新たな可能性
長々と書きすぎたのは、相変わらず設定厨なせいでもある。
とりあえず、いつもより長いので、これで明日の分も……ということにしていただければ……はい。
「コハクって、何かしたの?」
彼女の家と言われ案内されたテント内で、キリーさんが部屋の隅にある、布団のような場所で女の子を寝かせているのを眺めながら、ついに聞かずにはいられないことを彼女に訊ねた。
広さとしては申し分ない。むしろ“テント”と表現していることが申し訳なくなるぐらいの大きさだ。
普通に立って移動できるし、何なら四人家族が住むリビングぐらいはあるだろうか。
物が、寝床と一人用の小さなテーブルしかないのも、広く見えている要因なのだろうが。
「……さすがに誤魔化せないか」
諦めたように、一つため息を吐くコハク。
「いやだって……」
その空気から喋りたくないのは分かったものの、それでも中途半端に察したままより、ちゃんと聞いておいたほうが良い気がした。
だからここに来るまでに気付いたことを話す。
「コハクのこの家だけ、集落からかなり離れてたから……」
ここにたどり着くまでに通った、集落の中にあるテント間の道。
そこを抜けてしばらく歩き続けてようやく、この家に辿り着いたのだ。
誰ともすれ違わないどころか、テント一つありはしない道を、ずんずんと進む。
そんな人気も何もない場所に着いてしまった以上、察しないはずがない。
「……ま、簡単に言ったら、わたしは集落から爪弾きされてるの。
だから遠くに住むのを辛うじて許してもらえてるって感じ。
もしかしたらあの毒の騒動、わたしが怪しいとでも思ってるんじゃない?」
だからつけられて話を聞かれそうになっていたと、そういうことを言いたいのだろう。
「キリーさんは、知ってたんですよね?」
「まあね。私の責任でもあるし」
今までの反応や、ここに来ることになっても文句を言わなかったのだから、やっぱりといったところか。
ただ、キリーさんの責任とはどういうことだろうか? 結局コハクが何をして、こういう目に遭っているのか話してくれていないのと、関係あるのだろうか?
……気にはなったが、あまり深く掘りすぎて、本題である毒の話が出来なかったら話にならない。
そもそも、この離れた家まで歩いたからこそ、気付いたこともある。
優先順位を履き違えてはいけない。
「でも、そこまでして嫌われている中、結局家の近くまでその追いかけてきてた人はいたんですよね?
それなのに、こんな遠い場所に来るまで、遠くから様子を伺うだけで済んでるってことは、源泉が原因じゃないのかもしれないですよ」
僕が感じた引っかかりを、皆の前で口にした。
周りに何もなくなって、追いかけているのがどうしてもバレるという所に来ても、一向に声をかけてこなかった、例のキリーさんが気付いた人の気配。
本当に見通しが良くなるまでついてきていたその人影を、僕は全く気付かなかったが、キリーさんはどうやたらここに着くまでずっと気付いていたらしい。
「確かに、アキラの言う通り。私もそこは気になった。
ということは、水以外が原因で、彼女が倒れた可能性が高いかもしれない」
「でもそれなら、何が原因ってなるの?」
「……この子の家とか、この子個人が狙われてるとか、そういう感じかも」
コハクの最もな疑問を答えることは、キリーさんにも出来なかった。
何よりも情報が足りない。
ただ、毒の原因が源泉で無い可能性が高くなった以上、敢えて調べに行く必要性も薄いかもしれない、ということにはなる。
「何も分からないから、その源泉を調べに行くって手もあるにはあると思いますけど……」
「それはそれで危険かも」
僕の提案にしかし、キリーさんは渋い顔をする。
「集落で追いかけてきていた人たちの目的が分からない以上、あまり動き回るのは得策じゃない」
この倒れていた子を個人的に狙っているのか、コハクの言う通りコハクが毒を撒いた本人だと思っているのか……そのどちらを目的としてストーキングなんて真似をしたのか。
それが分からない以上、この倒れていた子を一人には出来ない。
だからと再び担いで移動するのは……。
……いや。
「毒がこの子だけを狙っているものだとしたら、コハクが何かを行った原因だと、集落の人たちは考えていないんじゃ……?」
もしそうなら、キリーさんが気付いていたその追いかけてきていた人は、この子個人を狙っていたことになる。
「もし、集落には何の被害も無かったら、それだけでその追いかけてきていた人個人の動き、ってことになりません?
それを確認しないといけませんけど……いやでも、通ってきた集落がイヤに静かだったから、やっぱり被害が遭ったとか……?」
「あそこはいっつもあんなものだからね~。
明るい内は、外の水辺とかで昼寝ばっかりするの。わたしもそれ目的で歩いてたところで、お姉ちゃん見つけたぐらいだし。この家なんて、夜に安全にしてられるためにってあるだけだもん。
昼間はあんなゴーストタウンも真っ青な静けさが当たり前だし、異常があったかどうかの参考にならないよ」
呑気にコハクが答えるということは、実際にそうなのだろう。
「……ううん、違った」
でもそれを、この集落に住んでいないキリーさんが否定した。
「確かに、思い返してみれば、おかしかった。
いつもはテントの中にも気配はない。
そして今日も、テントの中に気配はあった。
ただ、“毒を患ってる人がいるとか、誰かを治療しているとか、そういう気配でもなかった”」
「…………」
思い出したキリーさんの言葉に、コハクも絶句していた。
「ということは……日が出てるのに、家で寝てるってこと?
寝てる気配だから、わたしじゃ気付かなかった……?」
「寝てる気配……そうか。
そうかも。
アレは寝息に近かったかもしれない。
別の種族だから、私からじゃあ確かとは言えないけど」
寝てる……それも話の流れからすると、集落全体で、とみて間違いないだろう。
そんなことがあり得るのだろうか? 普通の人間社会でも、集団で一斉に、一定の地域全体が眠っていたという事実があれば、それは人為的なものがあったと考えるに決まっている。
例えば入院している時、鎮痛剤などを入れられ、痛みが引いて眠らせるような……いやもっと単純に、睡眠薬を投入してもらうとか……。
ドラマとかも引っ張り出してくるなら、クロロホルムで眠らされてとか、現実味のない方法も──
「──!
あの……キリーさん」
もしかして、と思って、ある気になったことを訊いてみることにする。
「キリーさんがこの子に使った参照術って、毒素を抜くものなんですよね?」
「ええ」
「それって、強制的に眠らされた眠りとかも、取り除く対象にならないですか?」
ゲームとかでよくある状態異常。
その中にある“眠り”。
もし、睡眠薬とかでの強制的な眠りが、その“取り除く毒素”に該当し、取り除くものとし参照術が認識していたとしたら……!
「……詳しくは知らないけど……体内の毒素を抜くものだから、可能性はある……かも」
「じゃあ……彼女が罹っていたのは、毒じゃなくて……!」
「あっ……!
強制的な薬による眠りを浄化しただけ、っていう可能性もある、ということ……!」
そんな訳で前書きに書いた通り、明日も更新をお休みします。
今週はちょっとお休みが多くて本当に申し訳ないです……。