姉妹の会話
……言われて気付いたけど、僕は入院着のままだった。
この格好で十日以上旅をしていたのだから、めちゃくちゃ汚れているし、何なら下着も着けていないから何か病気だってもらってしまっているかもしれない。
下半身部分とかヤバいかもなぁ……。
「こらルー。そんなこと言わない」
「っていうかお姉ちゃんさ、同じように病気だったからって、見ず知らずの男家につれてくるとかどういう神経してるの?」
「いえ、でも……困ってたから」
「困ってたからで男連れ込むなっての! 全く、あたしに何かあったらどうするつもり?」
「……ごめん」
「だいたいさ、そいつを連れて帰ってくるせいでいつより遅かったんだよね? おかげであたしの薬の時間だって遅れるし」
「ごめん。心配かけて」
「いや、別に心配はしてないけどねっ。お姉ちゃんのことだから死ぬことはないだろうしっ!」
ふんっ! と聞こえてきそうな顔の逸らし方をする。
顔は目に見えるほどは赤くなっていないが、照れているのが丸わかりだ。
……よくよく見てみれば、目尻が少し濡れているようにも見える。
もしかして……。
「なにジッと見てるの? キモ。
ほらお姉ちゃん、こいつ早速あたしにやらしい目線向けてくるんだけど。超怖い」
自分の身体を抱きしめるような動きまでされて警戒を顕にされるが、まあ仕方ないかなぁ、と思ったり。
僕も逆の立場だったら同じこと思うだろう。
でも確かこういう時は……。
……いやでも、僕が思うこの女心って、入院生活でお世話してくれた看護師さんによって磨かれたものだからなぁ……ちょっと違っているかも。
……いやいや、女性の意見の方が正しいはずだ。
こういう時はこう言ってほしかった、みたいなことを過去に言われたことがあるので、その“こう言って欲しかった”を言うことにしよう。
「それは仕方がないよ。
だって妹さん、可愛いんだから」
「は?」
すっごい冷めた目で見られた……。
「仲良くなれそうで何よりね」
「「どこが?」」
奥への炊事場っぽい場所へと向かいながらキリーさんが僅かに微笑みながら言ってくれるが、どこをどう見てそう思ったのか深く追求したいところである。
「私は薬を取ってくるから、二人でちょっと話しといて」
「いやだからこんな人と二人きりとか怖いんですけど?」
「その人、何もしないから大丈夫よ」
「信用度異常に高いけどそれ何なの?」
「ここまで一緒に来た経験則」
「お姉ちゃんがゴリラだから手出されなかっただけの話じゃんそれ」
その妹さんの言葉には返事せず、そのまま奥に見える部屋へと行って、ドアを開く音と共に姿を消した。
裏口から出て、さっき見つけたあの小さな小屋へと向かったのだろう。
そう言えば背負っていた籠が無かったが……薬を取りに行くと言ってあの小屋へと向かったなら、一緒に持って行ったのだろうか。
そこで今から調合するとか……?
「ちょっと」
「ん?」
一瞬、自分が呼ばれたとは思わなかったが、僕しかいないのでそんなはずはない。
「あんたずっと入口にいるつもり? 良いから中に入ってきたら?」
「……良いの?」
「別に。何もしてこないんならね」
正直意外だった。
あんなに強く拒絶しているから、絶対にここから動けないと思っていた──どころか、家から追い出されるかと思っていた。
「それに、言いたかないけど、あたしの能力じゃあアンタを追い出せないし。
そもそもお姉ちゃんがアンタとあたしが話すのを望んでるっぽいし。
だったらまあ、聞いてあげないと。
せめてそれぐらいしないと……」
最後の一言の声は小さくて、まるで自分に言い聞かせているようだった。
妹可愛い(自画自賛