戦いにもならない
響いた鈍い音を思い出せば、それは鉄同士がぶつかるような音に似ていた。
普通のオオカミが剣を喰らって、そんな音を出すはずがない。
おそらく、その歯が剣を受け止めることが出来るほどの強度を誇っているのだろう。
その、刃を咥えている口と鼻の間にある、もう一つの口が開いた。
こんな動物、見たことがない。
「もしかして、これが魔物!?」
「正解っ!」
腕に力を込め、剣を振るう。
もう一つの口が開くことで、咥えていた口の力が弱まったのか、あっさりとその獣──いや、魔物を吹き飛ばした。
しかし器用に、身体を捻って着地し、その魔物はキリーさんと対峙する。
チラりと遠くにいるオオカミを見ると、座っていたのに立ち上がり、こちら睨みつけてくる。
もしかしたら唸っている声すらも聞こえたかもしれない。
その鋭い目つきは、犬に似てるだなんて二度と言えなくなるほど鋭く、恐ろしい。
未だ警戒はしているが、本当にこちらから近づこうとしなければ何もしてこない。
こっちの世界の狼とは勝手が違うのだろう。
それならこちらの世界の人であるキリーさんの言葉を信じても大丈夫そうだ。このまま無視しておこう。
「……まだ、騎士団の討伐の影響があるみたい」
「え?」
「本来なら一匹で襲ってくることなんて無いの。
アキラがあまりにも無防備だからってのはあるかもしれないけど、普通なら数匹で群れを成して襲ってくるものよ」
だからと、対峙した段階で逃げてくれる訳ではないのか、オオカミのようなその魔物は唸り声を大にする。
「それで……えっと、僕はどうしたら……?」
「その場にいて」
「……大丈夫なんですか?」
「むしろ、勝手に動かれたほうが困る」
……確かに。
「そもそも、アキラは何も心配する必要はないの。
だって私、数十匹に囲まれた状態で、うろちょろする相手を護衛にする依頼を受けたこともある程だし」
一瞬、キリーさんの周りが、赤く輝いたような気がした。
「だからまあ、もう終わるから」
言い終えた言葉を理解した。
その頃にはもう、キリーさんは例の魔物に肉薄していて……それに魔物が反応し、前足の爪で彼女に襲いかかろうとした“その足ごと”、オオカミ型の魔物を、縦一閃に斬り裂いた。
う~ん……う~ん……。
なぁんか、我ながら迷走してるな~……。
明日も同じ感じなら、明後日はちょっと休んでもうちょい固めようかな。