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こうして私は「おひとりさま」になった  作者: カラフルスマイル
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こうして私は「おひとりさま」になった

         「おひとりさま」歴を続ける私のお話

 そもそも私は「おひとりさま」になりたくてなったわけではない。


ワイドショーなどで、「おひとりさま」のニュースを見るたびに、私もその1人なのだとちょっと嬉しくない気分になる。まずは、そんな私がどんな人なのか知ってもらおう。

 

 3000㌘で産まれた私はまんまるな珠のような赤ちゃんだった。末っ子ということもあり、幼き頃の写真は姉たちよりもずっと少なく、それでも自由奔放に育った。小学校に上がると足が速いこともあって、運動会シーズンには有名な人となる。人並みに片思いをして、バレンタインにはチョコを作り、渡せず自分で食べる、でも誰かのために何かをしようと頑張ってる女の子だった。

 社会の洗礼を受けるのは中学のころ。いじめというものに遭遇。帰ろうと思うと靴がない、机には落書き、犯人はクラスによくいる少しやんちゃな女子グループ。友達は気にするなというが、気にしないことができるわけがない。3か月ほどした時に、「ちょっと、話がある」と女子グループのリーダーを呼び出す。昔でいうタイマンをはろうとしたのである。相手はきっと、ビックリしただろう。いじめられた理由は、リーダーの好きな男の子と私が仲が良かったからだという。なんて、理不尽な。そもそも、いじめは理不尽なものだ。

 そんな私の小学校の武勇伝説や、中学校の壮絶ないじめの話はまた今度にお伝えするとして、いよいよ私の運命の相手と出会う高校生になる。先だって足が速いことは伝えたが、となるともちろん部活は陸上部。中学校の陸上部を経て、高校も陸上部に入部。高校の陸上部は中学校の陸上部と比べられないほどハードだ。今でこそ、体罰禁止などいわれているが、当時は頭をたたかれるなんて当たり前。休みの日もなくまさしく雨の日も風の日も炎天下の日も走りに走った。ベビーブーム時代なので部員は山ほどいたが、あまりのハードさにどんどん部員が辞めていく。私の取柄は足の速さから粘り強い女子に変わっていた。

 走っている私の前に彼はいつも走っていた。今から思えば、この時から私は彼の背中を見続けている。ある試合の時に何時位に競技場に行くのかリサーチし、待ち伏せしたことがある。

 「今から行くの?」

 「おぅ。そっちも?」

 「うん、一緒に行こう」

 「おぅ」

こんな何気ない会話に、胸がドキドキして張り裂けそうだった。きっと、彼は覚えてないんだろうな。高校時代に2人っきりで話したのは、これが最初で最後だった。高校卒業の日、思い切って声をかけた。

 「一緒に遊びに行かへん?電話してもいい?」

 「いいよ」

彼は、男女かまわず人気があり、いわゆる人気者。私はどこからどう見ても中の下の普通の女子。断られる覚悟だったが、すんなり「いいよ」の返事が聞けて舞い上がった。その日の夜に電話した。私もなかなかの大胆さ。でも今を逃したらもう後はないと思ったのか、人はここぞという時に思いもよらない力が出るものなんだな。当時は携帯なんかなく家電。ドキドキしながら、ダイヤルを回す。お母さんが出る。「ちょっと待ってね」このちょっとが長かった。

 「もしもし」

 「私」

 「おぅ」

この会話から始まり2時間、高校時代話せなかった分を取り戻すかのように話した。

 「長くなってごめん」

 「楽しかったわ」

 「私も」

初デート決定し私はまたまた舞い上がった。当時原付に乗っていた彼とのデートは彼の家の近くの公園。ただ話すだけのデート。それでも私は嬉しくて鏡の前で1人ファッションショーを何度したことか。私は自転車で行き、帰りは彼が私の腰に手を当てて、自転車とバイクの並走。私は映画の主人公になったような気がした。

 「体育大会の時にしてたハチマキいる?」

 「もらっていいの?」

 「汗まみれでぐちゃぐちゃやけど」

 「制服のボタンは売り切れやったのに、ハチマキ残ってるってレア」

 「あるの忘れてた」

 「もらう、ありがとう」

私の宝物が一つ増えた。そのハチマキはピンクで、本当にぐちゃぐちゃで。でも洗ったりアイロンかけたりしないでそのままで箱にしまってる。その方が彼らしい贈り物だったから。彼からの贈り物はいつも私を子ども扱いしているような物だった。TDLのお土産は小さなダンボのぬいぐるみ。誕生日プレゼントはアンパンマンの仲間全種類。彼は私をどんな目で見ていたのかな。友達以上恋人未満。居心地がいいような、物足りないような関係。他にもいろんな女の子と遊びに行っていたらしい。ま、いいか。私たちは私たちの形があって。

 ある日突然、遊園地に遊びに行くことになった。彼は最先端のポケベルを持っていたが私はまだ家電。ポケベル買っておくべきだったと思い知らされることになる。

 「駅の改札口に10時な」

 「わかった。ちゃんときてな」

 「おぅ」

4時間経過。

 「ごめんごめん、用事が終わらんくて。連絡もできひんし。本当にごめん」

 「(泣きながら無言)」

 「とりあえず、行く?」

 「遊園地しまっちゃう」

 「行くだけ行ってみよう」

こうして2人で電車に乗り込む。ひたすら謝る彼。そしてひたすら待っていた私。人生であんなに待っていた人はいない。遅刻はいつもの彼だったから、1時間はいつものこと。でも2時間たって、公衆電話から彼の家電にかける。いない。3時間たって家に帰ろうか、ウロウロし始めた。でも、きっと来る彼をおいて帰れない。3.5時間たって、怒りから悲しみに変わる。もう来ない、そう思うと涙が止まらなかった。周りの人の心配そうな顔が今でも忘れられない。彼も、「待ってるとは思わなかった」と。この日を境に待ち合わせからお迎えに変わった。話は戻り、電車は満員でもみくちゃ。

 「はぐれるで」

 「服持っていい?」

 「ほら(手を差し出す)」

 「うん(手をつなぐ)」

この時初めて手をつないだ。高校卒業から1年がたっていた。彼の手は大きくて指が長くてとっても暖かかった。遊園地に到着。なんと、休園日。2人で大笑いし、悲しい一日が楽しい一日に変わった。

 彼が車の免許を取り、車を購入。近所のドライブ。初めての運転している彼に惚れ直し、助手席から彼の横顔を見つめている。

 「記念に写真撮ろ」

 「写真嫌いやし、嫌や」

 「お願い」

 「今回だけやで」

初めての2人の写真。まだまだ幼い笑顔がそこにある。この写真は私のお守りになり、いつでも財布の中に入っていた。短大も卒業に近づいてきた頃、就職することに不安を覚え、これからの自分をどうすればいいのか思い悩んだ。子どもが好きだったので保育士になろうと短大に通っていたが、勉強するにつれて、責任感ある仕事に尻込みしはじめていた。三食昼寝付きのキャッチコピーに流され、結婚もいいかもなど思い始めていた。しかし時は待ってくれず、就職が決まり、人生の転機を迎える。

 「就職決まったけど、働きたくない」

 「仕事は大変やけどおもろいで」

 「忙しくなったら会う時間減るな」

 「じゃ、いっそ結婚する?」

 「え?」

 「俺、若いお父さんにあこがれてるねんなぁ」

 「私と結婚したいの?」

 「してもいいかなぁって」

結婚してもいいかなと思っていたが、実際そう言われると返事に困った。大好きな彼なのに。なぜ「うん」と言わなかったのだろうか。この時、付き合っていなかったから?まだ20歳だったから?他にしたいことがあった?もし、過去に戻れるならという話はよくするが、私はこの時に戻りたい。そして「20年後もあなたは彼のことが好きだよ」と伝えてあげたい。

 この日以来彼は結婚のことを言わなくなった。私は働きはじめ会う機会が減り、お互いに距離ができ始めた。1週間に必ず3回は連絡をとっていたが、2回になり1回になった。私は心が通じているから会わなくても大丈夫と変な自信があった。結婚の話が出る前から「30歳までにお互いこのままやったら一緒になろう」と話していたから、今回結婚の話が流れてもいずれは結婚するからと、勝手に思い込んでいた。でも彼は違った。今だったのだ。

 彼が家まで送ってくれたあと、ドリカムの未来予想図Ⅱのように(ブレーキランプはむち打ちになりそうだからと)ハザードランプを5回点滅してくれる。はじめは意味わかってしてるのかなぁ、あやしいなと思っていたので聞いてみた。

 「なんで5回か知ってる?」

 「あいしてる、やろ?」

 「知ってたん?」

 「うん」

 「それ私にむかってしてるって意味わかる?」

 「そういう事やん」

私、愛されてたんだな。言葉でうまく言えない分彼は行動で示してくれていた。でも気がつくのが遅かった。仕事の忙しさにかまけて彼との時間はなくなった。忙しすぎて3年で転職を決めた。よし!ホームステイしよう!自分を見つめなおすんだ。と海外に進出することにする。疎遠になっていた彼に連絡を入れる。電話がつながらない。え?家に行ってみる。お母さんが出てきて「あの子結婚することになったの、もう、会わないでくれる?ごめんね」と言った。

 彼が悪いんじゃない。すべては私の自己責任。この時ほど、がーんという言葉が頭に響いたことはない。その後、彼から連絡がきて、会う。

 「結婚するねんて?」

 「そう」

 「30歳になったら私と結婚すると思ってた」

 「お互い相手がいーひんかったらやろ?」

 「そうか」

 「結婚しようって言ってくれてたやん」

 「一回断られたら、次ってなかなか厳しいで」

そうなのか。厳しいのか、知らなかった。私にとって彼がすべてだったのに、こんなにあっけなく終わりはくるもんなんだな。私はオーストラリアに旅立った。語学留学に傷心旅行も加わった。

 オーストラリアでは何もかもが新鮮で、語学大学に通ったり、ダイビングの免許をとったり、今までの自分とは違う世界を感じることができた。この時に一人でも色々楽しめることを勉強したのかもしれない。ホームステイ先のホストファミリーは親切で、おばあちゃんが作ってくれた手作りのハンガーは今でも愛用の1つだ。自分の周りにはいない日本人の仲間達。でも、いつでも、彼の姿を探してしまう。お互いそれぞれの道を歩き始めたのに。日本に戻り就職し、いつもの毎日が始まる。


 そんな時、健康診断で「子宮が奇形ですね。子どもはできにくいかもしれません」と宣告された。え?子ども産めないの?自分は普通の人間で当たり前のように結婚して子どもを産むと思っていた。でも、違った。女性として無能の烙印を押された気がした。この時から、結婚を考えなくなった。いい感じになりそうになると身を引いてしまう。子どもの話から逃げ出したくなる。こんなに子どもが好きで、保育士として働いているのに。自分の子どもは持てないなんて。

 ふと、彼はどうしてるのかなと思った。結婚して幸せに過ごしているのかな、無性に知りたくなった。知っている番号に電話してみる。「おかけになった電話番号は使われておりません」そうだろうな。よし!実家に手紙を送ってみよう。変に疑われないように、文章は吟味に吟味を重ねた。そしてポストの前にたたずむ。えい!投函。後悔よりもやり切った気持ちの方が大きかった。やらない後悔よりもやった後悔の方がいい。

 自分の家のポストを何気なく開ける日々が続く。携帯を見つめる日々が続く。連絡くれるかな、手紙届いたかな。こんな気持ちになるのはやっぱり彼だけなのかもしれない。メールが届く。嬉しくて携帯を握りしめるって本当にあるんだな。久しぶりにご飯を食べようって2人で決めた。

 「久しぶりに迎えに行くわ」

 「家覚えてるん?」

 「覚えてるわ」

何気ない会話なのにドキドキする。この気持ちは特別だな。

 「ついた」

 「今から行く」

今日の私はかわいいかな、変じゃない?何度も、あの頃のように鏡の前に立つ。何回も髪の毛をとかす。  「行ってきます」

久しぶりに会った彼は、髪の毛が少し薄くなっていて、少し疲れている感じがした。でも話すと知っている彼だった。

 「髪の毛少なくなったやろ」

 「若い時に剃ってたしちゃう?」

 「昔に戻れるなら剃るなって言うわ」

 「私も太って変わったし、お互いさま」

 「ご飯残すより、全部食って太ってる方が断然いい」

そうだった。彼はポジティブ人間だった。ネガティブ人間の私には心地よい人だった。まぁるくなった私も普通に受け入れてくれる。

 「結婚生活はどう?」

 「大変やわ、この俺が飯作って、洗濯して掃除してる」

 「変われば変わるもんやな」

 「仕方なくやな、誰かしなあかんから」

私と結婚してたらどうなってたのかな、私は全部してあげたい人やから、彼をダメ人間にしてたかもな。奥さんの文句を言いながらも幸せそうな彼を見て、寂しさ半分嬉しさ半分だった。本音を言えば、もう離婚してて、「お前しかいない」って言って欲しかったけど、そうは問屋がおろさない。この結果を導き出したのは自分自身なのだから。

 「また、陸上部の同窓会企画するから来いよ」

 「楽しみにしてる」

別れ際彼に聞いてみる。

 「私のこと、どう思ってた?」

 「他の女とは違う、特別な存在って思ってた、今もそう思ってる」

 「私もずっと好きやったよ」

今だから率直な気持ちが言える。彼には言えなかったけど、

 《私はこれからもずっと好きでい続けると思うよ。20歳の時に犯した間違いを二度と犯さないように》


 「おひとりさま」って色んな形があると思う。「おひとりさま」が寂しいとか、悲しいとか思わないでほしい。と言ってる自分が一番そう思っているのかも。でも一人ひとり色んな人生重ねてて、結婚して家族を持つ人もいるし、おひとりさまの人もいる。幸せの形って1つじゃないよね。これからの人生どうなるかわからないけど、今の自分を受け入れて楽しく過ごせたらいいな。

 人格に問題あるから結婚できないとか、ないない。結婚できないんじゃないしないって強がってるとか、ないない。でも「おひとりさま」には違いない。これからも私らしく「おひとりさま」歴は続いていく。こうして私は「おひとりさま」になりました。


人生短し。思っていること、やってみよう。後悔しない人生送っていこう。少しみんなに気を使いながら。

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