治療の可能性
「…………」
しばらく無言で薬を見た後、グイッと一気に中身を呷った。
昨日、キリーさんが作っていた薬を飲む時も同じような覚悟を見た。
ただあの時は不味いものを飲む前のものだったけれど、今回のは、知りもしない野郎が作った正しい効果が発動するかどうかも分からない薬を飲む、という覚悟なので、また別だろうけど。
「……あ」
キリーさんが小さく声を上げると、妹さんに手を翳し、その瞳を閉じる。
「火と草よ融合し、内なる毒を浄化せよ」
そして、昨日も聞いた呪文のようなものが聞こえたかと思うと、妹さんの身体が赤と緑の二色に輝いた。
「……これって」
「うん。ちゃんと、ルーの中に火と草の属性が宿った」
「やったっ」
思わず、小さくガッツポーズを作ってしまう。
とりあえず、最悪は避けることが出来た。
「味も何もしないし……匂いも……うん。大丈夫。
これ、本当に今まで飲んでたのと一緒?」
「その疑問は尤もだと思う。完成品を見た僕もビックリしたぐらいだし」
キリーさんがどんだけ雑で下手に作っていたのかイヤでも分かってしまった、という意味で。
「でも、例え別のものだったとしても、キリーさんが参照術を使って今までと同じことが出来るんなら、コッチのほうが良いでしょ?」
「……まあ、悔しいけど……うん。
これ飲んだあとに前のやつ飲めって言われても、ぶっちゃけかなり辛い」
ちょっとキリーさんが落ち込んだように見えたけれど、言われても仕方がないものを作っていたのだから庇えない。
それぐらいの異臭だった。
それに実妹でも庇わないということは、その臭いから想像出来る味以上に不味かったのだろう。
「それじゃあこれから、この薬をアンタが作るってこと?
そのためにこの家に置いてくれとか、そういう話?」
「いや……まあ確かに、これはある程度は作るけど、それ以上にやりたいことがあるんだ」
「は? じゃあタダで居着くつもり?」
「……結果的にはそうなるかもしれないけど、でも先に話を聞いて欲しい。
もしそれでも、穀潰しだと思うんなら、それこそ追い出してくれて良いから」
「ふ~ん……で、なによ? やりたいことって」
コレ、と言って、薬と一緒に持ってきた、昨日読み込んだ本を取り出す。
キリーさんが渡してくれた、この薬の作り方も書いていた本。
その、最後の方のページに記された、とある水属性の薬を作る方法。
六ページにも及ぶその、最初のページを開く。
「この薬を作りたい」
「……なに? これ」
「これは……妹さんの病気を、もしかしたら完全に治療できるかもしれない、薬」
姉妹二人の息を呑む声が聞こえた。