
人間と定義されているだけで、僕の知っている人間と同列だと考えてはいけなかったんだ。
だからあっさりと気絶させられた訳で……。
……そんなことに今更気づくのだから、そりゃ自分で自分のことを間抜けと言いたくもなる。
「……そういえば、これも今更だけど……ここって安全なのかな?」
コハクが使っているテント。
彼女の言葉を借りるなら、集落から離れているこの場所は、確かに安全なように思える。
しかし……それが事実なのかどうか……気絶させてきた以上、信じ切るのも危ない気がする。
それに、キリーさんだ。
彼女が危ない目に遭うとは思えないが、ここに帰ってこない可能性はある。
コハクがキリーさんと接触すれば、尚の事可能性は低くなるだろう。
……いや、それなら僕もどこかに連れて行くか。
僕が攫われたことにするにしても、どこに向かうのか分かるヒントがあるかもしれないと、この家に戻ってくる可能性がある。
それなのに僕をココに置いて嘘だけ吐きに行くのは……リスクが高すぎる。
多分コハクなら、同族の子と一緒に僕を運ぶことも出来ただろう。
それをしなかったということは……。
……その情報が欠けている、という結論だったな。
「……そう言えば、少し頭がスッキリしてるかも」
さっきまであったことを考えようとすらしなかったことを、しっかりと思考することが出来ている。
現にさっきは気付いていなかったことを、今更とはいえ気付けてきている。
さっきまでの僕は、流されるまま連れてこられていた、という表現が正にピッタリだった。
だからといって当然、何かが出来る訳ではないのだが。
……そんな僕が取れる選択肢は、おそらく二つ
このまま色々と考えながらキリーさんが来るのを待つか……このテントから出るか。
もちろん、外に行くのなら、キリーさんを探しに行くためと、コハクとあの少女を探しに行くためと、目的は多様化する。
そのどれになるにせよ、キリーさんには分かるようにメモを残す必要があ──いや、文字なんて書けないか、僕は。
となれば、外に出る場合はキリーさんでも分かるような場所になるか。
二つに、一つ。
今の僕が、出来ることは……。