幻想の中で
──これで最後──
いつもなら、こんな一言を聞いたらすぐに、目が覚めていた。
だけど今は、違う。
意識がある。
黒くて暗い中に漂っているような、けれども同時にちゃんと寝転んでいるような、よく分からない感覚の中……その言葉にただ、耳を傾ける。
──あなたは、あなただけの三つの能力を得た──
男性とも女性とも言えない声。
いや、そもそもそれは声なのか。
頭の中に直接文字として浮かんで、それを“誰かから聞いている”と錯覚しているだけのような気もする。
──あなたの望んだ形で──
身体を起こしたり、目を開けたり、言葉を発したりした瞬間……いつものように覚めてしまう気がして、ただ話を聞いていることしか出来ない。
──だからもう、思い出せたはず──
ああ……そうだ。
思い出した。
僕は以前、ここと同じような場所で、これと同じような声で、ちゃんと言われていた。
こちらの手違いで、そちらの世界では治療できない病気を与えてしまったことを。
その罪滅ぼしに、僕の願いを叶えてくれるということを。
そのために、有利になる能力を三つ、望むものをくれるということを。
だから、僕は願った。
前の世界でやりたいと思っていたことを、別の世界で叶えさせて欲しいと。
そのために、僕は望んだ。
一つは、その行くことになる世界の知識の自動適応。
そして残りの二つを、向こうの世界に着いてから決めさせて欲しい、と。
ただ、世界に行ってしまえば、ここでの記憶はなくなると、注意を受けていた。
だから覚えていなかった。
多分、今思い出したこの内容も、またすぐに忘れてしまうのだろう。
──あとはあなたが、あなたの世界でしたかったことを、この世界で行ってくれればいい──
僕が、この世界でしたかったこと。
元々の世界で、やりたくても出来なかったこと。
病弱じゃなくなったこの身体で……やりたいこと。
──例えそこには、自己満足しかないとしても──
そう……自己満足だ。
だってここで、やりたかったことを満たしたところで、僕が死んだことには、変わりないのだから。
──あなたが望んで向かう世界で、あなたがしたかったことをすればいい──
それでも……僕はやりたかったんだ。
ただ、死んでしまっただけみたいな人生を……少しでも、無駄じゃなかったと、思いたかったから。
例えそれが、別の世界であってでも。
──頑張って。
最後に聞こえたその声は、感情が乗っている。
そう思うのは、僕の勘違いだろうか。
先に主人公の主目的を明かしておく方が良いかなぁ、ということでこんな流れに。
次からは本編戻る感じでいきたいね、うん。