そうだ、絶海の孤島に行こう
その世界は、魔法と剣術が特に発達していた。
特に剣術、教会で「勇者認定」を受けた者は
悪の権化である魔王を討つ旅に出なければならない。
今まで、様々な勇者が魔王城に挑んだ。
魔王が死ぬと一時街に平和が訪れるが、
魔王は数十年後に生まれて来る。
生まれて来た魔王は討伐された前魔王の
配下に育てられ、やがて成長して
また魔王城を築く。
正に壮大なイタチごっこが繰り返されるのだ。
唯、生まれて来るどの魔王もが
勇猛果敢で極悪非道、と言うわけでは勿論ない。
死にたくない…と思い一計を案ずる魔王もいるわけで。
13代目魔王、エホウ・バザールは考えた。
「私の代の魔物達は三千人、特に強いわけでもなく、
別に優れているわけでもない。それは私も同じだ」
どうしても死にたくない、とうんうん唸って
考えた結果。
「防衛に力を注ぐ」と言うことになった。
この上なく単純だが、別に反論する
理由もなかった。
しかし、ここでまた問題発生。
並みの森などに城を建てては
直ぐに落城し、首が河原に晒されてしまう。
ジャングル、砂漠、…駄目だ。
ジャングルでは湿気と暑さで
果実が腐るし、料理人達が半泣きになってしまう。
かと言って砂漠は暑さで皆熱中症にかかってしまう。
…なら、誰も知らない場所に建てれば良いではないか。
誰も知らなければ魔物達も仕事をさぼって
思う存分遊べるし、魔王も生き延びられる。
そこで早速、絶海の孤島を探索。
「リサーチ コウモリ、ちょっと仕事だ」
眼が妙に発達したコウモリがバサバサ飛んで来る。
「バザール様、久々の仕事ですねえ」
東西に散ったリサーチ コウモリは、
数週間後に地図に載っていない島を発見した。
絶海の孤島、モルモ島。
コウモリの報告によると、
「美味そうな果実が生え、綺麗な山がある」らしい。
現在建っている魔王城を、
瞬間移動が出来る魔物に丸ごと運ばせる。
スパッと窓の外の景色が切り替わり、
見知らぬ景色に早変わり。
「バザール様、良い所っすね」
肩に乗ったゴブリンの若者が話しかけて来る。
ミカンのような、柑橘類のような甘酸っぱい
香りのする樹々の上に早速巣を作った
ブルーオウルの夫婦も同様だ。
ちなみに、結婚三年目である。
「まずはこの島の生態調査だ!」
まずは蜘蛛の一族、アレオプ・エナプが
配下の蜘蛛(1M前後)を探検に行かせ、
島に生えている果実の毒味と持ち帰りを
担当してもらう。
アレオプ・エナプは初代魔王の親戚の
一族で、とある神話では原初の神とされている。
今となっては編み物が趣味のお婆様だが。
「ブルーオウル、早速ですまないんだが
空から写真を撮って来てくれないか」
青い羽を騒がしく羽ばたかせながら、
2羽の梟が上空へ飛んで行く。
バザール自身もこの島の特徴、
噴火しそうな火山が無いか、有毒ガスが
漏れ出てないかなど事細かにチェック。
魔王城を建てた近くの土台も調べ、
岩の性質も調べた。
そして調査後、嬉しい誤算が明らかになった。
川や湖の類が無いと思っていたら、
温泉が湧いていたのだ。
アレオプ・エナプの眷属達が帰還、
6種の果実を持って帰って来た。
「毒味した結果ですね、…非常に美味!」
「緑の果実は独特な味をしてまして
和食に使えそうですし」
「黄色は少し粘り気がありますが
糖度は異常なまでに高いです」
蜘蛛達はどの果実も絶賛、
この日の夕食に出ることとなった。
ブルーオウルの撮って来た写真では、
異常無しと判断。
うきうきしながら全員で食堂へ向かう。
食堂の責任者はリラックス・スライム、
通称リーラ。
粘液状の体故に、体から何本もの手を生やせるので、
ついたあだ名が「速攻のリーラ」と呼ばれている。
「はいどうも、今日は今が旬の!秋刀魚です」
秋刀魚は、モルモ島に来て初日に
獲れた魚である。
半人半漁の魔物達、主に人魚の一族が
協力してくれた。
彼らはエラ呼吸 肺呼吸を使い分けられるので、
正に水陸両用。
そんな彼らの秋刀魚は小ぶりな七輪で
丁寧に焼かれ、モルモ島で蜘蛛が採ってきた
緑色の果実が添えられている。
この島で採れた果実、赤はイチゴ
黄はバナナ、緑はカボス、
オレンジは柿、紫はブドウと名付けられた。
これを名付けた魔物は一晩中名前を考えたらしい。
暇かよ…と思ったがありがたく使わせてもらおう。
ほくほくの秋刀魚を頬張ってご満悦の
魔物とバザールは、各自就寝。
それを、双眼鏡で監視している者がいた。
「殿下、侵入者発見。経過を見ます」
それは、迷彩柄の服を着た少女だった。
持ったトランシーバーから、二人の男の声が聞こえて来る。
「報告ご苦労様」
少女の赤い舌が、唇の上を滑った。
バザール:どうも、宜しかったらブックマーク宜しく
アレオプ・エナプ:評価してくださっても良いんだよ!