5-3 石の柱
式の最中に会場を小さな揺れが襲う。
「嬢ちゃんの言ってた通りになるかもな」
イクスはまた正しくその状況を理解していた。
これだけの振動が来ているということは地下にいるフィアたちは失敗し、地下で地上を支えていた柱が破壊されたとみるべきだろう。
式典の最中、イクスが人ごみを押しのけ駆けつけたときには任命の儀が始まる直前だった。
任命式の最中の今、教皇にそれを伝える手段はない。
このまま伝えに行ったところで混乱を招くだけだ。何もかもが遅すぎた。
ならばその時に備えて準備を行う。イクスはそう判断する。
ローがイクスの脇にやってくる。
「揺れているのはここだけのようです。どうやらフィアさんの言った通りになりそうです」
「落ちるときは一瞬だ。落ち始めたらローは何に代えても教皇の身を守れ。連中は混乱に乗じて教皇の首を取りにくる」
ローは頷く。何を切り捨て何を護るか。そう言う思考ができる点でイクスはすぐれていた。
これからトラードで未曽有の混乱が起きる。
「イクスは?」
「俺はできるだけ地上の混乱を収めるつもりだ。お互い精一杯あがいてやろう」
「ええ」
二人は互いにするべきことを言い合い分かれた。
いつ崩落が始まってもおかしくはない。
不意に揺れが止む。
「揺れが収まった?」
イクス達が怖れた事態にはならなかった。
地下では巨大な石の巨人が天井をおさえていた。
クーナが作り出したものだ
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
クーナの使役する巨人は必死で天井の崩落を防いでいる。
クーナの足元に転がるのは魔封緘。彼女の得意とするのは傀儡魔法。
それはかつて丘を一つ巨大な魔法生物に変えたクーナの魔法である。
石の巨人が崩落を辛うじて防いでいた。
思い切り魔力を使っているのか、クーナは歯を思い切り食いしばっている。
「信じられん。会場全体を支えているのか…」
ホエラニードは驚愕の声を上げていた。
魔女の中でも巨大な柱を支える魔法を使える者はそうは居まい。
目をとられたのはほんの一瞬、彼はすぐに現実の思考に戻り、指示を飛ばす。
「巨人を制御している術者を狙え。奴を殺せれば巨人は暴走する」
ホエラニードの声に男たちは一斉にクーナめがけて襲い掛かって来る。
「ヴァロ」
クーナはその巨人の制御に集中していた。周囲にいた三体の石の人形も動きを止めている。
暴れさせるのと指示を出すのでは指示を出す方が消耗が激しいらしい。
ここでクーナが気を緩めれば巨人は石にもどり、地の底に落ちてくる。
「任せておけ」
ヴァロはクーナに襲い掛かってくる男たちを魔剣の衝撃波で薙ぎ払う。
ココルも負けじと男たちに向かっていく。
「…まさか『狩人』をあれだけ憎んでいた私が『狩人』に背中を預けることになるとはね」
小さくクーナはあきれたようにつぶやく。
両者一歩も引かない膠着状態が続くが、均衡は崩れる時がやってくる。
「あんたはいつも遅いのよ」
クーナは嘆息して、力を緩める。
それは風と共にやってきた。地下に風が吹き始める。
「風だと?」
地下には風は吹かない。
ホエラニードはその異様な状況にいち早く気付いた。
風は塵をまとい、柱を再生していく。
塵が風と共に集まり、その一つ一つの塵は石の柱を作り上げる。
「巨人諸共柱にしたのか」
一本だけではない。その柱の周囲にも柱が次々と形成されていく。
魔族が束になってもこんなことはできはしない。
それはまるで神の御業といってもいいほどのできごと。
ホエラニードは顔をひきつらせたままそれを見ていた。
これでは崩落は起こりえない。
「一体だれが…こんな魔法を…」
ホエラニードは背後に閉じ込めたはずの『魔壁』を見る。
少女を包んでいたはずの『魔壁』が壊れている。
「まさか自力で脱出するとは…」
彼女は彼の作り出した『魔壁』から自力で抜け出たのだ。
魔剣使いですら『魔壁』に閉じ込められれば自力で出ることは困難だ。
「あなたの…いえカランティの計画は失敗ね」
その女性は頭上からホエラニードを見下ろす。
杖を振ると周囲にはとてつもない魔力が渦巻きはじめる。
フィアが帰還したのだ。




