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第二部プロローグ ~君はステージに立っているのだから~

「才能のないやつは惨めだ」

 一語一句、はっきりとしたケンジさんの声がエレベーターホールに響く。


「足掻いて、自分を慰めて、努力だと言い聞かせて人生を浪費する」

 桐子たちだけでなく、控室にいるライバーたちにも届くようなよく通る発声だ。


「軽々とハードルを越えていく才能を前にして、自分は頑張っているのに運がないだけだと現実を認めない」

 一切の仮借ない言葉だ。

 直接桐子の事を言っているわけではないはずだれど、鋭利なガラス片のように、桐子の自意識の贅肉を切り裂き、醜いハラワタを露わにしようとしていた。


「それでも、届かない天を見上げ、虚空を掴み続けたあげく、自分の足が腐って爛れていることに気づかない」

 高層ビルの屋上の縁に立っているかのように、手足の指先から冷え足元が心もとない。


「いいか、この世界の99%は、夢や希望なんて胡乱な言葉に踊らされた哀れな人間の屍の上に成り立っている」

 虫けらでも潰すように、ケンジさんは革靴の先で磨き上げられた床を鳴らす。キュッと悲鳴のような音がした。


「美辞麗句を並べる詐欺師たちのかわりに、俺が断言してやろう」

 ケンジさんは中指でメガネを押し上げる。


「凡人には光り輝く天上の星は掴めない。圧倒的な才能だけが辿り着ける神の庭に、凡人が立ち入ることなど許されていないのだよ」

 力強い言葉からは、揺るぎない信念をはっきりと感じる。社長として人の上に立つ人間の持つ覇気にあてられた。


「もし努力や根性で天才に比肩しうると言うなら、それこそが傲慢だ。特別な才能への侮辱だ」

 吐き捨てるように言ったケンジさんは、軽蔑する相手を思い出したかのように眉間に皺を寄せる。


「凡人が自分に才能があると勘違いして、張り切ったりしたら最悪だ。自分だけじゃなく周りの人間に、豚のエサにもならない幻想を感染させる。最悪のパンデミックだ。みんな仲良く地獄に道連れだ」

 奥歯を苦々しく噛み締め頬を歪ませ、ケンジさんはおもむろに手を握りしめる。


「だから俺は不幸が広がらないように、才能の無い奴には事実を突きつける」

 見つめられたサギリちゃんは怯え、舌がしびれてしまったかのように声を出せないでいた。

 その様子に小さく首を振ったケンジさんの冷たい瞳が、再び桐子を捉える。


「灰姫レラ、才能の絶対的な重要さが君は身にしみているんじゃないか?」

 見透かされた。


「動画100本あげても成果が出なかった君になら分かるはずだ」

 ケンジさんの口角が僅かに上る。

 桐子にはそれが、魂を刈り取ろうと鎌を振るう死神の笑みに見えた。



 ケンジさんの言葉がなんでこんなにも私の心をえぐるのか――。

 ここ数週間に起きた、いくつかの変化が原因なのは間違いない。


 私と河本くん、


 そして新人Vチューバーの彼女のことが――。

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