地下洞窟の道程
「それで、地下洞窟だって? そんなところに私達を連れて行って大丈夫なの?」
コハクのすぐ後ろに追いつき、僕と並んで歩くキリーさんが、前を歩いている彼女にそう問いかけた。
「おねえちゃんなら問題ないよ。ここを助けてくれた人の一員なんだから」
「じゃあ、僕は待機ですね」
「ううん、一緒に付いてきてもらう」
「あれ?」
「よく分からない人間を集落の傍に置いとけないし、当然ってやつ?」
まあ、そりゃそうか。
恩があるキリーさんと、案内してるコハクと一緒のほうが、信頼できない人を入れるのも抵抗感は薄くなるだろう。
「……キリーさんは、コハク達に何をしたんですか?
そこまでの信頼があるなんて……」
「わたし達を人間にしてくれたの」
「人間に……?」
どういうことだ……?
実はコハクたちは、元々魔物とか動物とか、そういう類ってこと……? だから人間の姿をしているのに、水着姿で湖の側に住んでるとか……?
「その言い方は誤解を生む」
と、考え始めてしまった僕に、キリーさんが静かに否定。
「私だけじゃなくて、私も含めた、一緒に冒険をしていた人たちで、が正しい。
それに、人間にというのは、あくまで立場的な意味」
「立場的?」
「それに対して、わたしの村の人達は感謝してるのっ」
「? ふ~ん」
意味はよく分からなかったが、要は大層なことをしたのだろう。
キリーさんなら納得だ。
「本当は集落に寄らないで行きたいんだけど、寄らないと行けないから。
仕方無しにだけどまあ、付いてきてもらおっかな」
「……すぐそこの水でもいけるんじゃない?」
「でも純度が高いものが良いんだよね? そこのは井戸まで引いてるのとそんなに変わらないんじゃない?」
「そんなことないでしょ。源泉みたいなものなんだし」
「いやいや、ここは止めたほうが良いって!」
「なんでそこまで必死なのよ……」
「っ……。いや、だって……」
「アキラ、属性値を確認するだけ確認してみたら?」
「……行きたくないんですか?」
キリーさんのその頑なな態度からなんとなく、そうなのかなと、察してしまった。
「まあ……うん。
私が関わったことだけど、感謝とかされても困るだけ」
「でもま~、それならなおのこと、来てもらおうかなっ」
困っているキリーさんが珍しいのか、コハクが喜々としてそう言っていた。
だからあんなに必死だったのか……なんとなく、妹さんと喧嘩ばかりしている理由がわかった気がする。
こういう時にからかいたくなる性格なのだろう、彼女は。
本当に子供っぽい。
――そんなほっこりとした雰囲気は、すぐさま霧散した。
「っ! あれ!」
彼女の集落に向かう途中……。
その、湖に沿うように歩いている、芝生のように柔らかい草の上に……コハクと同じような青の水着を着た女の人が、逃げている途中に倒れてしまったような大勢のまま、うつ伏せで倒れているのを、見つけてしまったから。