源泉への道
「村」ではなく「集落」と言っていた理由が分かった。
その場所に近づけば近づくほど分かってくる。
ハッキリと言ってしまえば、彼女たちは皆、建物には住んでいなかったのだ。
いや、厳密にはソレが建物なのだろう。あの大きなテントのようなものが。
よく、本や写真で見ていた遊牧民と呼ばれている人たちのような生活だと考えれば良いのだろうか?
少なくとも、テントはソレに近しい形状をしていた。
「こっち」
大きなテントの隙間を縫うように──突っ切っていくように、コハクを先頭にして歩いていく。
その間、集落の住人たちが遠くから、こちらをチラチラと見ているのが分かる。
ただこちらから、しっかりと見てやろうと首を動かし見てみれば、サッと姿を隠される。
警戒……されているのだろう。
……まあ、同族が前を歩いているとはいえ、女の子を背負った女性を殿に据え、籠を背負った男がその二人に挟まれるよう歩いていては、普通に考えれば警戒して然るべきだろう。
ただ、コハク達の種族は女性しかいないのだろうか?
時たま視界の端に映るその姿は、コハクのようなビキニ姿の女性、パレオを巻いている女性、ワンピース型の水着を着ている女性、と、まるで海やプールに来ているような錯覚に陥る見た目の人しかいない。
年齢的にも若く見える人しかいないし。
……ある意味、ちゃんと対峙できなくて正解だったかもしれない。
僕のことだ。胸とか太ももとか、見慣れていない箇所を、失礼であるにも関わらず見てしまっていたに違いない。
今だってこうして周りに注意を向けることで、前を歩いているコハクの背中や腰回りを見ないようにしているぐらいなのに。
「テント、っていうのも珍しい家だね」
でもそれもいつまでも耐えられないからと、ついに前を歩く彼女に話しかけ、より自分の注意を散乱させ始めた。
「あ~、まあ、すぐに移動できて便利だし。
さっき言った水の流れがさ、もし大雨で変わった時もあるかもしれないし」
「なるほど」
「今まで一回も無いんだけど」
ガクっと、コントのように少し崩れてしまう。
「でもま、台風とかの時はこのテントを畳んでたみたいだけど」
「それって、逆にダメなんじゃ……?」
「なんで? どうせわたし達は、水の中でも生活できる種族だもん。むしろ大雨とか喜んで外にいるんだから、家なんてあってもなくても変わんないって」
水の中でも生きていける?
その意味を問うよりも先に、
「あ、ここの下が、お姉ちゃんを連れて行こうとした場所」
コハクが立ち止まり、左手側を指差した。
大きく急な坂の下。
広く石が敷かれた河川敷のような、湖のほとり。
「そのこっち側──坂側、って言ったら良いのかな? そこに、さらに地下に通じる道があるんだけど……その最深部に、純度の高い源泉のような場所があるの」
「なるほど……ということは、今回の毒騒動の原因が、この集落の傍にある水流だけが原因だとしたら、そこから毒を撒かれた可能性が高いわけね」
「う~ん……どうだろ? 毒の濃度にもよるんじゃない? 直接湖に撒いても効果があるものを──」
「待って」
「──え?」
突然、コハクの言葉をキリーさんが止めた。
「私が話し始めたのにアレだけど、続きは後にするか、移動しながらにしましょ」
「あ、ごめんごめん。背負ってくれてるもんね。重いだろうから急ごうか」
「そうじゃないの」
言って、周囲を目線だけで見渡すように動かして、
「誰かがずっと、つけて来て、聞き耳を立ててる」
静かに、僕とコハクにしか聞こえないような声で、そう言ってきた。
明日──というか今日の次の更新は夕方頃か七時頃になるかと思います。
そして日曜日分の更新はお休みすることになるかと。