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#03【VR】人気Vチューバーと禁断のデート?! (5)

【前回までのあらすじ】

過去は捨てられない。

越えていかなければならない。


ついに『アオハルココロ』がヒロトと桐子の前に現れる。

 『彼女』はいつものセーラー服姿で立っていた。

 艷やかなショートカットに、トレードマークの青いハートマークの髪留めが揺れている。

 輝く瞳は少女の快活さだけでなく悪女のような妖艶さを秘め、魔眼のように人々を魅了してきた。

 温かみを感じる唇には蕾が綻ぶような笑みが浮かぶ。そこから発せられた言葉がどれだけの人々を熱狂させたかヒロトは知っている。

 押し上げられた胸元では薔薇を思わせるリボンが咲き、双丘の柔らかさを伝えるように揺れている。

 本物のはダイヤモンドの輝きを放っている。ヒロトが受肉したイミテーションとは違う。


「あれ? なんで河本くんが二人?」


 こちらに気づいた灰姫レラは二人に増えた『アオハルココロ』を間違い探しのように見比べ、不思議そうに首をかしげる。


「そっちは僕じゃない」


 ヒロトの声を聞いて、灰姫レラはムムムっと眉間に力を入れる。


「えっ? だって河本くんがボイスチェンジャーをオンにしたって……あのー、それじゃあ、どちら様ですか?」


 戸惑う灰姫レラに、そのアバターはいたずらが見つかった子供みたいに悪びれもせず笑う。


「わたしはアオハルココロ」

「えっと、なりきりアバターですか?」

「ふふっ、そんなに似てる?」

「はい! 本物そっくりです! アオハルココロちゃんのこともよく知ってましたし、ファンの方ですよね!!」


 同好の士を見つけたのがよほど嬉しいのか、灰姫レラは詰め寄って喜ぶ。


「そう、わたしはアオハルココロの一番のファン。誰よりも、アオハルココロを愛している」


 そのアバターは試すような笑みを絶やさぬままで、ヒロトの方を見る。

 その視線の変化に気づかない灰姫レラは上機嫌に話し続けていた。


「私もアオハルココロちゃんの大ファンなんです!」

「ありがとう。灰姫レラちゃんにそう言って貰えてとっても嬉しい」

「私って名乗りましたっけ? あっ、アバターの上に出て……ない?」


 VRワールドにログインしたアカウントはヒロトが用意したものなので、ユーザー名は【ゲスト】になっていた。


「ツイッターで挨拶したんだけど、忘れちゃった?」


 笑いを堪える『彼女』に、灰姫レラはハッと驚いた顔で口元に手を当てる。


「ええええっ!! わ、私に話しかけてくれてたんですか?! 見落としちゃって、すみません!」


 ねずみ花火みたいに焦って頭を下げる灰姫レラに、『彼女』はもう耐えられないと声に出して笑う。


「あはははっ、大丈夫! ちゃーんと返事はもらったから! それも特別な!」

「???」


 鈴を転がすような声で笑う『彼女』に対して、意味がわからない灰姫レラは頭の上にはてなマークをいくつも浮かべていた。


「いい加減、からかうのをやめたら?」

「こ、河本くん?! どうしたんですか、おっかない声を出して……」


 ヒロトのいつになく厳しい態度に、灰姫レラは不安そうに瞳を揺らす。


「彼女は正真正銘、本物のアオハルココロだよ」

「はっ……ほん……もの?」


 そんな馬鹿なことは天地がひっくり返っても起こらないとでも言いたげな灰姫レラに、アオハルココロは意地悪な笑みを引っ込める。


「直接言葉を交わすのは初めましてだね、灰姫レラちゃん。コラボをお願いしたアオハルココロです。どうぞ、よろしく☆」

「え………………えぇええええええええええ!」


 理解するまでたっぷり5秒あって、灰姫レラは顎を限界まで開けて叫ぶ。


「な、な、な、なんで、何でいるんですか? ここに?」

「たまたまエゴサしてたらこの写真を見つけちゃった」


 アオハルココロが人差し指を左右に動かすと、VR空間内に一枚の画像が表示される。偽ハルココロと灰姫レラ、それにゾンビとエルフの四人が映っているスクリーンショットだ。ついさっき撮影したばかりの画像が『流出』していた。


「灰姫レラちゃんが偽物さんに騙されてないか心配になってきちゃった」

「はわぁわわ! アオハルココロちゃんが、私の心配を! 畏れ多いです! あ、でもこの偽物はクラスメイトの河本くんで、悪い人じゃないんです! 私の特訓のためにやってくれたんです! だから著作権の侵害で訴えないで下さい!」

「特訓? たのしそう! どんなことしてたの?」


 ワクワク顔で聞き返すアオハルココロに、灰姫レラはタジタジと一歩下がる。


「ア、アオハルココロちゃんと、普通に話せるようにです」

「なら特訓は大成功ね。こうやって話せてるもの」


 アオハルココロは自分と灰姫レラを交互に指差す。


「…………はっ! すみませんすいませんすみません、馴れ馴れしく話してしまって! わ、私の方から挨拶に行かなければいけないのに、 アオハルココロちゃん、じゃなかっった、 アオハルココロ様が、こんなクソザコVチューバーの私のところへ、御自ら出向かせるなんて! 大変なご無礼つかまつりました!」


 テンパって土下座でも始めそうな灰姫レラに、アオハルココロは信頼の証とばかりに手を触れる。


「こっちからコラボをお願いしたんだから、わたしが挨拶に来るのが筋でしょ。あとね、わたしのことはアオハルココロちゃんって呼んで欲しいな~」

「畏れおおくて……」

「呼んで欲しいなー欲しいなー欲しいなー」

「は、はい……アオハルココロ、ちゃん……」


 恥ずかしがる灰姫レラに、アオハルココロは嬉しそうに頷く。


「まったく……白々しい」


 ヒロトの刺々しい言葉が、和やかな雰囲気に風穴を開ける。


「河本くん! どうしちゃったんですか? さっきからおかしいですよ!?」

「たまたまエゴサしたのも挨拶に来たのは方便。灰姫レラの前回の動画を見て気づいたんだろ?」


 ふてぶてしい猫でも見るように、ヒロトはアオハルココロを見つめる。


「なーんだ、バレちゃってたんだ。そ、あの動画からはあなたの匂いがした。基本に忠実で、それでいてインパクトがある」


 クンクンと可愛らしく鼻を鳴らすアオハルココロだったが、それぐらいではヒロトは惑わされない。


「よく覚えてたね。昔のことは全部捨てたと思ってた」

「それはわたしの台詞」


 一瞬表情を険しくしたアオハルココロだったけれど、すぐに笑みを取り戻し、『偽ハルココロ』の胸元のリボンに触れる。


「このアバター、懐かしい。この頃はまだリボンがうまく動かなかったね」


 アオハルココロのリボンが動きに合わせて自然に揺れているのに対して、偽ハルココロの方は肌に張り付いたように不自然な動きだった。


「あ、あの……」


 二人の視線が激しくぶつかる横で、ひとり放置されていた灰姫レラがおずおずと手を上げる。


「もしかして二人は……お知り合いだったり?」

「ねぇ、ヒロト? なんで灰姫レラちゃんに教えて上げなかったの?」

「ヒロトって……なんで アオハルココロちゃんが河本くんの名前を知ってるんですか! 教えて下さい!」


 不安で溜まらない灰姫レラが悲痛な声で訴える。


「だってヒロトはね……」


 勿体つけるように言って灰姫レラの方を見る。


「アオハルココロの生みの親だもの」


 感謝でも、恨みでもない。

 カエルの子がオタマジャクシとでも言うように、アオハルココロは灰姫レラに告げる。


「え……親って? ちょ、ちょっと待ってください! アオハルココロちゃんのママって言ったら、イラストレーターの黒井さんですよね?」

「黒井さんがママなら、ヒロトは3Dモデルを作った私のパパ。でも、それだけじゃない」


 ようやく核心が言えるとアオハルココロは微笑む。


「ヒロトがアオハルココロの全てをプロデュースしていたの」

「そんな話……噂でも聞いたことありません!」


 信じたくないとでも言いたげに、灰姫レラは激しく首を振る。


「今の大手事務所に移籍する時にちょっと色々あってね。インディーズ時代のことは全部、封印されちゃったの。守秘義務? NDA? ま、なんでもいっか」


 放り捨てるように言うアオハルココロに灰姫レラは食い下がる。


「まだ、私をからかってるんですよね……」

「いまヒロトが受肉してるアバターが何よりの証拠でしょ。見る人が見れば分かる。あなたもファンなら、『偽ハルココロ』が本物に似過ぎてるって思ったりしなかった?」

「それは……」


 言葉を濁した灰姫レラは縋るようにヒロトの方を見る。


「本当なんだ。僕が中心となってアオハルココロ作り出した。アバターのこととか、騙してごめん」

「あ……私、そんなつもりじゃ……」


 言葉が見つからないのだろう灰姫レラは、そっと顔を背ける。

 ヒロトは引っ掻き回しておいて我関せずとでも言いたげなアオハルココロをじろりと睨む。


「なんで今更、僕の前に現れたんだ?」

「それはもわたしのセリフ。なんで今更、Vチューバー界に戻ってきたの? それもアオハルココロのところじゃなくて、この子のところに?」

「きみには関係ない話」

「関係あるから、こうやって確かめにきたの!」


 険悪な雰囲気の二人の間に、灰姫レラが控えめに割って入る。


「わ、私が河本くんに頼んだんです! プロデュースしてくださいって!」

「へぇ、灰姫レラちゃんから……、ヒロトの過去も知らなかったのに?」


 有り得ないことが起きたと訝しむアオハルココロに、灰姫レラは控えめに答える。


「河本くんはクラスメイトで、Vチューバー好き同士だって判明して、たまたま灰姫レラの配信を見てることが分かって……、それで色々あってプロデュースを頼んだんです!」


 しどろもどろに弁解する灰姫レラを、アオハルココロの視線が値踏みする。


「それでヒロトに才能を認められたんだ」

「才能なんて、そんな! 私の配信が酷すぎて、助けてくれただけなんです! 全部、ただの偶然です!」

「偶然? ヒロトがそんなあやふやなものに賭けるわけない。灰姫レラ、あなたには絶対になにかあるはず……そうでしょ?」


 眼力全開で問うアオハルココロに、ヒロトは肩をすくめる。


「ただのクラスメイトのよしみ」

「そうやって誤魔化す……。わたし達が別れた、あの時と一緒ね。自分だけ全部分かってるみたいに言って……」


 アオハルココロは声と態度の端々に怒りを滲ませる。

 ぶつけたい言葉はアオハルココロにもヒロトにもあるけれど、感情に任せるにはもう時間が経ちすぎていた。

 ただ、事情が分かっていない灰姫レラだけは、彼女の言葉を額面通り受け取ってしまう。


「わ、別れた?! お二人は付き合ってたんですか?! 私がお邪魔ならすぐに消えます!」


 勘違いして走り出そうとする灰姫レラを、ヒロトは手を伸ばして引き止める。


「違うって。僕が中心になっていたアオハルココロのプロジェクトは、インディーズ時代で解散した。一部のメンバーはそのままアオハルココロを引き継いで大手事務所に入って、僕や数人が去ったんだ」

「去った?! あなたがアオハルココロを捨てたの!」

「……どちらだろうと過去は変わらない」


 声を荒げるアオハルココロに、ヒロトは分かり合えないと首を振る。


「重要なのは今だよ。なんで灰姫レラをコラボに誘ったの?」

「あなたを取り戻したいからに決まってるでしょ! アオハルココロにはヒロトが必要なの!」


 見栄や虚勢、嘘偽りを削ぎ落とした真っ直ぐな声で、アオハルココロは訴えた。


「それこそ今更だよ。アオハルココロはVチューバーのトップで、もう十分に人気者。僕が入る場所なんてない」


 自分を卑下したわけではなく、客観的な事実だとヒロトは真剣に答えた。


「違う! 今のアオハルココロじゃダメ! 世界を変えるためには、あなたの狂った情熱が必要なの! 全てを捧げて、全てを破壊しても進む戦車のような狂熱が! 魔法使い(ウィザード)と呼ばれた河本ヒロトが!」


「買いかぶりすぎ。僕は終わった人間だよ」

「そんなことない! あなたは灰姫レラに魔法をかけた!」


 アオハルココロは羨望と怒りの入り混じった声をあげ、灰姫レラを指差す。


「灰姫レラ! コラボ配信でわたしはあなたを全力で叩き潰す」


 突然の宣戦布告に灰姫レラは戸惑い、あわあわと手を振る。


「つ、潰す?! 何をいってるんですか? 私なんて吹けば消えるクソザコVチューバーですよ!」

「違う! あなたは、いままさに燃え上がろうとしている種火!」

「細いローソクですよ!」


 灰姫レラは必死に否定するけれど、アオハルココロは一方的に話を進めていく。


「コラボ配信の最後にわたしとあなた、どちらがより配信を盛り上げたのか審査員と視聴者に決めてもらう。もしあなたが勝ったら、わたしはなんでも言うことを聞く。Vチューバーを辞めたっていいし、這いつくばって靴だって舐めたっていい」

「アオハルココロちゃんが辞めるなんて!」

「リスクマッチだものそれぐらい賭けるのは当たり前。それより最後まで話は聞きなさい」


 ここからが本番だとアオハルココロは息を吸って、ためを作った。


「私が勝ったら、ヒロトにはアオハルココロをもう一度プロデュースしてもらう」

「なに無茶苦茶いって――」

「そんなの、勝手に決めないで下さい!」


 閃光を思わせる灰姫レラの怒声がヒロトの言葉を遮った。

 大人しかった猫が突然牙を向いて襲いかかってきたような衝撃に、ヒロトとアオハルココロは無意識に身体を引いていた。


「私自身が晒されて笑いものにされても、無理難題で炎上させられても構いません……、でも、ヒロトさんに迷惑をかけるなら、このコラボはお断りします!」


 ピシャリと言い放つ灰姫レラに、怯えた様子は一切ない。自分がヒロトを守る番犬だとでも示すように、アオハルココロに立ち向かっていた。


「簡単に断っていいの? 灰姫レラが一気にメジャーになるチャンスじゃない?」

「アオハルココロちゃんとコラボできるのは嬉しいです。大勢に見てもらいたいです……でも、それは『灰姫レラ』を認めてもらってです! 河本くん自身を利用するのは違います!」


 灰姫レラの真剣で熱い信念がヒロトの中に、別の熱を生み出していく。

 一方で同じ言葉がアオハルココロをたじろがせていた。


「本心で言ってるの? 100本も動画を上げてるのに、ランキングは1000位にも届かない……それでもまだ、現実から目を背けて甘いことを言うの?」


 アオハルココロは理解できないと首を振る。


(正しい事を言っているのはアオハルココロの方だ……けど!)


 鎖を引きちぎって飛び出したいと叫んでいる自分がいた。


「いいよ、僕たちはその挑戦を受ける」

「河本くん! ダメです! 迷惑がかかってしまいます!」


 必死に止めようとする灰姫レラは、勝てるなんてまったく思っていないのだろう。

 しかし、ヒロトは違う。


「灰姫レラはアオハルココロに負けないよ」


 虚勢でも、はったりでも、ない。

 ヒロトのことを案じてアオハルココロに立ち向かっていく灰姫レラを見て、本気でそう思った。


「それに僕は灰姫レラのプロデューサーだからね。チャンスに飛び込まないなんてありえない!」

「宝くじの一等賞より低いチャンスですよ!」

「でも、やりたいでしょ? アオハルココロとのコラボ?」

「それは……」

「憧れのままじゃ終われないよね?」


 ニッと笑いかけるヒロトに、灰姫レラが迷いを吹き飛ばすように頷く。


「はい! コラボやりたいです!」


「「そうこなくっちゃ!」」


 奇しくもヒロトとアオハルココロの声が重なった。

覚悟を決めたヒロトと桐子。

コラボ配信に向けて準備を進めていくことに。


次回から#04に突入です!


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