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教皇暗殺計画  作者: 上総海椰
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エピローグ 夜の始まり

トラードの聖堂回境師任命式より二カ月後。

リブネントより東にある山間部のシバト領にてそれらは結集しつつあった。

門の前には魔族の見張りが立っていた。

エウリたち一行は一礼するとそれを素通りしその門の奥に進んでいく。

門を越えてしばらく歩くと何百人もの人影がある。

その中には人も魔族も交じっていた。

従者たちから旅路の間に父の属した組織、エトラ魔族同盟の話は聞いていた。

人間界の魔族が結成した組織だという。

ここにいる者たちは今日の決起の時のために集まってきた者たちだという。

「あなたがホエラニードの御子息のエウリ殿か」

他の魔族よりも一回り大きい男がエウリに声をかけてくる。

ダールの声に周囲の注目がエウリに向く。

「私はダール。人間界にいる魔族を指揮する者だ」

エウリはその魔族の前に頭を下げる。

ダールと言うのはエトラ魔族連盟の中でも上位に位置する者だという。

「北の地の混乱があったためにどうにかここまでやってこれました」

二つの太陽事件。北の地で魔族同士の大規模な戦闘が行われたらしい。

噂では異邦もそれに関わっているという噂だ。

長い沈黙を異邦が破ったことにより、大陸中の領主や機関はひどく緊張しているという。

それぞれの諜報機関はその出来事の調査で北に向かったという話だ。

その上トラードで任命式があったために人手不足だという。

そのためにこちらの方は手が薄くなっているのだそうだ。

「ホエラニード殿はやはり…」

「…先日、教会の刺客に討たれました」

エウリは無表情でその事実を淡々と告げる。

「惜しい人を亡くしたな」

「…ありがとうございます。亡き父も浮かばれると思います」

エウリは再び頭を下げる。

「カタキは取りたい。だが今は個人の情に流されるべき時ではない。決起の時だ」

ダールの目には強い光があった。

「エウリよ。ホエラニード殿の席についていただけるか」

「私がエトラ魔族連盟の幹部に?」

その男は首肯する。

「お父上には人望があった。その御子息であるあなたがついたとなれば、他の者たちもあなたに従うでしょう」

それを受ければ引き返すことはできない。

エウリの脳裏に優しかった父の顔が浮かんだ。

(父さん、これで間違えていないよね)

エウリは顔を上げるとダールのその提案を受け入れた。

「父の代わりにその役を務めてみせましょう。必ずやこの地に魔族の理想郷を」

エウリの言葉に一斉に拍手喝さいが贈られる。

その数は数百は下るまい。


「話は聞かせてもらいました。あなたがホエラニード殿の後任ですか」

エウリが振り向くとそこには数人の女性とともに一人の女性が立っていた。

魔女だと一目でわかる独特の風貌。

口元には怪しい笑みが途切れることはない。

「あなたは?」

「この方は『真夜中の道化』を率いるカランティ様だ」

「この方がトラードの聖堂回境師の!!これは失礼しました」

ダールが横でそう小声で話すとエウリは電撃が走ったように硬直し、頭を下げた。

それを見てカランティは満足そうな笑みを浮かべる。

「ヒョヒョヒョ、元ですがね。あなたのお父様にはずいぶん世話になりました。

今回の一件も本来ならば我々が動くはずのところを任せてしまいました。

我々は顔は割れている上に今は大事の前のために動かせる人間が限られていた。

本来ならばトラードを包囲し、攻め落とす計画でしたが、我々の都合で」

「いえ…父が教皇暗殺を達成できず申し訳ございません」

「ヒョヒョッヒョ…あなたを責めているわけではありませんよ。むしろ無茶を言ったのはこちら。

私の立てた計画に巻き込んでしまいました。

今回の件も含めホエラニード殿には生前世話になりました。

何かあればこの私におっしゃってください。できる限り力になりましょう」

「ありがとうございます」

「では失礼。大事な会議に遅れますので」

カランティたちはダール達に背を向けると去って行った。

「我々も急ぐとしよう。エウリ、ついてきなさい」

ダールの言葉に従い、エウリはそのあとに続く。


円卓には十数人の幹部が集められている。

エウリはダールの背後に立ちその会議に出席することになった。

「死霊兵団は戦いながら補充していけばいい」

「屍飢竜よりはその点では有用か。いささか見栄えはしないが」

会議の真っ最中らしい。エウリには何のことかわからない。

一人の玉座に座った子供の前でダールは一礼し、自身の席に着いた。

エウリもそれにならい一礼するとダールの脇の席に着こうとすると玉座の子供がエウリに対し声をかけてくる。

「小娘、お主がホエラニードの後任か。名は?」

子供の一言でその部屋のざわめきが一瞬で静まり返る。

「ホエラニードの娘エウリと言います」

頬杖をつきながらエウリを見ていた。

中央の席に座るのは一人の子供のはずだ。

だがその存在感の前にひれ伏さずにはいられない。

信じられないが、その子供の名はかつて滅びたはずの第五魔王ポルファノアだという。

「ホエラニードがここにいないということは教皇の暗殺は失敗したのだな」

「はい。申し訳ございません。父に代わり謝罪させていただきます」

エウリは深く頭を下げる。

「構わん。これから教皇の首などいつでも取れよう」

傲慢に不遜にポルファノアは声を上げる。

エウリは胸をなでおろし席に着く。

突如、圧迫感がエウリを襲う。まるで海の底にいるような感覚。

エウリ達の背後から一人の金色の翼をもったものがその場にやってくる。

頭は鳥で右に眼帯をつけている。

身長は高く、引き締まった体をしている。

「ツアーレン殿」

ダールが声を上げる。エウリは耳を疑う。

それは教会ですら手出しすることのない大陸に六人いるという幻獣王。

その者の名は幻獣王ツァーレン。『天空王』の異名を持つ者。

東部の天空塔にいるはずではなかったのか。

一睨みでその場にいたモノすべてが押し黙る。

明らかに格が違う。エウリはそう感じずにはいられない。

「わしにはわしの思うところがあってここまで来た。わしのやり方に口をはさむなと言っておくぞ?」

「よい、ルアーレン殿の好きにするとよい。ツアーレン殿は私の客人だ」

ポルファノアからは幻獣王に臆する様子はみられない。

「ポルファノア、わしは断じてお主の手先になるつもりはない。それだけは肝に銘じておけ」

そう言い残すとツアーレンはその場から去って行った。

ルアーレンが去るなりポルファノアの脇に一人の男がそばに寄って問う。

「あの者の好きにさせてしまってよろしいのですか?」

「…構わん。万が一の時の保険でもある。使わないに越したことはないがな」

ポルファノアは横にいる従者につぶやくようにそう答える。

「…さすがにこの躰のままではな…カランティ」

ポルファノアはカランティに声をかける。

「ヒョヒョヒョ、ご安心ください。すでに躰の目星はつけておりますわ」

カランティはにやりと微笑む。

「カランティ、その者はどこに?」

「その者はコーレスより南のフゲンガルデンにおります。さらにその者は魔剣の契約者。

少数精鋭でなくては無傷での捕縛は厳しい。今シレ殿に頼みその者の捕縛にむかわせております」

コーレスには聖カルヴィナ聖装隊がいる。万が一コーレスの近くで目立つ行動をすれば直ちに行動を開始しよう。

つまり見つからないように隠密でそれを行える武力が必要だということだ。

ポルファノアは一人の男に声をかける。

「シレよ。『黒狼』の力の見せどころだな」

「はっ」

シレと呼ばれた男は頭を下げる。

その者は『黒狼』の長。精悍な顔つきで白い髪と白いひげを生やしている。

「さて全員そろったところで会議をはじめるとするか」

ポルファノアの呼びかけにより会議が始まる。


会議の最後、ポルファノアは立ち上がる。

「リブネントの城を手にした後、聖都コーレスを滅ぼしてくれよう。

四百年前にあのクファトス王ですらなせなかったことを今こそ私がこの手で成し遂げてみせる」

ポルフェノアの声に一斉に声が上がる。

「我々はリブネントを落とすぞ。エトラ魔族連盟、真夜中の道化でリブネントのカロン城を乗っ取る。

他の者はゴラン平原にむかえ。国盗りを始めるぞ」

ポルファノアが大声でそう告げると拍手がその卓を囲む者たちから発せられる。


そうして人知れず災厄はその幕を上げたのだ。


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