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#09【コラボ】番組収録に参加してみた! (1)

【前回までのあらすじ】

夜川さん(ナイトテール)が初回のライブ配信を成功させ、桐子とヒロトも一安心。


10月ということで

高校1年生の桐子たちは文化祭や中間テストと忙しい日々が続いていた。

■□■□香辻桐子Part■□■□


 10月も終盤、ナイトテールのデビューから3週間ほどだ。

 桐子は文化祭とテストで忙しい日々を過ごしていた。

 中学校の頃は存在を聞くだけでも嫌で仕方なかった学校行事だけれど、今は少し違った。

 周りが盛り上がって自分だけがポツンと取り残されているような時でも、河本くんとVチューバーやスマホゲームの話題で話したり出来る。夜川さんとの距離が縮まったのか、桐子の事を気にかけてくれてちょっとした時に彼女から声をかけてくれたりする。

 だから文化祭の準備にも参加できた。『当たり前』で『普通』な事かもしれないけれど、かつて引きこもりだった人間にとっては『勇気』が必要でとても『特別』な事だった。

 文化祭当日はクラスのクレープ屋さんを手伝った。調理室でフルーツを切ったり生地を混ぜたりの裏方作業だ。夜川さんにはウェイターもしないかと誘われたけれど、フリフリの可愛らしいエプロンドレスを着て人前に立つなんて絶対に無理だと断った。リアルとバーチャルは全然違うのだ。


 楽しい行事が終わると、すぐに中間テストが待っていた。

 夜川さんと河本くんは学年トップレベルの成績だけれど、桐子は中の下ぐらいだ。私の成績が悪かったりしたら、きっと二人は気にしてしまうと思うのでテスト勉強を頑張った。ちょっと甘え過ぎかなと思いながらも、苦手な数学は河本くんに教えてもらったりもした。放課後のファミレスで授業のノートを広げて一緒に勉強するなんてアニメの中にしか存在しないと疑っていた。

 『学校が楽しい』と思える日が来るって、中学生の自分に教えてあげたい。


 リアルが忙しかったせいで、ツイッターも封印してVチューバー活動が滞ってしまったけれど、それも明日のテストが終わるまでだ。少し時間が開いてしまったけれど、リスナーさんたちもきっと待っていてくれてる。そう思えば勉強も頑張れるというものだ。


「んっ……んーーー」


 数学のノートから顔をあげた桐子は大きく伸びをする。視界に入った時計は22時を回ろうとしていた。寝不足でテストに挑むなんて無謀はしたくないけれど、あとひと踏ん張りしたいところだ。


「ショコラ先生の配信が終わるまで頑張ろう」


 そう自分に言い聞かせた桐子はスマホでユーチューブアプリを起動し、通知から『ショコラ先生』のチャンネルを開く。


『こんばんわ、生徒たち。ショコラの教室へようこそ」


 濃紫色のスーツをビシッと着こなした女性Vチューバーが、ゆったりと語りかける。水が染み込むような声は夜にぴったりだ。

 ショコラ先生は、先生というだけあって博識でトークの端々に頭の回転の良さがにじみ出ているVチューバーだ。配信頻度はそれほど多くないけれど、毎週の定期配信を欠かさないので、桐子も視聴が習慣になっていた。


『そろそろ中間テストの時期ね。生徒たちは、ちゃんと勉強しているかしら?』

(はい! 今まさに頑張ってます!)


 心の中で返事をしながら、目は練習問題に出てきた公式を追っている。


『勉強が好きじゃない生徒たちも多いみたいね。ふふっ、わかるわ。元素記号を覚えたり堅苦しい文章を読んだりするより、ゲームでモンスターを倒したり友達とお喋りしたり、こうしてネットで配信を見たりしている方が現実を忘れられて楽しいでしょ?』


(うっ……ちゃんと勉強『も』してます!)


 ネット越しに見透かされたようなショコラ先生の言葉に、桐子は止まっていたペン先を動かす。


『でもね、学校の勉強ほど、平等に評価されて結果が出るものって他にはなかなか無いのよ。例えば同じぐらいの実力のプロのイラストレーターさんが二人いたとするわね。二人のイラストを並べてアンケートをとったらちょうど50%に人気が割れるぐらいにしましょうか。そんな二人でも、片方はゲームやアニメのメインデザインをするような超売れっ子で、片方は明日の仕事にも困っていたりするの。平等に評価されているのに、この差が産まれてしまう。もちろんVチューバーや町のパン屋さんだって同じよ』

(そうです! 毎回の配信がめちゃくちゃ面白いのになんでか人気の出ないVチューバーさんとか、いっぱい知ってます!)


 力強く同意する桐子、ノートに書く文字が太くなっていく。


『学校の勉強は違うわね。真面目に勉強して、テストで点数を取れば全員が同じように評価される。これが当たり前の事のように思う人もいるかも知れないけれど、偏見や差別を排して純粋に実力が認められるのってとても稀有なことなのよ』

(偏見や差別……私が引きこもりから抜け出せたのも、勉強して高校に入れたから……)


 ショコラ先生の言葉を噛みしめるように桐子は頷く。自分が引きこもりから抜け出すきっかけをくれたのはアオハルココロちゃんだったけれど、高校に行くための受験勉強という具体的な行動が人生を変えてくれた。


『学生のうちに努力が結果に繋がる達成感と気持ちよさを経験しておきましょう。あなたがいつか出会う、学校の勉強やテストよりもずっとずっと大きな困難に立ち向かう時にその経験が生きるはず』


 目元の熱さをグッと堪えた桐子は、もっと勉強に集中しなくてはと配信を切ろうとスマホに手を伸ばす。


(今は勉強! 続きはアーカイブで)

『さてオープニングトークはこれぐらいに、シークレットゲストをお呼びするわね』

(あっ! 今日はゲスト回だったんだ……ゲストが誰なのかだけ確かめてからでもいいよね)


 気になっては勉強が手につかないと桐子は自分に言い訳をする。誰かに迷惑をかけるわけでもない。


『今回のゲストは今話題になっている新人Vチューバーさんよ』

(新人さんで注目されてる人か、もしかして夜刀蛇姫ちゃんかな? ショコラ先生と同じプロダクション所属だし……)

『ふふっ、生徒たちの中にも正解してる人がいるわね。それじゃ、入ってきてもらおうかしら』


 教室の扉を開けるSEが響き――。


『ちぃっすー、新人Vチューバーのナイトテールだよー』

「ふえぇっ?!」


 桐子の口から驚きの声が飛び出し、荒ぶったペン先がノートを縦断しガタガタの線を生み出した。


(なんで?? 夜川さん?? テスト?? いま話題??)


 大量に産まれた?マークが、頭の中に溜め込んでいた数式を次々に押し出してしていくけれど、桐子は視聴をやめられない。


『今日は来てくれて嬉しいわ、ナイトテールちゃん』

『こっちこそ呼んでくれて感謝感謝ー。でも、ショコラ先生の生徒さんたちは、あたしのことよく知らないんじゃないかな? まだV初めて3週間しか経ってないし』

『そう思って私が紹介文も考えておいたけど、聞きたいかしら?』

『聞きたい聞きたいー♪』


 声を弾ませるナイトテールを前に、ショコラ先生は勿体つけるように一つ咳払いをする。


『数多の奇人変人・アイドル英傑が群雄割拠するVチューバー界に突如現れた新星は友達感覚系JK、ナイトテールちゃん。積極的にリスナーさんと絡んでいく気さくさが魅力よ』

『ふむふむ~』

『そんな彼女がバズったきっかけは独自の目線で語られる恋愛相談。なんとTANTANモデルの朱里さんが、ツイッターで紹介したことで一躍注目の的に。普段はVチューバーを見ていない女性のリスナーさんを中心に大ブレイク中ね』

『あはは、やっばー! そんな風に紹介されると有名人になったみたいじゃん』


 衒いなく笑うナイトテールにショコラ先生も紹介文を考えた甲斐があったと満足気に微笑む。


『チャンネル登録者数は5万人、ツイッターのフォロワーも3万人以上なんだから、Vチューバーとしては十分に有名人って言っていいわ』

『実感ないなー。あたしはただ楽しくて話してるだけなんだけどさ、みんなも楽しんでくれてるなら嬉しいよ』


 ナイトテールの揺れる尻尾がハート型になっている。


『トークスキルに定評があるナイトテールちゃんだけど、どうやって磨いたのかしら? こうやって話していても、とても新人とは思えない落ち着きぶりよね』

『友達と話すのにスキルや度胸なんて要らないじゃん。それと一緒かなー』


 当然だと答えるナイトテールに、コメント欄は〈無理ゲー〉や〈友達いないから〉等の闇で溢れ騒然となっていた。苦笑したショコラ先生がリスナーたちの心の中を代弁する。


『みんなそれが難しいのよね。緊張したり、面白い話題が出てこなかったり、どうしても自然に接することができないわ』

『ん~、自然ってさ、人それぞれだよねー。緊張するのデフォならそれがその人にとって自然だし、面白い話ができるからって友達になるわけでもないっしょ? そもそも無理に砕けた感じにすると絶望的に似合わないよね。ガッチガチに緊張してるとこから見てもらえばいいじゃん』

『ちなみにナイトテールちゃんは緊張する?』

『するするー。もしホワイトハウスで大統領と握手しなくちゃって思ったら、めっちゃ手汗かいちゃう』

『いきなりスケールの大きな話ね。そういう思考の広さを持っているから、リスナーさんも相談したくなるのかもしれないわ。さてと、ちょうどいい前振りになったから本題に入ろうかしら』


 頷いたショコラ先生の声にカチカチっというクリック音が続き、背景が教室から机とソファーが置かれた部屋に切り替わる。


『ショコラ先生の相談室、はじめるわよ』


 学校のチャイム音が響き、ショコラ先生が立ち絵を上下させ入室してくる。


『放課後、悩める生徒たちの相談に私が答えていくコーナー。今回は特別講師として、ナイトテール先生にも来て頂いてるの。一緒に相談にのってくれるわ』


 紹介に続いてナイトテールの立ち絵が、ショコラ先生の横に表示される。


『せんせぇってガラじゃないけど、ガンガン答えちゃうよー』

『ナイトテール先生がゲストだって分かってばかりなのに、恋愛系の相談がもう10通も届いてる。さすが恋愛相談マスターね』

『あたしの配信でお便り読み切れてないからかな。みんな、ごめんねー』


 尻尾をしゅんと垂らして謝るナイトテールに、ショコラ先生は寄り添うように頷く。


『頂いたお便り全部に答えるのは難しいけれど、時間が許す限り二人で考えていきましょう』

『うんうん、知恵熱しぼっちゃうよー』

『それでは最初のお便りは――』


 コーナーが始まった所で、ようやく桐子は先程から一ミリもペンを動かしていないことに気づく。


「勉強しないと……」


 そう声に出してノートに向かうけれど、桐子の意識はフラフラと空中散歩を続けていた。


(明日はテストなんだから勉強を……でも夜川さんだって同じはずなのに大丈夫なのかな?)


 夜川さんが自分よりも勉強ができることは知っている。余計なお世話だろうけれど、気になって仕方がない。


『次のお便りは高校1年生男子からね。[僕は中学校の頃は成績がクラスで1番だったのですが、高校に入ってから成績がかなり落ちてしまいました。Vチューバーさんの深夜配信をリアタイしているのが原因だと分かっているのですが、やめられません。どうしたらいいでしょうか?]ですって。推しをリアルタイムで追っていると、睡眠時間が大変なことになったりするわよね』

 同情するショコラ先生に対して、ナイトテールは快活に笑う。

『あはは、1年生の成績なんてあんまし気にしないで大丈夫だよー。最終的に行きたい大学に入学できたり、希望の就職先にいければ良いだからさ。あっ、でも睡眠不足で身体壊しちゃったらダメだからね。好きなVチューバーさんも追えなくなっちゃうし、自分のせいでそんな事になったって本人が知ったらとっても悲しむと思うよ』

『そうね、私の生徒たちが病気になったりしたら悲しいわ』

『あたしも明日テストだけど、点数とか気にしてないもの』

『えっ、ナイトテール先生?! 配信に出てて大丈夫なのかしら?』

 ショコラ先生の慌てようからして、事前にナイトテールは説明していなかったようだ。

『へいきへいきー。配信終わったらすぐ寝るから。バッチリ7時間睡眠とるもの』

『そうじゃなくてテスト勉強のほうがよっ!』

『勉強より配信のほうが楽しいんだもん。あたしの場合さ、楽しいことしてる方が成績も上がるんだよね。テストなんかのことより、次のお手紙よもっ♪』

『……まあ、本人がそう言うなら仕方ないわね。えっと次の相談は――』

 急かすナイトテールに困惑しながらもショコラ先生はチャンネル主としてコーナーを続けていく。


(ちゃんと勉強しないと……私は夜川さんみたいには出来ないから……)


 聞こえてくる夜川さん(ナイトテール)の声が頭の中で幾重にも反響し、集中しようとする桐子の意識をかき乱す。ノートの上を目が滑り、単純な掛け算すらも間違えるほどだ。

 そんなボロボロな状態なのに、桐子は配信が映るスマホを切ることができなかった。


栄枯盛衰! ネットの流れは早い!

桐子がリアルに心を寄せている間に

ナイトテールが大ブレイク!!

桐子はまだ事態が飲み込めていないようだけれど……。


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