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#03【VR】人気Vチューバーと禁断のデート?! (3)

【前回までのあらすじ】


緊張克服のための試練は

偽物のアオハルココロ(バ美肉ヒロト)とのデート!?

果たして、桐子はこの試練を乗り越えられるのか?

「む、無理です! アオハルココロちゃんとデートなんて! 創生の女神様の隣に並ぶようなものです! 愚かな人間なんて塵になって消えちゃいますって!」


 灰姫レラ(香辻さん)は拝み倒しそうな勢いで言って、お尻を地面につけたままずるずると後ずさる。

 ここまで激しく拒否されると思っていなかったヒロトは大げさに肩をすくめる。


「落ち着いて、中身が僕の偽アオハルココロだよ。そこまで卑屈にならなくてもいいんじゃないかな」

「似すぎてます! 本物そっくりのアオハルココロちゃんが、ガチ恋距離にいるんですよ! 冷静でいろなんて、これはもはや新手の拷問です! 非人道的な行いです!」


 ヒロトが手を貸して立ち上がった灰姫レラは、今にもVR空間の果まで逃げ出しそうだ。さすがにこのままでは特訓にならない。


「はぁ……しょうがない、ボイスチェンジャーは切るよ」


 VR空間にメニューを表示して、ボイスの設定項目を変更する。


「これでどうかな? 少しは発作がおさまりそう?」


 加工された女性ボイスからヒロト自身の声に戻ると、灰姫レラが思いっきり顔をしかめていた。


「なんか嫌です……アオハルココロちゃんから、河本くんの声がするの……」

「嫌なぐらいでちょうどいいよ。特訓なんだからね」


 これ以上こだわりに付き合いきれないと、ヒロトは苦情の受付を打ち切った。


「うぅ……我慢します」


 渋々承諾する灰姫レラに、ヒロトは先が思いやられると小さくため息をつく。

 二人がそんな風に揉めている間に、時計塔広場にいた他のアバターたちがざわついていた。


「あれってアオハルココロちゃん? 本物?」

「本物がいるわけないじゃん」

「でも、すっごい似てるよ。もしかしたらってこともあるかも」


 あからさまにこちらを指差して、話しているケモミミアバターもいる。パブリック空間に突然現れた人気Vチューバーの超そっくりさんを気にするなという方が無理だろう。


「河本くん、その3Dモデルってアオハルココロちゃんの第一世代モデルですよね? 本物のコピーじゃないですよね?」


 注目されるのが気になったのか、話しかけてくる灰姫レラの声のトーンが低い。


「レプリカかな。全く一緒ってわけじゃないよ」


 とぼけるヒロトに、灰姫レラは辺りを伺いながら内緒話を続ける。


「で、でも、肖像権とか著作権とか、よくわからないですけど、アウトなんじゃないですか?」

「大丈夫、ちゃんとアバター名に【偽】って付けてるから」


 そう言ってヒロトは頭の上を指差す。自分では見えないけれど、【偽ハルココロ】と表示されている。


「そういう問題なんでしょうか……?」


 灰姫レラがうーんと唸って首をかしげていると、二人組のアバターが近づいてきた。

 一人は弓を背負ったエルフ女子で、もう一人は継ぎ接ぎだらけのゾンビ女子だ。


「あのー、すみません」


 おずおずとゾンビ女子が話しかけてくる。


「はい、なんですか?」


 ヒロトが愛想よく返事をすると、エルフとゾンビは顔を見合わせる。


「ほら、男だ! やっぱり本人じゃなかった」

「ちょっとゾンちゃん! 失礼だって!」


 確認できて喜ぶゾンビを、目を丸くしたエルフが慌てて嗜める。


「気にしてないから大丈夫。それより、勘違いしてくれてありがとう」

「そのモデル、よくできてるね。まるで本物みたい……」

「あのー、よかったら一緒にスクショして貰えませんか?」


 不躾にヒロトの周りをぐるぐる回るゾンビを余所に、相方のエルフが聞いてくる。


「オッケーですよ」

「ありがとうございます!」

「そうだ、灰姫レラちゃんも一緒に撮ってもらっていいかな?」


 コミュ障を遺憾なく発揮して会話から距離を置いていた灰姫レラの手をヒロトは引っ張る。


「こ、河本くん?! わ、私は……」

「緊張克服作戦はもう始まってる。本物と一緒にいる訓練だと思って」

「わ、分かりました……」


 そう頷いた灰姫レラは、背中に鉄の棒でも通されたかのように姿勢を正す。


「灰姫レラって……あっ、そうだ! アオハルココロちゃんのツイッターで見ました! 今度コラボするVチューバーさんですよね? えっ? まさか本物?」


 エルフに詰め寄られた灰姫レラは、困った様子で手を振り回す。


「わ、私は、違――」

「うん、彼女は本物の灰姫レラだよ」


 否定しそうな気配を感じたヒロトは、本人の言葉を遮ってエルフに答えた。灰姫レラが恨めしげに見てくるが訂正はしない。


「コラボ、楽しみにしてます!」

「あ……えっと……あ……」


 戸惑った灰姫レラは上手い返しができずに、おろおろしている。ヒロトはボイスの設定を、灰姫レラにだけ聞こえるように素早く切り替える。


「応援ありがとうございます、って答えようか」

「お、応援ありがとう、ございます」


 ヒロトの言葉をつっかえながら灰姫レラが繰り返す。


「早くスクショ撮ろうよー」


 カメラを空中に設置したゾンビが、へんてこなダンスモーションで急かす。こっちの人はそれほど興味がないのだろう。


「それじゃ、灰姫レラさんと偽物さんもいいですか?」

「は、はい!」

「オッケーです」


 直立不動の灰姫レラとピースサインをする偽アオハルココロが並び、エルフとゾンビが二人を挟んで立つ。空中に表示されたスクリーンショット用のウィンドウでは四人が並んでいるところが映っていた。


「はい、3・2・1」

「イエーイ!」


 ゾンビの合図でカシャカシャと古風なシャッター音が続く。


「ポーズを変えて、お願いします!」


 エルフの言葉にヒロトはやったーと両手を広げて喜びのポーズをとる。

 灰姫レラの方はどうしようと困りながら、手を目元に持っていく。本人は軽く敬礼しているつもりのようだが、手が完全に目にかかってしまい、性的コンテンツ感を醸し出していた。


「最後は灰姫レラさんと偽物さんで何かあわせお願いします」

「なら、二人でハートを作ろうか」


 そう言ってヒロトは身体を傾けて両手でアルファベットの『C』を表す要領で、ハートの片割れを作る。


「もう半分は灰姫レラちゃんがお願い」

「こ、こうですか?」


 ちょこちょこっと動いた灰姫レラは位置をあわせて、ぎこちなくハートのもう一方を作った。


「とってもいいkawaiiムーブですよー!」


 エルフは上機嫌に言って、スクショを撮りまくった。


「いっぱい撮れました。ありがとうございます!」

「どもでーす」


 ホクホク顔で頭を下げるエルフの横でゾンビはなぜかモンキーダンスをしている。


「もしよかったら、灰姫レラのツイッターに画像送ってね」

「はい! わっかりましたー!」


 ヒロトの言葉にエルフは力強く応えると、ゾンビと一緒に去っていく。二人の会話から、写真を撮れたことを嬉しがっているようだった。


「はぁ……緊張しました~」

「まだ終わりじゃないよ」


 一息つこうとする灰姫レラに、ヒロトはすぐに釘を刺す

 四人の撮影を見ていた別のアバターたちも、期待に満ちた様子で近くによって来ていたのだ。


「あの……僕たちも写真いいですか?」


 猫と犬とピ●チュウがおずおずと二人に話しかけてくる。その後ろにはさらに5人並び、さらにアバターが集まり続けていた。


「もちろんオッケー! わたしと灰姫レラちゃんをじゃんじゃん撮ってね!」

「やったーーー! ありがとうございます!」


 ヒロトがアオハルココロになりきって応えると、並んでいるアバターたちから歓声があがった。


「はぅ……」


 すぐ横の灰姫レラの引きつった顔には、大変なことになってしまった書いてあった。



 突然始まった撮影会、1組10分ほどで1時間かかった。最後は広場に残っていた全員で集合写真を撮影し、お開きとなった。


「今度のコラボ配信見てねー! 灰姫レラの応援、よろしくお願いしまーす!」


 満足顔で去っていく人々を、ヒロトは手を振って見送った。


「やっと……疲れましたぁ~」


 灰姫レラ(香辻さん)はバランスボールから空気が抜けるみたいな大きなため息をつく。二人きりになってようやく肩から力を抜くことができたようだ。


「だいぶ緊張が解けてきたみたいだね」


 いい傾向だとヒロトが喜ぶと、灰姫レラも控えめに頷く。


「そうですね。でも、いきなり撮影会が始まっちゃったのには、かなーり戸惑ったんですよ!」

「ちょうど良かったよね。注目される訓練になって」


 灰姫レラの苦情めいた言葉に、ヒロトは悪びれた様子もなく答える。


「注目といえば、河本くん、ノリノリでしたね。というか、やたらと写真撮影に慣れてませんか?」

「まあ、あれぐらいは……普通じゃないかな」


 探るような視線から逃れようと、ヒロトは時計塔を見上げる。


「ハッ! まさかアオハルココロちゃんのアバターを受肉して、いかがわしいことを……!」

「何を想像してるのか知らないけど、絶対に違うから!」

「必死なのが、また怪しいです……ジーーー」


 全力で否定するヒロトだったが、灰姫レラはまだ疑わしそうにしている。


「ほら、アオハルココロのVRイベントもたくさん見てるから!。 その真似しただけだって!」

「なるほど……私だって、アオハルココロちゃんのVRイベントは何百回も繰り返して見てます。河本くんの動きはそうですね……60点ぐらいですね」


 灰姫レラは推しについての面倒くさい上から目線で言う。ヒロトとしては少々釈然としなかったが、スルーすることにした。


「とにかく、僕はできるだけアオハルココロのように振る舞うから香辻さんはそれに慣れて、灰姫レラとして対応する。これが訓練だよ」

「が、頑張ります……」


 二人きりだと意識してしまうのか、答える声はまるで自信がなさそうだ。


「それじゃ行こうか」


 ヒロトがアバターを移動させると、灰姫レラもそれについて来ようとして――。


「ひやぁあああ!」


 現実の方で香辻さんが、ヒロトに全力でぶつかってきた。反射的に香辻さんを抱き止めたヒロトだったが、踏ん張りきれずにマットに倒れ込んでしまう。


「ぬわぁっ!!」


 地面にぶつかった時だ、手に当たった大きな塊を思わず掴んでしまう。

 布越しにでもはっきりと分かる柔らかな肉感に、五本の指が埋まっていく。


(こ、これは?! ひゃ、ひゃくの?! あ、アレですか?! ひゃくのアレの感触?!)


 圧倒的で間違いのない柔らかさだ。HMDを外さなくても、自分がナニを掴んでしまったのかヒロトには分かった。


「ひぁー! 目が! 目がぐるぐる回って! ここ、どこーーー?!」

「お、落ち着いて、香辻さん!」


 現実とVRの齟齬で平衡感覚を失った香辻さんがヒロトの腕の中で暴れる。

 後ろから抱きしめるような形になってしまっていたため、指が柔らかな双丘に食い込むだけでなく、香辻さんのスカートが捲れ下着がスリスリとヒロトの下半身をこすり続けた。

 VRの中では二人のアバターがもつれあっているだけだが、現実世界では非常に『大変なこと』になっている。


「大丈夫、香辻さんはマットに、というか、僕の上に乗っかってるだけだから」

「えっ、河本くんの上に…………ひゃぁっ! す、すみません!」


 ようやく正気を取り戻した香辻さんが飛び起きる。その拍子に、肘鉄が思いっきりヒロトの鳩尾に突き刺さる。


「ぐふっ……」


 内臓に響く痛みにヒロトは悶える。さっきまでの柔らかな感触と相殺すればプラスだなと考え、なんとか耐えきった。


「だ、大丈夫ですか? 頭とか打っちゃたんですか?」


 HMDに表示されたVR空間では、灰姫レラが心配そうにヒロトを見下ろしていた。


「う、うん……はぁ、もう大丈夫」


 立ち上がったヒロトはHMDを前面カメラモードに切り替える。いつもの地下スタジオの天井を見ながら深呼吸して、心を落ち着ける。


「ごめん、長い距離の移動方法を説明してなかったね。左コントローラーのタッチパッドでアバターが移動させられるから……本当にごめん」

「いえ、こちらこそ。分かりそうなもんですよね」

「あと……とても言いにくいんだけど、またスカートがめくれちゃってる」

「え、どこですか?」


 HMDを着けたまま香辻さんは下半身に視線を向けるが、『そちら』ではない。


「現実のほうね」

「……あっ」


 手探りでスカートがめくれた場所を探し当てた香辻さんは、バツが悪そうにしながら無言で直した。


「えっと……それじゃあ、VR空間での操作とフルトラッキングを組み合わせての練習も兼ねて少し『歩こう』か」

「もう河本くんにぶつかったりしないように、気をつけます!」


 香辻さんはもう心配はいらないとばかりに親指を立てて見せる。


 その10秒後、再び『惨劇』が繰り返されたのは言うまでもない。

突発的な撮影会を乗り越え、

戸惑いながらも偽アオハルココロ(バ美肉ヒロト)に慣れつつある桐子。


このまま特訓は上手くいくのか?



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