下山完了
「病状を?」
ただの温泉水で病状が遅れる……?
浸かることで身体が療養される、というのは聞いたことはあるが……。
「……飲ませるんですか?」
「ええ。
でも、この山の魔物は強いから、年に数回しか来れないのが難点だけどね」
「なんで──ってああ、さっき言ってた騎士団……」
確か、騎士団が魔物を退治してくれたおかげで、山にはほとんど魔物がいないんだとか。
その場で殺すことができないあの『骨』は例外らしいけど。
「その騎士団っていうのは、僕を送ってくれることになっていた街にいるんですか?」
「基本的にはね。ただ街を守っているだけだと、いつか街に向かって大量の魔物が襲いかかるかもしれないからって、大規模討伐をやってくれてるの」
「それって……逆に、魔物からの恨みを買いません?」
「かもしれないけど、そもそも魔物って一括にしてても、魔物同士で協力したりもないからね。
ほとんどが、自分たちの縄張り争いで忙しいのよ。
野生動物との縄張り争いもあるし、街の外は人間の世界よりも苛烈よ」
そうか。魔物、という名前だから、僕の世界でよく言われているものを想像し、勝手に人間ばかりを襲うものを想像していたが、そうではないのか。
大方、騎士団による討伐は、魔物だけではなく動物相手にも行っており、数が増えて人間の縄張りに来ないようにするための、一種の縄張り争いみたいなものなのだろう。
そのおかげで、こうして魔物に襲われることなく移動できているのだから、こちらとしては大助かりだ。
◇ ◇ ◇
そうして、数日かけて下山を果たした。
途中やっぱりというべきか、何度もキリーさんに休憩を勧められた。
だが、今日。
何とか今日中に下山を果たしたいというキリーさんを、大丈夫だから信じて欲しいとこちらが説得するというよく分からない一幕を経て、本当に一日歩き通せるという、自分の本能的な訴えが正しいという証明を無事果たした。
「……本当に平気なのね」
「自分でも不思議に思ってますよ。
つい最近までずっと入院してたんですから」
それが本当なのかどうかを疑われることが無かったのは、ちょっと歩いただけで気絶した前科があるおかげか。
「それだけ元気になれる方法があるなら、是非妹にもお願いしたいわね」
「その方法が分かっていれば、本当に手助けしたんですけどね」
僕自身が何も分かっていないのだから、仕方がない。
「でもまさか、寝なくても大丈夫になるとはね」
逆にこれは新発見だった。
体力が続くだけでなく眠気も来ないからと、少しだけのつもりで──何か異常があればすぐに起こすという条件で、火の番を買って出てみれば、そのまま朝まで起きていられたのだ。
「逆に危ない気もするけど、夜の火の番には役に立ったから、助かったわ」
と言ってはくれるが、キリーさんが熟睡していないことを、僕は知っている。
それに加えて今日一日の徒歩、僕が原因不明の元気さで歩き続けることが出来るのは良いとして、彼女はそういうのが無いにも関わらず、疲れ一つ見せず、ずっと警戒したまま先頭を歩いていた。
本当にスゴい人だと思う。
──と、キリーさんがこちらに手を開いた状態で突き出してきた。
止まれ、という合図だろう。
その指示に従い足を止めると、彼女は腰にある剣に手をかける。
「……もしかして、魔物ですか……?」
「ええ」
段々と坂道がなくなってきて、遠くに森が見えてきた頃だ。
──今日、キリーさんがどうしても下山したいと言っていた理由。
そろそろ騎士団が討伐していた魔物が、再び数を戻してくるだろうと警戒していたからだ。
奇しくも、その予測が当たってしまったことになる。
下山できた~。
まあまだちょっと時間かかってるのは、やっぱり設定厨の悪い部分が出てるよね、っていう。