6-3 陰謀の中で
トラードを出立する日の朝、ヴァロたちは門の前でイクス達にばったりと出会う。
イクスとローはヴァロたちを待ち伏せしていた様子だ。
「イクスさん」
「少し時間をもらえるか?話したいこともある」
イクスは
「話?」
「今回のことでな」
イクスに言われるままにヴァロたちは近くの物陰に移動する。
「改めて今回の件本当に助かった。礼を言う」
イクスはフィアたちに頭を下げた。
「いえ、それはお互い様です。私たちもミョルフェンの任命式を無事に終わらせることができました」
フィアは魔女の立場から頭を下げる。
「ミョルフェンに話を通してくれていたんですね」
「君との約束だ」
「助かります」
「今後、我々はいい関係を築けるとおもうか」
イクスは右手を差し出してくる。
「ええ」
フィアもそれを握り返す。
「何かあれば力になろう。私は大概はコーレスにいる。もし会いたいときは聖装隊に話を通してくれ」
イクスはどうしても最後まで立場を明らかにしないようだ。
フィアもそれに関しては何も聞かない。二人の間で何らかのやり取りが交わされたのだろうとヴァロは感じた。
「ヴァロ、ココル、教会を通じてマールス騎士団領には礼を言っとく」
「…ああ、どうも」
ヴァロは咄嗟の声にどう対処していいかわからず言葉を濁らす。
半年の間ヴァロはフゲンガルデンを留守にしている。
ヴァロは口添えがあれば助かるなと頭の片隅では考えこれを受けた。
それが間違いだったと気付くのはもう少し後の話だ。
フゲンガルデンに到着した後、ヴァロ宛にフゲンガルデンに教皇から正式な感謝状が届く。
それでちょっとした騒動になるのだが。
「…協力してくれたお礼にこちらからも一つ情報を提供しよう」
イクスはゆっくりと語り始める。
「人間を必要とする者たちは三種類いる。純粋に人間を労働力として売る者と人間を愛玩用として取り扱う者。それの他に何がある?」
「その人間をただの生命体として取り扱う者…カランティのこと」
フィアはおもむろに口を開く。
「そうだ。魔獣は人間よりも良質な生命体だが個体数が少ない。
そこでカランティたちはどこにでもいるありふれた存在、つまり人間を実験の対象にしたといわれてる」
「…」
カランティは自身たちでさらうだけではなく、自分たちの実験をするためにその人さらいを使っていたらしい。
そのためにカランティは『真夜中の道化』と言う集団を率いて人狩りを行い、
大陸東部の動乱にも影で介入していたのだという。
「さて、ここで一つ疑問が残る。カランティはどうしてそこまで人を集める必要があったのか?」
フィアの表情がピクリと動く。一度ヴァロにその疑問を口にしたことがあった。
だが答えはわからずそのまま放置されていたのだ。
「カランティは慎重で狡猾な奴だ。二百年の間動いてはいるもののしっぽを出さなかった。
そんな一つの実験のために危険を犯す女じゃない。奴はせっかく手に入れた聖堂回境師という立場すら秤にかけても何かを手に入れようとしていた」
それはフィアも疑問に思っていたことだ。
魔剣を作るにしてはあまりにその数は少ない。
だが、定期的に人間を狩っている。誰にも知られないように。
「魔女の最高の要職一つでもある聖堂回境師すら秤にかけるほどのもの?そんなものあるわけないじゃない」
二日酔いからどうにか復活したクーナは鼻白む。相当機嫌が悪い。
「ならば発想を変えてみよう。カランティたちがそれを始めるきっかけはなんだったのかと」
突然のイクスの声にフィアは表情を固まらせる。
「ここからは俺の仮説だ。カランティの奴は魔法使いに必要なある者を探していたと考えることはできないだろうか?」
「探していた?」
クーナはイクスに聞き返す。
「そう、はじめはある者を探すために人を狩っていたのではないか?」
「何が言いたいの?」
「つまりその目的が次第に変質し、過程が目的にすり変わったと考えられないかってことさ」
フィアの表情がみるみる変わっていく。
この場で唯一、イクスの言っていることが理解できたのだ。
「二百年の間、それは彼女たちは見つけることができなかった。そうして自分たちでそれを作り出そうという考え方に変わっていった。
…そして、その探し人は最後の最後にみつかった。それは『魔…」
「話はわかりました」
フィアは突然声を荒げ立ち上がる。何事かとヴァロはフィアの顔を覗き込む。
フィアの顔は蒼白である。
「…ずっとわからなかったけど、やっとわかった」
フィアの手は震えていた。フィアはヴァロを見つめる。
「魔法の実験の方が彼女たちにとっての副産物…目的は…」
そうつぶやくと見えないようにフィアはヴァロの服の端をつかんだ。
「カランティの目的は?」
ヴァロとクーナが聞くもフィアは答えない。フィアの手を振りほどこうとするも振りほどけない。
力の限りヴァロの衣服をつかんで離さない。
「…ありがとうございました。私たちはこれからフゲンガルデンに戻ります」
フィアは蒼白な顔でそう告げた。
「イクスさん、ありがとうございました。ヴァロ、馬車を出して」
それだけ言い残すとフィアはヴァロを引っ張る。
「イクスさん、ローさん、またどこかで」
「ああ。またどこかで」
イクスとローは手を振り返した。
「どうしたんだよ、フィア」
ヴァロの問いかけにフィアは答えない。
ヴァロはフィアに引っ張られるまま馬車に向かう。
クーナもまた
「イクスさん」
一人残ったココルがイクスに声をかける。
「ココル君、何だ?」
「人と魔族はいずれ分かり合える時が来ると思いますか?」
ココルは小さくつぶやくようにイクスに問う。
「…そうだな。いずれそう言う時が来る。そんな日が来るとそう信じたくはあるな」
ココルの顔は憔悴していた。
「神の救いなどなくとも人間のことは人間の手で変革する。少しずつ少しずつ変えていけばいい」
「そうですね…」
ココルは視線を地面に落とす。
「それを私は願ってる。私はロマンチシストでもあるのさ」
軽快な口調でイクスは語る。
「ココル、行くぞ」
馬車からココルを呼ぶ声がする。
「ありがとうございます」
一礼するとココルはその場を走り去る。
そうしてヴァロたちはトラードを後にしたのだった。




