そこにあった温泉
という訳で、山登り開始。
「はいゴール」
で、想像通りすぐに到着。
「うわ~……」
そして、そこに広がる景色に圧倒された。
「なるほど……温泉だったのか~」
だから湯気で、だからこの暑さなのか。
湯船の張ったお風呂、という感覚はあながち間違いではなかったか。
温泉があるってことは活火山なのかもしれないけど、多分今すぐ噴火とかではないだろう。
狭い温泉だ。
そもそも温泉がどれだけの規模なら広いのかは、実際の温泉地に一度も行ったこと無いので分からないが、おそらく五人ぐらいが入ったらギュウギュウになりそうな広さは、狭い方だと思う。
いや、実はこれも温泉じゃなくて、湯気が出ているだけのただの水という可能性も……?
なんせここは異世界だし、そういうのであっても何もおかしくはないし……。
なんて考えながら、指を浸けてみると、普通に熱かった。
熱い、といっても、お風呂として入れば熱いという意味で、指を浸けただけで大火傷、という訳ではない。
これなら……ひとっ風呂浴びてから山を降りても良いかなぁ。
ここが異世界ならこの温泉が本当にただの温泉って保証はないけど……。
……もしかしてだけどこれ、俺が勝手に異世界と思ってるだけで──異世界であって欲しいと望んでいるだけで、普通に日本だったりする?
寝てる時に誘拐されてこんな岩山に放置されたとか……?
いやまあこの考えも、温泉に入れるための口実を探してるだけかもしれないんだけど。
……ウダウダ考えても仕方がない。
入るか。
──そう決めたところで、ガチャ、と鉄と岩がぶつかるような音がした。
もしかして誰か来た? と慌てて振り返ったそこには──
──骨が“いた”。
どういうことかと聞かれたら困るが、本当にそうとしか説明できない存在が目の前にいたのだ。
骨が人の形に組み立てられている。
一本一本の骨がちゃんと人骨なのか、それとも人の皮膚や肉全てが溶けたものがそのまま歩いているのか、何もかもが分からない。
分かるのはただ、人を象るよう組み立てられた骨が、鎧やら脚具や腕具を装着し、片手に剣を・もう片手に盾を持つ戦士スタイルで立っていたということだけだ。
「……あ、入浴ですか?」
やっぱり異世界だったかぁ、という思考と、骨が歩くことって日本でもあるのかなぁ、という思考が混じり合い、命の危機が目の前に在るということに意識が回らず、けれども本能だけはソレを感じ取っているのか、変なことを口走ってしまった。
「ははは……いや僕は入浴しようかどうか悩んでいただけなので。
あなたが入るなら入りませんよ? いや恥ずかしいですもんね、混浴なんて」
女かどうかすら分からないのに、我ながら何を言っているのやら。
まさかの主人公の次の登場人物が骨っていうね。
……これ、「ほのぼの」タブは取らないといけないなぁ……やっぱりこういうシーンを入れてしまう