3-3 トラード観光
フィアとクーナとイクス、そしてローは明日に備え、劇場周辺を見て回るという。
あまり大勢で行くのも目立つのでヴァロとココルは夜まで余暇が与えられた。
ヴァロとココルはすることもなくトラードの街中を歩く。
ヴァロは警備の服は既にイクスに返し、私服である。
大通りを目の前に二人は立ち止まった。
「すごいな」
「…ですね」
ヴァロとココルはそう言って人で埋まっている視界に脱力する。
通りは人であふれていて全く先が見えない。
教皇を一目見ようと近隣の街や村から人々が集まっているのだという。
これは動くだけで疲れそうだ。明日には任命式での警備も控えている。
ヴァロにはここで無駄に体力を消耗するのははばかられた。
「…取りあえず宿に戻るか」
「師匠。何も無ければ好きにしていいですか?」
ヴァロの呼びかけにココルは意外な反応を見せる。
「…ああそうだな」
年頃なのだし、何か遊ぶつもりなのだろうか。
ヴァロはココルが与えられた余暇を何に使うのかに興味を持つ。
ヴァロは人であふれかえる大通りをココルの後に続いて歩く。
しばらくするとココルは通りの端で足を止め、座りこんだ。
「何をするつもりだ?」
「ここで人を見ます」
ココルは迷うことなくそう言い切る。
「こんなに人が多くてもわかるのか?」
「武器を持っていればすぐにわかります。それに何かやましいことを行おうとすればそれはしぐさに現れます。
…とはいえ少し人が多いので見つけるのは容易ではありませんが」
ココルは群衆から目を離さない。微妙な違和感を見つけようとしているらしい。
ココルは以前トラードの門の前でその作業を来る日も来る日も続けていたという。
そんな彼だからこそそのちょっとした違和感に気づけるのかもしれない。
「ひょっとして…この間もこんなことしてたのか?」
この間と言うのは聖堂回境師のミョルフェンに挨拶をしに行ったときである。
住み慣れたトラードを見ているかと思えば
「ええ。…なんというかこっちの方が落ち着くので」
「お前なあ」
ヴァロは自身の額に手を当てた。まじめを通り越してこれはもう病気である。
ココルはこのままでは休みそうにない。
どうしたら休むだろうとヴァロは真剣に悩む。
「また会いましたね」
いきなり横から声がかけられる。
そこには一人の男性と一人の少女が並んで立っていた。
男はそれほど高価なものを身に着けてはいないもののきっちりとした服をつけている。
横の娘と言えばフードのようなものを着けこちらを上目づかいに睨むように見ていた。
「私の名はホエラニードと言います。となりはエウリ。私の娘です。
今回教皇様が来られると聞いて東部の都市ジェムラスカのからやってまいりまいした」
エウリと呼ばれた女性はココルを見て一礼する。
年齢はココルと同じぐらいだろうか。栗毛色で肩までかかる髪にそばかすが印象的だった。
こちらを真っ直ぐに見つめてくる。
ココルの第一印象は気が強そうな女性だと思った。
「はるばる東部から」
東部出身のココルは少しだけ親近感のようなものを抱いた。
「あなたがたはここのトラードの警備をしているのですか?先ほどあった時は制服を着ていませんでしたが」
「いえ、この通りトラードでは人手が足りないためにこの数日だけ請け負っています」
「珍しいですね」
「ははは」
ヴァロは嘘は言っていない。話せない事情も含んでいるため、この話をこれ以上突っ込まれると面倒だ。
「そうそう、東部出身なのですね。このココルも東部出身で、ここのトラードでしばらく生活してます」
ヴァロは話題をすり替えた。
「師匠」
ココルはヴァロにじと目で抗議する。
「ほう、あなたも東部出身者なのですか?」
ホエラニードの視線がココルに注がれる。うまく関心がそちらの方に向かってくれたようだ。
「…ええ」
「それにここのトラードにお詳しいとか」
「まあ、それなりには…」
ココルは言葉を濁す。
「もし時間が空いてるのでしたら我々にここのトラードを案内していただけませんか?」
やっぱり来たかという表情をココルは見せる。
どうやらココルの予感は的中していたようだ。
ここで真昼間から何もせず座って人の流れを見ているのだ。
そう思われても仕方がない。ココルはヴァロをちらりと見る。
「ココル、案内してきていい。少し息を抜いとかないと肝心な時に動けないぞ」
「…わかりました」
ヴァロのその一言が決め手になり、ココルはその二人を案内することになった。
ココルは少しだけ不満だったが、それを表情には出さないように努めた。
「ホエラニードさん、トラードは初めてですか?」
歩きながらにこやかにココルは話を振る。
「いいえ、トラードは取引で何度か訪れたことがあります。
ただ仕事でしたのであまり通りを見て歩くなどはしていませんでした。
最近は仕事で忙しくて娘にもかまってやれません。
そこで今回の教皇がやってくると言うのでいい機会だと思い、思い切って休みを取りました。」
「そうでしたか」
ココルは目的地についたのか足を止める。
「ここから先の通りはトラードでもちょっと変わったものが置いていある通りなんです」
幸いここは大通りほど混んではいない。
わざわざこんな場所に来る変わり者はそうは居まい。
「これはこれは。いろいろと東部にないモノばかりで目移りしてしまいますねぇ」
ココルの脇を素通りし、そわそわとホエラニードはその通りの中に入っていく。
既にこちらのことなど意識にない。
呼び戻そうとするも背後から袖をつかまれ、振り返る。
「無駄よ。あたしの父、ああなちゃうと見境ないから」
エウリという少女が呆れたような声を放つ。
ホエラニードは露店で足を止めて壺を見ていた。
「骨董品マニア?」
「特に陶器関係の」
ココルは苦笑いを浮かべる。
「少しあっちで座っていましょ」
「そうですね」
露店を歩き回るホエラニードを二人は座りながら遠目で見ていた。
「あんたも東部の出身って本当?」
不意にココルはエウリから声をかけられる。
振り向くとエウリの顔が間近にあった。
ココルは赤面して視線を外す。
「…ええ」
「ココル、さっきから緊張しているの?」
「それは…エウリさんは女の子ですから」
ココルは仕事では女性と接する機会もある。
慣れているとは言わないが、それなりに対応はできる。
ココルにとってここまで面と向かって話すのははじめてのことだった。
「あたしが女の子」
エウリは何がおかしいのか苦笑する。
「ここはいい場所ね。真昼間から女性が着飾って歩ける」
「…」
「あたしの済んでいた場所ジェムラスカは治安が悪くてね。女性の恰好していたらさらってくださいと言っているようなもの。
とてもじゃないけれど着飾って歩けるような場所じゃなかったの」
エウリは当たり前のことのようにそれを口にする。
彼女はどれほどの環境で生きてきたのだろう。
少しだけココルはその少女に興味を持つ。
「そうなんですか」
「そうなんですかって、あんたってまさか地方出身者?」
エウリは疑惑の眼差しをココルに向ける。
「まあそのようなものです」
ココルは言葉を濁らせた。
ココルは幼少期に人買いに売られ、暗殺者としての訓練を受けていた。
そんなことをここでいうわけにはいかない。
「一体どこの田舎よ」
エウリはココルをまじまじと見つめる。
「…あれ?ホエラニードさんは?」
ココルはホエラニードがいつの間にか視界から消えているのに気づく。
「ああ、全くもう。父さん、こうなっちゃうと見境ないんだから。ココル探すの手伝って」
エウリはココルの手を引いて走り出す。
ココルとエウリは二人でしばらく通りを探すことになる。
「ココル」
エウリはココルに声をかけ手招きをする。
ホエラニードは少し通りからそれた場所にある柵の中を見ていた。
「ココル君、あそこは地下に通じる道ですか?」
ホエラニードは柵の中にある暗渠の入り口を指さす。
「ええ。地下は迷宮になっています。行こうと思うのならばやめておいた方がいいですよ。
トラードは谷にあります。大雨になれば両脇の山から水がここに流れ込む。
雨が降れば水位は上がりすべて流される。だから浮浪者共も地下だけには誰も住もうとしません」
「ほお、ココル君は地下に行ったことがあるのですか?」
「…少しだけ。臭いはひどいし、迷宮のようになっています。見に行く場所ではありませんよ」
「そうですか…」
この時ココルはホエラニードの横顔に妙な胸騒ぎを覚えた。
その後もココルはその二人の親子を連れて人でにぎわう街中を歩きまわる。
気が付けば日もとっぷりと暮れかかっていた。
「ココル君、今日はありがとう。ダメな父として娘にようやく何かしてあげられた気がするよ」
「そんな…」
人から感謝されることは嫌いじゃない。
「ジェムラスカに来たら私のところに来なさい。田舎者のあんた一人ぐらいあたしが案内してあげるわ」
エウリはそう言い残すと振り返ると宿に入って行ってしまった。
「おやおや、娘にずいぶんと気に入られたみたいだね」
「…はあ?」
ホエラニードの言っている意味が解らずココルは聞き返す。
彼は懐に手を入れるとココルの手を取る。
「これは私からのほんのささやかなお礼だ」
ココルの手には金貨が二枚あった。
金貨一枚で相当な価値になる。
「こんなにいただけません」
ココルはあわてて金貨を突き返そうとするも、ホエラニードの力強い手に押し返される。
「受け取ってくれないか?…私たちにはもう必要のないものだ」
この時ココルはホエラニードが言っている意味がわからなかった。
この二人を案内したことがココルの今後に大きく関わってくる。
ココルは意外と良いキャラしてるなあと。
さてさて、そろそろこの話も書き終わったので一気にアップしていきまする。
次の章から激動のはじまりです。
ソシャゲも全部あきたので現在、プレステビータ?中古で買って遊んでいます。
昔のタイトルとか遊べるんだねぇ。
ギルティギアとか影響されてみたけれど、ストーリー性すごかった。
特にユーチューブで見ると最近のは特に凄まじい。(ゲーム機持ってないので勘弁)
ディズィーとカイの絡みが濃厚だったわー。(まだ見てない)
久しぶりにしびれた。




