5-2 地下での戦闘
数人の男がフィアの魔法により上空に吹き飛び壁に叩きつけられる。
フィアが風を扱ったのだ。フィアの手のひらには簡単な魔法式が編まれている。
ドーラとの修行のために彼女の魔法力は飛躍的に上昇していた。
フィアの周りに暴風が吹き荒れる。
その暴風により誰も彼女に近づけない。
「魔法使い…それも…相当な…」
ヴァロは剣を魔剣の力を解放する。
だれも見られていないこの状況で魔剣を使うことにためらいはない。
魔剣から繰り出される衝撃波により、数人の男たちが吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「まさか魔剣使い…」
ホエラニードの表情が驚愕に染まる。
そう言っていると背後から数名が宙を飛ぶ。
クーナの周りには人の倍はありそうな砂でできた大きなゴーレムが三体造られている。
それらが男たちを投げつけたのだ。
土で作られたゴーレムは周囲の男をあっと言う間に蹴散らしていく。
今まで『爵位持ち』などと戦って目立たずにいたが、彼女も上位の魔法使いであることに変わりない。
「こんなところまで私を連れてきた罪を償ってもらうわよ」
クーナは不快感を隠そうともしない。
ココルも軽快な動きで男たちを倒していく。
対人戦では目を見張るものがある上に地下の薄暗さはココルに味方した。
ココルは幼少の時から暗殺技術の訓練を受けている。
この場は彼の独壇場と言ってもいい。
死角や影を利用した攻撃は彼の最も得意とするところだ。
蝋燭しかない薄暗い地下で、ココルの影を縫うような動きにより男たちは前に次々に倒されていく。
「なんだよ…こいつら」
目の前の四人に二百人いた仲間が高々四人に次々に片づけられていくのをみて
さすがに怯む者たちが出てくる。
「怯むな。相手は四人。まずは魔法使いを狙うのです」
その言葉に一部の男たちはフィアたちを直接狙ってくる。
武器に魔力が込められる。男たちの中に魔族たちも交じっているのだ
岩すらもたやすく砕く攻撃だ。
生身で受けたのならば体はひとたまりもない。
数人の武器を使った攻撃をフィアは魔法壁で受ける。
その壁は男たちの武器による攻撃を悉く弾く。
「なんだよ、この硬さは」
男たちに動揺が走る。
直後その男たちはフィアの扱う風により壁に叩きつけれられた。
魔力がはっきりとカタチを成してない。漠然としたイメージがないということは自身の魔力を使いこなしていないということ。
そう魔力を使う強い者であればあるほどそのイメージは明確で鮮明。
カリアの魔力で造った甲冑などは本当にその甲冑が存在すると言われても信じてしまうほどのものだった。
「…私たちの敵ではないわね。ただし結構人数が多い。全員の生け捕りは厳しいかもね」
彼女はゴーレムを暴れさせる。
だれも暴れ回っているクーナのゴーレムに傷すらつけられない。
「師匠、師匠の魔剣で拘束できますか」
ココルがヴァロの脇で小声で囁く。
ヴァロの魔剣ソリュードは聖剣カフルギリアの力を使える。
ただし剣を地面に突き刺さしたままでないとその効果は発動しない。
その間ヴァロは剣から手を離せないという条件があった。
ただし、協力者がいれば話は別だ。
「ああ、そうだな。ココル、頼めるか?」
ヴァロはココルに笑って告げる。
「はい」
ヴァロは魔剣ソリュードを大地に突き刺す。それと同時に光の蔦が地面から湧き出る。
湧きだした蔦に男たちは動揺を隠せない。
「なんだ」
男たちはなすすべなく光の蔦に捕らえていく。
魔剣ソリュードの光の蔦は対象しか触れることができない。
ただその光の蔦は魔神すらも拘束するほどのものである。
捕らえた男は手際よく、ココルが意識を刈り取っていく。
「意外と骨がないな」
ヴァロは意外そうに倒れていく男たちを見る。
「ええ。あいつらと比べれば肩すかしもいいところね」
クーナの隣では砂の巨人が魔人を持ち上げて魔人たちに投げつけている。
彼女たちが極北で戦ってきたのは異邦の『爵位持ち』。
その力は一軍にも匹敵すると言われるモノたちである。
その身に放った魔法すら受け付けない魔族もいた。
剣で表皮すら貫けないそんな魔族もいた。
彼らと比べると目の前にいる魔族はどうしても見劣りしてしまう。
今思い返せば極北で一緒に戦っていたのは、とんでもない連中だったのだとヴァロは今更実感していた。
ホエラニードは分が悪いと悟ったのかヴァロたちに背を向けた。
「あの男は私が追う」
クーナはゴーレムを操っているためその場から離れられない。
ヴァロも魔剣から手を放すことを一瞬躊躇した。
手を離せばとらえている男たちが解放されてしまうからだ。
大半はココルとクーナが仕留めたとはいえまだかなりの数が残っている
ここで陣形を崩すのはよくない。
多勢に無勢だ。相手は一人一人さほど強くはないがこちらは圧倒的に数は劣っている。
気を抜けば一気に形成を逆転されよう。
「ヴァロは後からついてきて」
ヴァロはフィアの背中を見て叫ぶ。
「フィア、あまり先行するな」
フィアはヴァロの視界から消える。
フィアの放った弾丸がホエラニードを囲むように地面に着弾する。
フィアの使ったのは威嚇射撃。それも精度といい、力加減と言い絶妙なものだ。
「短時間でこれだけの…やはりかなりの高位の魔法使い」
「投降しなさい」
フィアはホエラニードに向けて手を向ける。
ホエラニードは振り返ると手を上げる素振りをみせた。
「…賢明ね」
ホエラニードの手に魔力が現れる。
フィアはそれを見るなり自身の周囲に魔法壁を展開させる。
フィアのここでの選択は正しい。
大概の魔族は魔力を攻撃の手段として使うためだ。
ただし、ホエラニードの目的は手に現れた魔力を放出するためではなかった。
ホエラニードは魔力の込められた手を地面に叩きつける。
直後、フィアを障壁ごとホエラニードの『魔壁』が包みこんでいく。
「固有魔力」
フィアはなすすべなくその魔力の壁に閉じ込められてしまう。
「その狭い空間の中では自身も傷つけてしまうために魔法は使えない。
あなたはことがすべて終わるまで私の『魔壁』の中で閉じ込められているがいいでしょう」
邪魔者はもはやいない。ホエラニードはその空間の中央にある巨大な柱に歩み寄る。
二三件の民家がすっぽり入るほどのの巨大な柱。
この柱には小さな紋章が描かれていた。
カランティの言った通りだ。
カランティによればその紋章にに魔力を注げば爆発する仕組みだという。
ホエラニードはその紋章に手をかざした。
一瞬ココルと言う少年のことが頭に浮かぶがホエラニードは頭を振ってそれを打ち消す。
「計画を前倒しにします。これから柱を壊します」
ホエラニードはヴァロたちが戦っている真上で声高らかに叫ぶ。
すると地下にいる男たちは一斉に避難を始める。
「フィアが負けた?」
ヴァロたちは動揺する。
ホエラニードはその部屋の中心にある巨大な柱に手を当て、魔力を供給すると柱の一部にルーン文字が浮かび上がる。
直後閃光とともに柱が爆発する。
「逃げろ、崩落に巻き込まれるぞ」
ヴァロたちと交戦していた魔族たちはヴァロたちなど構わずに一目散にその場から去っていく。
支柱を失ったことによりそれはゆっくりと崩れ始める。
加速がつけばあっと言う間にヴァロたちごとこの地下空間を呑み込むだろう。
倒れる速度が遅いのは破壊者が逃げるのを計算に入れてのことだろう。
「どうする」
わずかな時間の間にヴァロは判断を迫られていた。
頼みの綱のフィアの反応はない。
ヴァロの魔剣の力でもこの質量を抑えることはできないだろう。
ここまでカランティの計画通りにことは進んでしまっている。
ここで崩落に巻き込まれて死ぬのならば、この場で撤退し崩落が終わってからの戦いに備えるのが最適解。
ヴァロが撤退の決断を下そうとしたとき、思われたときクーナがヴァロの前にすすみ出る。
「私がやる。このまま奴らのいいようにやられてたまるもんですか」
クーナの怒気をはらむ声色にヴァロとココルはたじろぐ。
クーナの目は座っていた。あまりの剣幕にヴァロはかける言葉が見つからない。
クーナは懐から筒を取り出す。それは魔封緘という魔力をとどめるためのものだ。
クーナはその封を取り地面に魔力を振りかける。
「お気に入りの服を台無しにした罪は重いわよ」
クーナは魔法式を編み、展開させ発動させた。




