キリーの願い
「……確かに、僕はこの世界の人間じゃありません」
当然、無理やり嘘をついて隠し通そうとする理由があるはずもないので、あっさりと打ち明ける。
しかしそうなると、気になることが出てくる。
「でも、どうしてソレが分かったんですか?」
今、僕の口から発せられている言葉は、僕自身でも分からない言葉だ。
どういうことかというと、話をする意識としてはちゃんと日本語で考えてそのまま口に出しているつもりなのに、自分自身の声を聞くよう意識すれば全く違う言葉が聞こえるのだ。
おそらくこの分からない言葉こそが、この世界の言語なのだろう。
つまり、言葉のせいで相手にバレてしまったということはないはずだ。
「覚えてないの? 下山途中であなたが気絶する前に、別の世界に来て、って自分で話してたの」
「……覚えてない……」
なんじゃそりゃ。
確かに隠し通すつもりがないとは言え、あまりにもダサ過ぎるぞ、僕。
「でも、キリーさんも今まで指摘しなかったじゃないですか。早く言ってくれたら良かったのに」
「言う機会が無かったの。
それに、もしあなたが隠したがってたら、指摘すると一緒に来てくれない可能性もあったから」
「……ん? ということはキリーさん、どうしても僕をここに連れてきたかったんですか?」
「ええ」
それは……。
「……あまりにも不用心じゃないですか?」
そりゃ、魔物から逃げることしか出来なかったり、下山途中で倒れたりと、キリーさんなら対処できて当然の人間だけどさ、僕は。
「確かにそうかもしれない。
ただ妄言を吐くだけの奴かもしれない。
でも、結果的にそうじゃなかった。
だから良いの」
……なんという結果論……行き当たりばったり過ぎる。
「……もしかしてこの世界にとって異世界人って、そんなに珍しくないんですか?」
「私は、話にも聞いたことがない」
「それなあり得ないに等しいこと口走った奴を信じたんですかっ!?」
「それぐらい、切羽詰まってるの」
一度、言葉を切る。
……何となく、雰囲気で察することが出来た。
これから言うのはきっと、とても言い辛いことだ。
もしかしたら、誰にも言ったことがないことなのかもしれない。
「……妹は、多分……このままだと、長くない」
「…………」
なんて言葉をかければ良いのか、分からなかった。
僕はこういう話の対象にされるだけで、こういう話をされたことがない。
だからきっと、口を開いても、ロクなことを話さない。
「何でも良いから頼りたかった。
本当に大丈夫なのかどうかは向かうまでの間に見極めれば十分だとも思った。
……最初は、気絶していたのに、目が覚めてから疲れなくなって、寝なくって、よく分からなくて……でも、それが余計に、異世界人っぽく見えて……だから、妹に会わせて、症状を理解してもらった上で、ここに案内した。
何か、分かって欲しいと思って。
私が、何か分かるかもと思って」
そこまで言って、真っ直ぐに僕を見つめる。
「……あなたは、私の救世主。
私に出来ることなら、何でもする。
だからどうか、妹を……助けて下さい」