水源の湖
「スゴい……誰も居ない……」
「いないことはない」
思わず出た言葉に、キリーさんが左手側の遠くを指差し否定。
「あっち側に、多分街からの観光客が来てる」
「観光? でもここ、街の水源地なんですよね? 今更何を観るんですか?」
「街に住んでいる人と言うより、街に遊びに来た人が」
あ、そっか。地元の人が観光プランを組み立てて案内しているのか。
「街からここまで、歩いてだと片道二日。
馬車だと一日とちょっと掛かるんだけど、昼頃に馬車で街を出発して、途中でキャンプして野宿。そして翌日にはこの湖について再び野宿。そして早朝になったら川下りをして夜頃には街に戻る、というプランだったかな」
「詳しいですね……」
「一度、ルーちゃんと乗ったことがあるから」
地元民が地元の人が考えた観光プランを楽しむ……果たしてそれは楽しいのか……?
「それよりも、友人に挨拶しないと」
「友人?」
「この湖に住んでいる人たちよ」
◇ ◇ ◇
キリーさんが指差していた方向とは逆側へと、水辺に沿って歩いていく。
多分、街から見て、湖を挟んだ向こう側へと向かっている。
「そこって、村みたいなところなんですか?」
「村……とは言えないかも」
「じゃあ、キリーさん達みたいに一軒家とか?
「そもそも、家という概念がない」
「家という概念がない?」
ただ復唱してしまっただけなぐらい、意味が分からなかった。
「彼女たちの種族は、水の中で生きる種族だから」
「え? 動物とか魔物ってことですか?」
「違う。この世界の人間は、言葉による意思疎通さえ出来れば良い」
「あ……そういえばそうでしたね」
忘れていた。
おそらく、このことを相手にそのまま言うのはいけないことなのだろう。
心なしか、キリーさんの口調が諌めるようなものに感じた。
「とはいえここにいる子達は、外見的には私やルーと同じで普通の人間だけど」
と、何かに気付いたように「あっ」と言ったあと、今度は前を指差す。
「ちょうど前から走ってくるあの子みたいに」
「え……?」
その指先を辿るように視線を向けてみれば……一人の女の子が走ってコチラへと向かってきていた。
……遠目でしか確認できないが……アレは肌色の服……?
いや違う。
ガッツリ水着だ。
青色の、胸と足の付根しか隠さない、ビキニタイプの水着に、腰からパレオを巻いているだけの、薄着の女の子。
その子がこちらに手を振りながら、走ってきていた。