お薬の時間
「お医者さんに診てもらってないって……それはまたなんで?」
「色々とあるのよ。色々とね」
悲惨気な空気もなく、あっけらかんと答えるその姿からは、諦めている感じもしない。
もしかしてこの世界の医者は、診てもらうだけでかなりの金額が必要だったりするのだろうか……?
それとも当たり外れが激しいとか……?
僕の世界の中での僕の国では、最低水準以上の人じゃないと医者を名乗れなかったりしたけど、そうじゃないのかもしれない。
それが当たり前だと思って考えるのは止めた方が良いだろう。
「ともかくまあ、今はただ進行を遅くすることしか出来ないのよ」
「でも、知らない病気なんだよね……? それなのに進行を遅らせることが出来るなんて、キリーさんは分かってるってこと?」
「まあね。色々と調べてくれたみたいだし、その判断にあたしも納得してるの。
だから大人しく治療されてる感じ」
「へ~」
「ま、参照術が原因なのは間違いないだろうし」
「参照術……?」
そう言えば、下山している時にも、キリーさんから同じ単語を聞いたような気がする。
もう何日も前のことだから絶対の自信があるとは言えないけれど。
「なに? アンタ参照術も知らないの?」
「いや~、実はそうなんだよね」
この世界では当たり前の学問っぽいけど、異世界人である僕が知るはずもない。この旅の間に学ぶ気も無かったし。
「そんな事ありえるの? こんなに言葉喋れるのに普通──もしかして、参照術も学べないほど小さな頃から病気だった、とか?」
「…………」
初めて、気まずそうな表情を浮かべられた。
それに動揺して、本当のことを言うべきかおちゃらけるべきか誤魔化すべきか悩んでいる間の表情を見られて、勘違いされてしまったかもしれない。
「その──」
「おまたせ、ルー」
おそらくは謝罪を口にしようとしたタイミングで、キリーさんが戻ってきた。
「──は~……」
「え? なんでため息っ?」
「別に」
それで言う気を失ったのか、
「ま、参照術のこと聞きたかったから、お姉ちゃんにでも聞いて」
と突き放すように言った後、シッシッと野良猫を追い払うよう手を払われた。
「……? ん……?」
姉の驚きも無視して、妹さんは彼女が持ってきた小瓶とコップを受け取る。
コップは当然ガラスではなく木製だ。
それは分かる。
それなのに何故か、小瓶はガラスという不思議さがある。
ただその小瓶は、妹さんの小さな手で握り込んでも隠せそうなほどなので、ガラスをコップに加工するには原価が高くなるのかもしれない。
「……ふ~……」
そして、まるで腹でも括るように一つ、大きく深呼吸をしたあと……その蓋を開けた。
途端、部屋に異臭が充満した。
今週中には、主人公がこの世界で出来ることを見つけるところまでは進めたいんですよね~……。
このペースでいけるかどうか……我ながら不安だ。