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#03【VR】人気Vチューバーと禁断のデート?! (4)

【前回までのあらすじ】


突発的なVR撮影会を乗り越え、

戸惑いながらも偽アオハルココロ(バ美肉ヒロト)に慣れつつある桐子。


このまま特訓は上手くいくのか?

 灰姫レラ(香辻さん)と偽アオハルココロ(バ美肉したヒロト)はVRの街並み(中世ファンタジー風)を歩き出す。

 情報が多すぎる『デート』だ。さらに言えば『デート』も形だけで、男女の付き合いがあるわけでもない。香辻さんにストレスをかけ、より緊張させるためにヒロトが敢えてデートという言葉を使っただけだった。


「さてと、まずはお名前から聞いていこうかな」

「河本くん、いきなりなに言ってるんですか?」


 真顔で尋ねるヒロトに向かって、灰姫レラは正気でも疑うように眉をひそめる。


「いまからするのはアオハルココロとのトーク練習。『わたし』は本番を想定して話すから、灰姫レラちゃんはそれに答えてね」

「トークといえば『ココロの部屋』ですね! アオハルココロちゃんの巧みな話術で、ゲストの秘めたるキャラが開花したり! あの企画大好きなんです! まさか、私が出演なんてことに?!」

「コラボの内容の詳細はまだ分からないけど、自己紹介的なトークはすることになるはず。灰姫レラはお世辞にも、知名度があるとは言えないからね」

「私、知られてない自信だけはあります!」


 卑屈なのか前向きなのか分からない発言で灰姫レラは胸を張る。


「最初は上手く応えられなくてもいいから。それじゃ、もう一度……お名前は?」

「灰姫レラです!」

「元気いっぱい。年はいくつかな?」

「えっと……16歳です!」

「ということは高校生?」

「はい!」

「何年生?」

「一年生です!」

「部活とかやってるの?」

「やってません!」

「どんな学校?」

「えっと、普通の高校です!」

「方言っぽい感じはないけど、関東?」

「はい、関東です!」

「東京?」

「東京です!」

「はーい、ストップ!」

「はい、ストップです! ……へっ? ストップって?」


 答えてから会話の噛み合わなさに気づいた灰姫レラがまばたきを繰り返す。


「さて、ここで問題です。わたしがストップをかけたのはどうしてでしょうか?」

「えっ……えっ……声が小さかったから?」


 悩んだ末に灰姫レラが絞り出した答えに、ヒロトは手で大きくバッテンを作る。


「ブッブー、ハズレです。今のトークに面白さはあったかな?」

「それは……」


 言い淀む灰姫レラに、ヒロトはさらに圧をかける。


「脊髄反射で答えてるだけだったよね」

「えー、最初は上手く答えなくてもいいって、河本くんが言ったじゃないですか」


 自分では上手く出来てるつもりだったのか、灰姫レラは不満を露わにする。


「トークで何より大切なのは。相手を楽しませようとすること。相手はロボットやテストの答案用紙じゃないんだから、『答え』だけ伝えても意味がないよ」


「で、でも、早く答えないと、相手をイライラさせちゃいます……楽しいより、ストレスになってしまうんじゃ……」

「それは相手がきみと、会話しようとしてない場合だよ」

「えっ……そ、そんなこと……」


 信じられないのか灰姫レラは否定するように小さく首を振る。


「残念だけど、そういう人間は自分の頭の中だけですべてを勝手に決めつけて、自分が欲しい答えを待ってるだけ。そいつは『正解』を知ってるから、なんで早く『正解』を言わないんだってイライラする。はじめから会話する気なんてない」

「…………っ」


 反論できない灰姫レラは悲しそうに俯く。


「ま、そう落ち込むことないよ。灰姫レラが一番やらかしそうな失敗をさせようと、わざと矢継ぎ早に質問したからね」

「うぅ~……意地悪です……」


 ヒロトのあっけらかんとした言葉に、灰姫レラは恨みがましく顔をしかめる。


「楽しいトークは相手の顔色を伺うんじゃなくて、相手を笑顔にする。笑顔になってもらえるように相手のことを考えること。いいね?」

「笑顔……はいっ!」


 噛みしめるように呟いた後、灰姫レラは力強く頷いた。


「と言っても、自己紹介トークでは難しい話。一発ギャグとかお決まりのネタを持ってないと、正直いきなり相手の笑顔を引き出すのはキツイ」

「じゃあ、どうすればいいんですか?」

「誠実に話すしかない。信頼と安心を積み上げていけば、笑顔を引き出せる……かもしれない。万人に通用する方法論なんてないから、こればっかりはね」


 肩をすくめるヒロトに灰姫レラはフフッと小さく笑う。


「『かも』でも十分です。私、諦めが悪いほうなので」

「うん、いい調子。いま話せてるぐらい本番でも喋れればいいね」

「そのために特訓ですね」


 初めの自信なさは薄れ、希望が見えてきたようだ。


「それじゃ、もう一度最初から質問をするよ」

「は、はい」

「お名前は?」

「灰姫レラです! えっと、アオハルココロちゃんの大ファンです!」


 彼女らしい直球にヒロトは笑い声を漏らす。


「いいよ、その調子。好意を伝えられて嫌な気になる人はまずいないからね」

「私も、本物のアオハルココロちゃんに好きだって伝えられたら嬉しいです!」

「そのいきで、次の質問にいくよ。年齢はいくつぐらいかな?」

「16歳です! 都内の高校に通っていて、えっと、最近はとっても学校が楽しいです!」

「へー、いいね。部活とか? それとも恋人とか?」

「実は新しい友だちができたんです。その人もVチューバーが好きで――」


 灰姫レラ(香辻さん)は心の機微に疎くはない。むしろ深く考え過ぎていて、そのせいで暴走したり、明後日の方にすっ飛んでいったりしている。

 上手く力の方向をコントロールできれば、トーク力は飛躍的に伸びるはずだ。

 少なくともヒロトはそう信じていた。


 そして、その片鱗は1時間もすれば見えてきた。



「休日はどうやって過ごしてる?」


 ヒロトの何気ない質問に、灰姫レラは困ったように頬に手を当てる。


「難しい質問ですね。土曜日ですか? 日曜日ですか? それとも祝日?」


 予想していなかった返しにヒロトの方が少し戸惑ってしまう。


「え、違いがあるんだ。えっと、じゃあ日曜日で」

「日曜日はお昼少しぐらい前にベッドから出て、テンちゃん、あっ、飼ってる犬の散歩に行きます。近所に大きめの公園があって遊んであげるんですよ。テンちゃんは砂場とか茂みに突撃して汚れちゃうんで、帰ってきたらお洗濯します。それが、もう大変なんです! テンちゃんお風呂場でテンション上がっちゃって大暴れして、私までびしょびしょに!」


 話しているうちにテンションが上がってきた灰姫レラは、大げさに身振り手振りを交える。


「河本くんはペットは飼ってますか?」

「えっと、僕は飼ったことないかな。灰姫レラちゃんは、やっぱり犬派?」


 ヒロトはテンポを崩さないように慌てて応える。

 状況に慣れてきた灰姫レラは、自分からも話を振れるようになっていた。


「私、猫も飼ってます! ノラちゃんて言って、もともとは家の庭に住み着いた子で、最初はこんなに小さくて、声もぜんぜん出なかったのに、今はマフィアのボスみたいに貫禄があるんです!」


 猫の真似をして厳しい顔になる灰姫レラだった。


「あれ、そういえば、休日のすごし方の話をしてたんですよね? ずいぶん脱線しちゃった気が……」

「大丈夫、話が脱線したっていいんだ。むしろ自分が話せるフィールドに招いて、トークを展開するのはあり」

「よかった~」


 大げさに胸をなでおろす灰姫レラの様子が少し気になった。


「そんなに心配だった?」

「私と喋ると、みんなイライラしてたから……あっ、自分がどんくさいことぐらい分かってるんです! だから、いつの間にか相手の顔色だけ伺って勝手に諦めて……他の人と会話することからも逃げるようになってました……」


 過去のように語る灰姫レラだけれど、今もどうにかしたいと思っているように見えた。


「今は楽しく話せてる。灰姫レラにはトーク力がちゃんとあっんだよ」

「それは河本くんが話しやすいから。話題が尽きないし、私が喋りたいと思っている方に自然と会話を誘導してくれてる。学校で一日中スマホを見ている河本くんから全然想像できな……あっ、私、また失礼なこと言っちゃって」

「気にしなくていいよ。僕は自分で選んだからね」

「自分で選べるのは凄いことだと思います……」


 灰姫レラは自分の胸に手を当てる。

 隣に立っている香辻さんの鼓動がヒロトには聞こえてくるような気がした。

 でも、それはヒロト自身の胸が高鳴っているからだった。


(……踏み込もう)


 ヒロトは決心する。


(失敗したら、この関係が崩れてしまうけれど……)


 先を目指さなくてはならない、たった1つの目的があるのだから。


「灰姫レラはどうしてVチューバーをはじめたの?」


 覚悟して聞くヒロトだったが、灰姫レラは今更なにを言ってるんだと不思議そうに首を傾げる。


「学校が退屈で、刺激を求めてVチューバーとしてデビューして――」

「それは初期設定だよね」

「あ、はい、そうですけど?」

「灰姫レラは殻を破って、中身が出てきた。だったら、香辻さん自身がVチューバーを始めた理由を加えても良いんじゃないかな?」


 ヒロトの言葉に灰姫レラは亀が頭を引っ込めるみたいに露骨に身を固くする。


「私の事情なんて……つまらないです……」

「そんなことないよ。あの号泣配信は結構話題になってる」

「アオハルココロちゃんがリツイートしてくれたから」

「それはただのきっかけだよ。大勢が謎のVチューバー『灰姫レラ』に興味を持ってる。その中身が見たいんだ」


 一歩近づくヒロトに、灰姫レラは迷いながらもその場に踏みとどまる。


「私は……空っぽです」

「空っぽの人間が配信中に泣くわけない」

「……っ!」

「灰姫レラを見た人たちは絶対に知りたくなる! 彼女を形作ってるものを! 彼女が持っているドラマを!」

「…………河本くんは知りたいんですか?」

「この世界でいま一番知りたい。コラボ配信とか関係なく、灰姫レラの動画を100本見たい一人のファンとしてね」


 ヒロトは自信をもって笑みで答える。


「ここでファンだなんて言うの……卑怯です」

「うん、卑怯者なんだ」

「…………しょうがないですね」


 そう言って灰姫レラは小さく笑ってから、呼吸を整えた。


「配信でも少ししゃべりましたけど……私、中学校の2年3年とほとんど学校に行かなかったんです…………」


 灰姫レラはヒロトの反応が見たくないとでも言いたげに視線を外す。


「引きこもりだったんです」


 恥ずかしさや後悔をにじませた灰姫レラは、苦しそうに息を吸う。


「何か理由があって?」


 そんな彼女が溺れてしまはないように、ヒロトは船を出す。


「私、どんくさいから……女子グループの中で浮いちゃって……強めに、からかわれるって言いますか…………」


 声だけでなく身体が震えていた。


「い、いじめ……られてて……最初は頑張って学校に行ってたんですけど……お腹がすごく痛くなっちゃって、それで……一度休んだら……そのまま……」

「学校に行けなくなったんだね。ご両親は?」


 本人が言いにくだろうことをヒロトは言葉にして促す。


「無理に学校には行かなくていいって……元々放任主義って言うか、妹がフィギュアスケートで頑張ってたから、お母さんはそっちにかかりきりで、お父さんは忙しくて……」


 つい先日に香辻家を訪れたときの事を思い出す。玄関や廊下は綺麗だったけれど、生活感が希薄だった。


「私はどこにも行けないから……毎日、家族を見送るだけで……そんなのダメだって分かってたんです。でも、学校に行けなくて……不安で、何かしなくちゃって思ってネットをみたり、絵を書いたりしてたんですけど……不安はどんどん大きくなって、何で生きてるのか分からないぐらい感情がなくなっちゃって……」

「色んな意味で前向きで、泣いたり笑ったり感情表現が豊かな、今の香辻さんからは想像できない姿だね」


 ヒロトの言葉に、灰姫レラは思い出したように俯いていた顔を上げる。


「一番ダメだった時に、私はアオハルココロちゃんに出会ったんです。アオハルココロちゃんはいつも楽しそうにしていて、アオハルココロちゃんだけが私に笑いかけてくれたんです! 不安で真っ白だった私の世界に、アオハルココロちゃんだけが楽しい気持ちを持ってきてくれたんです! アオハルココロちゃんだけが、私を救ってくれたんです!」


 灰姫レラは大好きという言葉だけでは足りない想いの全てを吐き出す。


 それはヒロトの胸の中でも予想外の形で変化を起こしていた。


(無駄に終わったんじゃなかったんだ……ちゃんと届いていたんだ……)


 彼女の感情の一つ一つが身体に染み込んだかのように、ヒロトの身体が熱くなる。

 眠っていた溶鉱炉が動き出したかのように血が沸き立っていた。


(香辻さんに踏み込むつもりが……僕のほうが……)


 画面が滲んでいたけれど、HMDを外せなった。


「やっぱり気持ち悪い話ですよね……」

「そんなことない!」


 不安そうな霧子の声に、ヒロトは思わず大声を出してしまう。


「あっ……何か怒らせちゃいましたか」

「ううん、全然違うから。ごめん、続けて」


 取り繕ったヒロトはこっそりと鼻をすすった。


「アオハルココロちゃんが配信で言ってたんです。誰でもVチューバーになれるって、どんな過去があっても輝けるって。それで勘違いした私は、頑張ればアオハルココロちゃんみたいなVチューバーになれるんじゃないかと思ってしまって……」


 灰姫レラは恥ずかしそうに太ももをすり合わせる。


「でも、友達もいない特別な知識も経験もないクソザコなままの私じゃ、誰かを楽しませることなんてできない。せめて、高校にだけは行こう、もしちゃんと高校に入学することができたら、その時はVチューバーになろうって自分と、あと勝手にアオハルココロちゃんに誓ったんです。迷惑だったかもしれませんけど」

「迷惑だなんてことないよ……誰かの力になれたなら、アオハルココロも絶対喜んでるから……」


 ヒロトの声は掠れていたけれど、灰姫レラは気づかない。


「それで無事に高校に入学できて、Vチューバーを始めました……やっぱり誰かに話すような事じゃないですよね」

「そんなことない……ありがとう。僕の方こそ……」


 耐えきれずにヒロトはHMDの隙間から指を突っ込んで、目元を拭う。


「一度社会からドロップアウトして、またそこに戻るって……本当に大変なことだから。香辻さんにとっては苦い記憶だったとしても、それは『誇り』だよ」

「河本くん……ありがとうございます」


 小さな水たまりが地面に染み込むように会話が途切れる。

 その沈黙は苦ではなく、とても長い時間を共に過ごした後のように自然に感じた。


「誰かとこんなに喋ったの久しぶりです」

「僕も……ちょっと休憩しようか?」

「大丈夫です! 本番に向けて、トークもVRも慣れておかないといけませんから!」

「その心意気は頼もしいけど、僕の方が疲れちゃったから」


 ヒロトが喉を押さえる仕草をすると、灰姫レラは申し訳なさそうに口に手を当てた。


「コンビニで何か買ってくるよ。ちょっと待ってて」

「あ、VR使ってていいですか? 待ってる間に動きとか練習しておきます」

「オッケー。15分ぐらいで戻るよ」


 VRワールドからログアウトしてHMDを外したヒロトは、財布と鍵だけ持って地下室を飛び出した。



 外はすっかり暗くなっていた。家路につく人、これから遊びに行く人、繁華街の外れのここまで騒々しさは伝わってくる。

 VRの余韻で少しばかり頭が重かったけれど、身体には活力が満ちていて、今なら凄いことができそうだ。

 こんな気分になったのはいつぶりだろうかと考える。

 普段なら喉に魚の骨が刺さったような記憶が、今日は過去のものとして冷静に思い出せた。


(香辻さん、フルトラッキングは初めてだって言ったけど随分慣れてきたな。伊達にVチューバー半年で、動画100本もあげてないね)


 表通りに出たヒロトは横断歩道を渡り、コンビニのドアをくぐる。

 買い物かごを手に取り、500mlペットボトルのお茶とコーラを一本ずつ入れる。

 それからお菓子コーナーに寄って、棚を見渡す。最近は見てなかったので名前も知らない新商品のポテチやチョコレートが増えていた。


(手が油で汚れない方がいいから……小分けにしてあるチョコレートとマシュマロ……後はプリンも買っていこう! そうだチーズケーキも!)


 目についたスイーツを次々に放り込んでレジへ向かう。


(こういうの懐かしいな。あの頃はみんなで、深夜のコンビニに買い出しに来て……新商品のカップ麺で盛り上がったりしたな……)


 苦みばしった記憶を、香辻さんが『ただの過去』にしてくれた。


(またこうやって僕が直接Vチューバーに関われてる……、あんな終わり方をしたのに……)


 会計を済ませてコンビニを出ると、涼しい風がヒロトの頬を撫でる。誰かが落ち着けと言っているような気がした。


(大丈夫……あの頃とは違うんだ。僕は灰姫レラを手助けをしているだけだから……)


 調子に乗りそうな自分を戒めようと、ヒロトはその場で屈伸をして腕を回した。



 コンビニの袋を片手に、ヒロトは地下の秘密基地の扉を開ける。


「ただいまー」


 普段は言わない声をかけて中に入ったけれど、少しだけ期待していた香辻さんからの返事は無い。

 スタジオの奥を見ると香辻さんはHMDを被ったままで、まだVRワールドにログインしていた。


「へー、そうなんですか。イチゴ味なんてあるんですか」


 香辻さんは楽しそうに誰かと喋っている。もちろん相手はVR世界にいるので、ヒロトからは見えない。


(人見知りだと思ってたけど……さっそく特訓の効果がでてきたのかな)


 和やかな雰囲気を邪魔するのも悪いので、ヒロトは声をかけずに買ってきた飲み物とお菓子をテーブルに準備していった。


「河本くんは、カレーのお肉は何が好きなんですか?」

「え? カレー?」


 突然の謎の質問にヒロトはプリン用のスプーンを落としてしまう。


「鶏肉が好きだけど、どういうこと香辻さん?」


 振り返って見ると、香辻さんはまだHMDを付けていて、ヒロトの方など見ていない。


(僕を誰かと勘違いしている? そんなことが……)


 胸騒ぎがする。

 大雨の直前に湿気と一緒にアスファルトの匂いが漂ってくるような――。


(まさか……)


 ペットボトルが入ったままのビニール袋を放り出し、急いでHMDを被る。


(そんなはずない……)


 今まで意識したことのなかったログインまでの時間が、やたらと長く感じる。

 その間も香辻さんは『河本くん』と楽しそうに喋っている。


「香辻さん!」


 焦ったヒロトが声をかけると同時にログインが完了する。

 中世ヨーロッパを模したファンタジーな風景が広がる。

 目の前には灰姫レラと、もうひとり女の子のアバターが立っていた。


 その姿をヒロトは誰よりもよく知っていた。


「アオハルココロ……なんできみが……」


 愕然とするヒロトに、アオハルココロは振り返る。

 微笑とともに――。

過去は捨てられない。

越えていかなければならない。


ついに『彼女』がヒロトと桐子の前に現れる。


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