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教皇暗殺計画  作者: 上総海椰
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1-2 北の地での話

ミョルフェンに連れられヴァロたちはその屋敷の中を歩く。

内装は大分変わっているものの建物自体は一年前にヴァロたちが訪れた時と変わらない。

正直なところヴァロにもフィアにもあまりいい思い出は無い。

ミョルフェンと言う聖堂回境師はフィアたちをひきつれてその部屋までやってきた。

部屋に入り、席に着くとミョルフェンは話を切り出してきた。

「ミョテイリで魔族が暴れたと聞いて心配した。

フィアが向かったあと、ミョテイリの結界ごと城壁すら壊す魔族が現れたと聞いて早馬を走らせたんだ」

魔族のミョテイリ襲撃の事件は選定会議後起きた事件である。

氷の都ミョテイリで魔族が暴れその城壁ごと結界を破壊したという事件だ。

北の地ではその話とラムードの一件で相当混乱しているという。

ミョルフェンは本気でフィアのことを心配してくれていたらしい。

「心配してくれてありがとう。私は大丈夫」

「…それとその件について先ほど一報が入った。クーナ、ヴァロ、少しフィアと二人で話をしたい」

ミョルフェンの声にヴァロとクーナは頷く。

ミョルフェンは人払いをするとフィアを連れ二人外のテラスまで歩いていった。


トラードの街並みがそのテラスから見渡せた。

赤く色づき傾いた日がトラード全体を照らす。

風が頬をかすめていく。外部の音は遮断されているようで外の音は全く耳に入ってこない。

テラスに出たところで

「ミョルフェン、ポルコールさんはひょっとしてミョテイリに行ってるの?」

二人きりになったのを見計らいフィアは切り出す。

「ああ、ポルコール様は今その情報収集で忙しい。さらに聖滅隊の面々には待機命令が下りていて参加できない」

ポルコールという魔女はミョルフェンの師だ。現在結社テーベの長を務め、その傍らハーティア聖滅隊の隊長をかねている。

カーナ四大高弟にして魔女社会において五指に入るほどの実力者。

「ここだけの話、なんでもフィリンギの地で魔族同士の戦闘があったらしい。

とてつもない魔力による爆発がフィリンギの地で何度も観測されたとか。

聞けば『エルピエックの矢』も使われたらしい。あの『神槍』をもつ魔術王もその戦闘に関与しているという噂もある。

極北の地での出来事にそれぞれの結社は神経をとがらせているよ。情報収集に長けた者を調査のために北の地に派遣しているという。

教会側も情報収集に躍起になっているという話だ」

フィアは苦笑いを浮かべる。『オルドリクス』との戦闘はそこまでの大事になっていたらしい。

ちなみに『エルピエックの矢』と言うのはドーラの使った星落しのことだ。

『オルドリクス』に向け放たれた極大級攻撃魔法。

都市破壊級魔法であり、現在禁呪中の禁呪とされているらしい。

それが極北の地で使われたということでその話題でもちきりだとか。

「とはいえフィリンギの地でできた出来事だ。全貌を知ることは難しいだろうがな」

フィリンギの地は不干渉地帯でもある。

もし国家が何かしら軍事介入しようとすれば、幻獣王フィリンギ、魔術王ヴィズルを敵に回すことになりかねない。

そうなれば国家ごと滅ぼされる可能性もある。

一昔前、北の地の領土と豊富な地下資源をもとめ一軍を派遣した領主がいたが、その寒さと魔術王個人の前に壊滅したという。

それ以後極北の地は大陸において人の手のおよばない不可侵域となったといわれている。

「ここだけの話だが、なんでも異邦の『爵位持ち』が関わっているいう話だ。

『爵位持ち』と言えば異邦において最強の戦士と聞く。その一個体の力は教会の定める魔王すら超えるという。

一個体が人間界に侵入し、敵対したのならば人間界は未曽有の混乱に陥れられる」

「…そんなことが」

フィアは冷や汗をかきながら微笑む。実際の話はそれどころの話ではなかったのだが。

ミョルフェンに北の地の一件をこの場で話してもとても信じないだろう。

なにせ第四魔王ドーラルイ、魔術王ヴィズル、さらに『爵位持ち』五人にそのうち一人は伝説の『聖剣喰い』のヴァキュラが関わっているのだから。

全員が伝説級の怪物たちである上に、そんなものたちが手を組み魔神に立ち向かったという与太話など誰が信じるものか。

もし信じられたとしても、現役の聖堂回境師が魔族、魔王と手を組んだと知られれば、大問題である。

「とにかく何かあれば知らせるよ」

「ええ」

黄昏色に染まる夕陽が二人の顔を照らす。

ミョルフェンは覚悟を決めて息を吸い込む。

「フィア、任命式が終わったあとなんだが、よければしばらくここに滞在しないか」

ミョルフェンは思い切ったように話を切り出してくる。

「私も就任したばかりで日が浅い。まだまだ知らなくてはならないことが多い。前任者もあの通りで引継ぎがほとんどされてないんだ」

フィアのトラードの結界の封印作業は見事だった。私では一人であそこまでうまくこの結界を封印できないだろう」

ここトラードの聖堂回境師であったカランティは反逆者となり追われる立場になった。

ミョルフェン一人では心細いというのが正直なところだろう。

「聖堂回境師として先輩であるフィアに教えを請いたいんだ」

ミョルフェンはフィアを真っ直ぐにみつめる。

「ごめんなさい。今フゲンガルデンにいるのはヴィヴィ一人だし、さすがに半年以上フゲンガルデンを留守にするのは…」

フィアはすまなさそうに頭を下げる。

「我儘を言って困らせてすまない」

「こっちこそ力になれなくてごめんなさい」

お互いに頭を下げる。それがおかしくて、二人は吹き出す。

「今日は来てくれて本当に嬉しいよ」

「私もミョルフェンに会えて嬉しいわ」

二人は昔からの友人のように語り合う。

「もう少し語り合いたいところだが、この後予定が入っていてな。式が終わるまで時間をさけそうにない」

「任命式必ず見に行くから」

ミョルフェンは微笑んでテラスを後にする。


「ヴァロ・グリフ」

立ち去ろうしているミョルフェンからヴァロは突然声をかけられる。

「はい」

「フィアのお気に入りみたいだな。お前のことを馬鹿にされて選定会議であの温厚なフィアが怒っていたよ」

「怒っていた?」

ヴァロには初耳である。

「フィアを護ってくれ」

どんと胸に拳を軽くぶつけるとそのままヴァロたちの前から去って行った。


任命式まであと三日。すべては何事もなく順風に進んでいるかに見えた。

今回は極北の地での戦闘の彼女たちのとらえ方でした。

ドーラさん、大暴れだったなあと今更ながら。


魔王戦争編と言っていますが、実はその題はふさわしくないっす。

どうふさわしくないかは読み進めていけばわかると思います。

よろしければお付き合いください。

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