イザ温泉の中に
ともかく、会話を繋げるように意味の分からないことを言いながら、本能に導かれるまま温泉の周りを歩くよう──その『骨』と距離を取るよう、いつの間にか立っていた自分の足を動かす。
もちろん、目は『骨』から外さない。
視界から外したその瞬間、走って追いかけてきそうな気がしたからだ。
ただ、その狙いは何の意味もなく……その『骨』はガッチョガッチョと聞こえる音を鳴らしながら、ふっつうにコッチに向かって歩いてきた。
温泉へ一直線ではなく、僕に一直線だ。
これは困った。
困ったどころの騒ぎではない。
走って逃げたいところだが、入院ばかりしていた僕が走ったところで、果たして何の意味があるのか。ほんの少し寿命を伸ばすだけで終わりになりそうだ。
と、視界がガクンと揺れた。
ザブン! と大きな音が聞こえたかもなぁ、とか客観的な思考が走る。
水の中に潜った時のようなぐぐもった音。
というか、潜ったのだ。
まさに落ちた。
温泉の中へと。
間抜けだ。
間抜けにも程がある。
でも目の前で今まで見たこともない人型の『骨』と対峙して、いきなりこちらに歩きだしてきたら、こうテンパってしまって落ちてしまうのも致し方ないというものだろう。
「っはあっ!!」
腕と足を無様に動かして、何とか水面(湯面?)から顔を出す。
温泉、と決めつけていたが、もしかしたら足が着かない程底が深い可能性もあったかと思うと、普通に足がつく深さで助かった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
潜ったのは果たして何年ぶりぐらいだろうか。
そもそも泳いでいたのが小学一年生か二年生ぐらいまでだから……まあ十年ぶりぐらいか。
まあ、そんな現実逃避はともかくとして……。
例の『骨』の人が、目の前にいるんですけど。
僕がさっきまで立っていたのであろう場所からこちらを見下ろしている。
……もしかして、助けようとしてくれている……?
「……ふ」
そうだよな……ここは異世界。
見た目がアレでも、言葉が交わせなくても、助けようとしてくれる人(?)ぐらいいて、当たり前だよな。
「僕は、宮紘彰。
よければ、君の名前を教えてくれないか?」
そう、告げながら……僕は引っ張り上げてもらうために、その『骨』に向けて手を伸ばす。
そんな僕を見た『骨』は、手を振り上げた。
剣を握っている方の手を。
「うおっ!」
咄嗟に──熱湯に触れてしまった時と同じぐらいの速度で、手を引いた。
あのまま手を差し出していたら、バッサリと指先ぐらいは切られていたかもしれない。
……ヤベェな……殺意しかねぇ。
いい加減人のヒロインを出したい……!
温泉シチュエーションで女の人出さないはそろそろヤバい気がする……!!