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教皇暗殺計画  作者: 上総海椰
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3-1 東部からの来訪者

フィアたちがイクスと出会ったその日、東部から一人の男が馬車に揺られながらトラードにやってきた。

トラードの南門から続く人の列は長く続いている。

人々は全く進まない列に苛立ちを感じつつ

些細な言い合いですらそれは喧嘩の火種になりえた。

「ここは俺の場所だぞ」

「あんた、列を離しただろうが」

「少し抜けただけじゃねえか」

長蛇の列の中央で二人の男が順番を巡って口論していた。

「何している」

背後から低い声がかかる。

「こいつが順番を…」

兵士の形相を目にして口論をしていた二人が黙りこくる。

「し、失礼しましたっ」

口論していた二人は一瞬で口論をやめ手を取り合った。

兵士は喧嘩が収まることを確認するとその場から立ち去っていく。


その兵士は列の整理を行っているものだ。

人が多いと列の割り込みなどで喧嘩が絶えない。

トラードの門の前にはいつにもまして長蛇の列がつづいている。

トラードは大陸有数の都市である。もし検閲などしようものなら行列で動けなくなる。

トラードを仕切っていた上は少し前に大規模な入れ替えを行っている。

今回の教皇の警備も昔から警備についている者が数人どうでもいい場所に配置されている。

さらにどういうわけか近隣の街や村にも教皇が来ることが知れ渡っているらしい。

その結果、現場は今までに経験したこともない未曽有の仕事量になる。

教皇がやってくるというのに一体上は何を考えているのか。

この二三日の仕事からくる疲労と苛立ちで彼は気が狂いそうだった。

「お仕事ごくろうさまです」

そんな兵士に果実が一つ手渡される。

「おう、すまんな」

男は果実を受け取る。

果実を渡したのは馬車の御者に座る男。身なりはそれほど悪くはない。

御車にいる男の脇にはローブに身を包んだ女性が座っている。

「それにしてもすごい人だかりですね」

「教皇様が来るってんでその姿を一目見ようと近隣の村や町から人が集まってきてやがるのさ。

まったくそのうちトラードは人で埋まりそうな勢いだ。

何でもここの結界の管理者が交代されたんだとさ。もう魔王なんていつの時代の話だっての。庶民には関係のない話だぜ」

果実を口に入れながら男は不満をこぼす。

「ほうほう」

「あんたらも教皇様を見に来たのかい?」

兵士はその男に問う。

「ええ、教皇様のお姿を一目見ようとジェムラスカから」

「東部のジェムラスカからか、それは長旅だっただろう。

…この通りのありさまだ。明日は教皇様が来るらしいぜ。宿の予約すら取れるかどうかわからないぞ」

「安心してください、知り合いがいますので」

そう言っていると列が少し進む。

「ほらほら後がつかえてる。進んだ進んだ」

その男は一礼すると列を進んでいく。

兵士は果実を道脇に放り投げると再び列の整理に取り掛かった。


一人の男がその馬車の脇に現れる。

男はその男にも果実を渡した。

「計画通り周辺への情報の拡散はうまくいってるみたいですね」

フードをつけた男に小声で語りかける。

「はい。我々の手の者が教皇来訪を奔走したので」

「城壁内の」


「数名が教会に捕まるというトラブルはありましたが、すでに半数ほどはトラードの城壁の中で待機しています」


「…この状況で教会が動くとは意外でした。教会に捕まったモノたちは計画を知っているのですか?」

「計画を知らされていない末端。捕まったモノたちから具体的な計画が漏れることはまずありません」


「それでは引き続き頼みます」

「はっ」

男はそう言うと足早にその馬車を抜いて歩き去る。

「父さん。また仕事の話?」

脇に座るフードをつけた女性が男に話しかける。

「ええ、大事な仕事の話ですよ」



「明日は教皇がこのトラードにくるんですって?

せっかくトラードに来たのにこれじゃ、満足に歩き回れやしないわ」

周囲は人であふれかえっている。

「ハハハハ、エウリには」

男はまるで仮面のような笑みを浮かべた。



イクス達と会った次の日の朝、ヴァロたちはイクスが指定した場所に集まっていた。

かつては食堂だったらしく机と椅子が放置されている。

しばらく使われていないのか少し埃っぽい。

通りから離れているためにその前を通る人影はまばらだ。

皆は机に広げられた地図に目を向けている。

そこには三色のルートが記されている。

「教皇の進行状況を考えると昼少し前にはトラードに着きそうだ。

ルートは地図上の赤のルートだ。打ち合わせ通りヴァロとローはこれを着て西門の上から」


ヴァロはイクスから警備服を渡される。ローは既にそれを着ている。

「私とフィアさんは時計台、ココルとクーナはここの建物の上にそれぞれ待機だ」


「終わった後は?」

「それぞれにここに戻ってきてくれ。明日の打ち合わせがしたい」

後から追いかけようにも通りは群衆で埋まっていて不可能だろう。



「それでパレードの警備のほうは…」

「教皇の周りは既に教皇守護兵たちが目を光らせている」


「私たちの目的は彼らの目の届かない場所からの暗殺の芽を摘むことだ。

あらゆる可能性を想定してくれ。必要なら私やローが聖装隊や近衛兵にも話をつけよう」

イクスは

「ずいぶん警戒してますね」

「警戒もするよ。カランティはここトラードに二百年近くいた。私がカランティならその間に手を打っている。

もし私がカランティならここのトラードの外ではなく手慣れたトラードの中で狙う。根拠としては少し薄弱かもしれないが…」

「いえ、カランティの用心深さは私たちも知っています」

カランティと対峙したヴァロたちだからこそ分かる。

かつて地下でここの結界を止めるためのカギを取りに来た際に

警戒していたフィアですらその策にまんまと引っかかっている。

それこそ鳥に来ることをを想定して動いていた。

何十年も昔に計画を練り上げて、必要ならば躊躇いなくその計略を打ってくる思い切りの良さもある。

怖ろしい存在だとも思う。

「カランティならこの好機を決して逃がさないでしょう」

フィアの言葉にイクスも頷く。

「イクスさん、教皇の警備状況を教えていただけませんか?」

イクスは少し考えた後、思い切ったように口を開く。

「教皇が聖都を出る場合、教皇の周りには常時十本以上の魔剣とその使い手たちがつくことになってる」

イクスの言葉に誰もが唖然とする。魔剣の本数はその国の軍事力に等しい。

魔剣が十本以上となればその軍事力は大国に匹敵すると言われている。

それこそ仮に一国の軍が戦争仕掛けてきてもそれを返り討ちにするだろう

言い換えれば教会側はそれほど問題視しているとも言いかえることはできよう。

参考までにフゲンガルデンのあるマールス騎士団領の魔剣の所持数は七本である。

もちろんヴァロの持っている魔剣を除いてだ。

「イクスさん」

フィアはイクスに小声で話しかける。


話し合いが済むとそれぞれ割り当てられた場所に向かう。

教皇がやってくると群衆が知れば道は群衆で埋まってしまう。

その前に移動しておく必要があった。

フィアはイクスに駆け寄る。

「イクスさん、まさか教皇印を持っているとは…」

「今回私は教皇の代理で来ている。これで少しは信じてくれたか?」

「はい」

フィアは頷く。

「改めて宜しく頼むよ」

イクスは手を差し出してくる。

「こちらこそ」

差し出された手をフィアは握り返した。

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