第25話:〖反英雄〗
「チェスト様。ジャック=シルヴァースと接触ができました」
忠誠を尽くすかのように言ったのは———タイジだった。
「・・・そうか、それはご苦労だな」
背中を向けた長身の男、チェストは興味なさげに言う。
「なんとありがたい御言葉!」
「・・・で、奴はどうだった?」
「はい。高威力風魔法の1節詠唱に鋭い判断力。さすがチェスト様が目をかけるだけありますね」
「それだけか?」
「は?はい?」
なにを言われたのか理解できず呆けた顔をするタイジ。
「だからそれだけしか使わなかったのか!?」
「・・・はい。その通りです」
おお
しばらく間が空いた後、怖気づいたタイジの耳に笑いが聞こえた。
「・・・ッフフフフッ、ハハハ。そうかそうか。ところで奴は本気だったのか?」
「はい。おそらくは本気でしょう。生徒を人質に取りましたし」
「ほう?それで風魔法の1節詠唱を使わせたのか?」
テェストは口角を上げながら品物を見定めるようにたずねる。
「左様です。【エクスプロージョン】にも冷静に対処していました」
自慢げにタイジが話すと
「それは打消しされたのか?」
一歩チェストが踏み込みんだ質問をする。
「いえ、こちらが範囲と威力を落としたのを理解したのか、よけていました」
「・・・なるほど。例の剣は使わなかったと」
「れ、例の剣とは?」
「お前は知らなくていい。しかし使わせられなかったのかぁ・・・」
「申し訳ございませんチェスト様!」
「・・・ふん」
チェストは黙ってしまった。その表情は考え事をしてるというよりは失望と哀れみを抱いた表情。
ジャック=シルヴァース。このレザリオ帝国で、いやこの大陸で間違いなく5本の指に入る風魔法の使い手。今や帝国の切り札といっても過言ではないのかもしれない。彼の最大の武器はなんといっても固有魔術。その超絶技巧で単騎トップクラスの実力者と謳われるアリス=ミッドフィードの影に隠れてしまっているがおそらく彼こそどんな部隊の誰よりも強いだろう。そう帝国特殊任務部隊の誰よりも・・・。あの固有魔術さえあれば・・・。それでこそ我が敵にふさわしい!私の剣と彼の剣・・・。どちらが上なのかを我が剣を以て証明するのだ!
30年前、隣国のテルーゾ王国との大戦、『ルーサンス戦争』。
今は停戦中だがその戦いで裏で帝国軍にもかかわらず仲間を虐殺、いや敵味方関係なく虐殺を行った狂戦士、チェスト=フロイシア・・・。
しかし20年前、突如として姿を消した彼は新たな玩具を見つけたのだった。
「まぁ、まだ小手調べにも足らなかったな・・・。では小手調べと行くか」
「はっ!チェスト様」
「タイジ君、悪いが君では無理だ・・・エリ。いけるよな?」
チェストは奥にいた女性に声をかける。
「・・・ええ、当り前じゃない」
エリーゼ=フロイシアはほそく笑むのだった。




