一、
学校から、自宅とは反対方向に位置するその喫茶店へは僅か五分程で辿り着いた。木製の珍しい装飾が施された扉を開くと、カランカランと高らかにベルが鳴る。
「いらっしゃい、朱里ちゃん」
「……いらっしゃいませ」
マスターである絢香さんの声の後に聞きなれた声がそれを追う。あからさまに忙しそうに店内を回るアルバイトの女性とは違い、ゆったりとけれども手際よく接客をするアオイさんの背中はすぐに見つけられた。
「お店……混んでるじゃん、そこそこ人気なの? 此処、」
女子大生を相手にだろうか……爽やかな笑みを浮かべて注文を取るアオイさんを見ていると、なんだかとても切なくなった。
「ははーん、さてはあれがアオイさんかぁ」
「えっ」
「何よ、切な気に見つめちゃってさー取り敢えず座ろ」
アルバイトさんが案内をしてくれた店の奥の窓際のテーブルに向き合って座ると、友人……夏実はアイスカフェオレ。私はアイスティーを注文した。
ポツリポツリと席を立つお客、今思えば客層がかなり女性に傾いていた気がする。そう思い始めると止まらない悲観的な考えに拍車をかけるように、一組のお客さんが言った言葉が耳に刺さった。
「アオイさん、また来ますねぇ」
明らかに自分とは違う大人の女性。身に付けている服やアクセサリーに私が手を出すことは出来ないだろう。
甘ったるい口調でそう言い渡した彼女にも、アオイさんは相変わらず微笑んでいる。
「はい、待ってますね」
砂糖はたっぷり入れたはずなのに、アイスティーが苦い。