同行者と引っ掛かる疑問
「…………」
そんな僕の反応に気付いているのか……いや絶対気付いているだろうが、彼女──コハクはジッとこちらを見たまま、何も言ってこない。
「あ、あの……?」
「……水がいるっていうのは、どういうことなの? お姉ちゃん」
ちょっとだけ声のトーンを落とし、真面目な話のような空気を作って、キリーさんへと向き直って、けれども結局お腹の上に座ったまま訊ねる。
……いや、ちょっとショックだったけど。
でも、やらしい目で見てたのは確かなので、こちらがイラッとすること自体間違えている。
「……今、ルーちゃんの病気が治るかもしれないの」
「え……?」
その表情は、驚きに染まっていた。
「ずっと寝てばかりで、今作ってる薬を飲ませて、なんとか誤魔化してきてたけど……これが成功したら、また昔みたいに、一緒に旅をできるかもしれない」
「それは……うん。
良かったね!」
その、妙な反応に……違和感を覚えた。
「だったら、わたしも協力するよ!」
「それは助かる。元々頼むつもりだったけど、コハク自身が乗り気なら嬉しい」
「当然だよ~。だってルーちゃんの病気が治るかもなんでしょ? だったら手伝わないわけがないって!
でもなんで今頃それが分かったの? お医者さんを呼んだとか?」
「ううん。その薬を作ってくれるのが、彼」
そこで再び、僕を見上げてきた。
今度はさすがに、胸元を見ないようにする。
「あ~……なるほど。だからただの人間が一緒なんだね」
「えっと……もしかして僕、歓迎されてない?」
「あ、ううん! そういうことじゃ無いの!
多分、ウチの集落だと歓迎されると思うよ?」
「ってことは、コハクさん個人は歓迎してないってこと?」
「うん」
うっわバッサリ。
さすがにちょっとショック。
というか、こうも真正面からマイナス感情をぶつけられたのは初めてかも……。
……思っていた以上にヘコむな……
「だって、大切な友達が連れてきた人だもん。歓迎しないし警戒するに決まってるじゃん!」
プンスコと聞こえてきそうな可愛らしい怒り方をした後、ようやくキリーさんのお腹の上から退いて、立ち上がる。
「じゃ、早速探しに行こうか。
というか、水属性のものってなに?」
「あ、普通にこの湖の水で大丈夫です。
ただ流れてきてるものとか井戸に引かれてるものだと、他の属性よりも強くないので。
多分、水の純度が関係しているんだと思います」
「純度……ってことは、地下洞窟に行ったほうが良いかも」
倒したキリーさんに手を貸してお越しながらそう答えると、再び笑顔を浮かべて前を歩いていく。
「その、キリーさん」
そのコハクに声が届かない距離の間に、小声で聞きたいことを聞いておく。
「妹とコハク、仲ってあまり良くないんですか?」
「まさか。仲いいよ。
いつも喧嘩みたいなことはしてるけど、じゃれてるようなものだろうし、アレがコハクなりの接し方なんだとも思う。
ルーちゃんもそれは分かってるだろうし、嫌いだなんて話は聞いたこともない。
むしろ、氷の地下室の整備のために来てくれる日を楽しみにしてるぐらい」
でもどうして? と聞いてくるキリーさんに、いえ別に、と笑いながら答えつつ、さっきの違和感について考える。
どこか、妹さんの病気が治ることを歓迎していなかったような、その話を聞いて動揺していたような、あの感じ。
……キリーさんが見ても仲が良かったというのなら、実は不仲、という考えは違うのだろう。
ならどうして……という疑問に、当然答えは出ない。
ただ一応、頭の片隅にでも留めておいたほうが良いのかもしれない。