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愚者の剣  作者: うーん、書くの難しい
奴隷境からの脱出
2/4

奴隷として生きるのが楽しいのなら。

「現在より百年前。山彦も届かぬ閑散とした一つの村で、子を授かった妊婦がいた。

 女の姿は一見して普通の妊婦であったが、生まれた子の背中には深い傷のような、黒い紋様が彫られていたそうだ。

何より不可思議だったのが、子の頭には二本の角が生えていたという事だ。


 神が誕生した瞬間であった。


 人々は赤子にシェイク・ド・マクベスと名付け、特別な子供が現れたと深く祝福し、赤子を大切に育て続けた。

 それから三年ほど経ち、マクベスは三メートルほどの大きさに成長し、やがて、マクベスはその人知を超越した力で人々を飼いならして、一つの国を築きあげた。


このような出来事が他に六度起こった。


 マクベスを含めた七人の神たちはそれぞれ一つの国を統治するようになり、自らの生活をより良くするため、身分を分けて管理するという制度を作った。

 自らが頂点である「神」、中間に位置する「貴族」、そして全体の八割を占める「奴隷」として分けた。奴隷の扱われ方はこれを読んでいる者は皆、嫌と言うほど知っているであろう。

 無論私も、嫌と言うほど知っている。救いたいとも思っている。しかし、私にその力はない。せめてこうして、知を書にして提供することぐらいしかできない。


 だから私の書を読み、立ち上がろうとする者がいるのなら、私は知を授け、力になると約束する。


 この状況を変えたくば、ひたすらに進め。

 「貴族」である私は、立ち上がる君たちの力に必ずなる。


 ある程度までのところ、

 所有が人間をいっそう独立的に自由にするが、

 一段と進むと所有が主人となり、

 所有者が奴隷となる。


 未来は君たちに託す。


 フリードリヒ・ニーチェ」



 僕は本を閉じて、目を閉じて。脱糞のへばり付く臭いと、口臭やら汗やらが充満した空気を舌で巻き取り、噛む。

 いつかこの人に会って、一緒に奴隷の皆を救うんだと毎度のごとく、強く決意した。


「エル。また本勝手に持ち出してきたの? 巡回してくる貴族に見つかったら殺されちゃうよ」

「うん、そんなに心配するなジン。こんな糞溜めに入ってくるようなもの好きな貴族はいないさ」

「まあ、そうだろうけど……」


 僕ら「奴隷」は、排便用のトイレが一つだけ取れりつけられた、六畳ほどの牢獄に七人単位で収容されていた。牢獄は班として分けられ、班に一つ薄い草鞋の敷物が配られる。僕らは十七班。

 また、この敷物も酷いものでどれだけ糞まみれになっても、交換なんてしてはもらえない。

 おかげでこの草鞋の下に本を隠しておけば、ばれる心配もないのだが……。


「ねえ、エル。もうここに本を持ち込むのをやめてくれない。そんな紙切れのためにエルが死ぬだなんて嫌だよ」

「まったくー、臆病だよなジンは。だから何度も言っているだろ、ばれることはないんだって。それにな、お前の言ったこの紙切れってのは、俺たち奴隷の唯一の希望なんだ」

「でも、そんな本ばかり読んだって何も変わらないじゃないか」


 ジンは怒りに声を震わせながら、鉄格子から覗く月灯りを悲しそうに見上げた。

 僕はジンの背中にそっと手を乗せる。


「大丈夫。心配すんな。俺が必ずお前を、ここにいる皆を救い出してやるから。貴族も、神も全部俺が殺してやるからさ」

「うん………。」


 ジンは安心したように眠りについた。はやく、ここから助け出さなくちゃ。



  <<  -_- メ  >> 



 朝、チャイムと同時に起こされると、僕らは決まって牢屋の前に整列させられる。

 そこに、貴族の一人が丸い鉱石のようなものを台座に乗せて運んでくる。僕らはそれに手を付けるように命じられ、手を触れると途端に物凄い脱力感に苛まれる。どうやら、この鉱石に体力? を吸い取られているようで、この鉱石が神の主食になっているそうだ。

 これもニーチェさんの本で読んだ知識である。


 この毎朝の恒例行事が終わると、ご飯が配給される。一日に二度しか配給されないご飯は、ぬるい白湯に米のようなどろどろしたものが注がれたものだ。僕らはこのくそまずい飯を5分以内に食べ終えなくてはいけない。

 ここ最近では、こんな事件はなかったようだが、昔5分過ぎても食べていた少年が監視の貴族に連れ去られて帰ってこなかったとか、、、

 そういった迷信とも言い切れない言い伝えのおかげで、僕ら奴隷たちは3分で1回の食事を終えることができる。幸か不幸か、まずい飯も恐怖で味なんて気にならない。


 ご飯を食べ終えた後は【刑務】と呼ばれるいわば肉体労働が課せられる。

 主な労働としては、貴族または奴隷のための食糧作り、いわゆる【農業】というやつだ。

 他には奴隷の子孫を増やすために16歳以上の女の奴隷が主に働かされる性工場【生殖】と呼ばれる労働。この生殖では、下位の貴族が遊戯の一つとして種付けを行っているらしい。僕は16歳以上の女の人に会ったことがないから本当のところはよくわからない。

 ニーチェさんの本にそう書いてあっただけだ。


 そして最後に、僕やジンが属する17班が行う刑務。それが【兵役】と呼ばれるものである。

 この兵役とは、戦争、つまり僕たちのいるシェイク・ド・マクベスの収める国ではなく、他の神が収める国との戦いが起こった際に戦わせる兵士の育成を行う場所である。


 神たちは徐に戦争を起こす。僕たちは戦争が起きた理由もわからず、命をかけて戦わされる。神の駒として育成されているのだ。


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