とんでも
なぜだ…
どうしてこうなった……。
俺の現在の状況を説明しよう。
場所は俺達の今のねぐら。
崖の下の洞窟だ。
俺はその中の固い岩肌の上に、いつも通りあぐらをかいて座っている。
そしていつも通り今後のことについて仲間と円になって話し合いを…
「なぁ、ここってどの辺なんだ?あんまり見たことのない花が外に咲いていたぞ。」
話し合いを……
「おまえの名前はなんていうんだ?
わたしの名前はシルヴィだ。
おまえはわたしの旦那だからな!特別に愛称の ヴィー と呼んでもいいぞ!」
…話し合いを……
「わたしはずーっと魔族を探してたんだ!!!」
「くっそぉ!俺たちへのイヤミか!?イヤミなのか?」
「やっべぇシルヴィちゃんまじかわいーー…」
「天使…」
うん、話し合いにはなんないね。
シルヴィといったその子は今俺の膝の上に座ってる。
座って両手を俺の首に絡めて抱きついてる状態だ。
俺も男だ。嬉しくないと言ったら嘘になる。
めっちゃ柔らかいし!いい匂いするし!
ただなぁ…さっき初めて会った女の子だぞ。こんな男だけの巣窟でひとり嬉しがったりできませんって!
「……わたしではお前の嫁になるのは役不足か??」
今度はちょい困り顔で首を こてん と、上目遣いだ。
ど~しろっていうんだ~!!!
「シルヴィちゃんごめんね、こいつ真面目な上にヘタレなんだわ。このクールな顔に見えて、今めちゃ焦ってるから煽らないでやって。」
フェイが近くまで来て、シルヴィの頭をなでなでする。
ん?なんか面白くないな。
「ヘタレ? ヘタレってなんだ?」
「うーん、不能ってことかな。」
「不能じゃねぇ!」
「不能ってなんだ?」
「不能ってのは…」
「フェイ!!
シルヴィ、俺の名前はザイラスだ。知りたかったんだろう?!」
名前を教えると、ぱあっと明るい顔をして、俺の方に向き直った。
…うん、なんだか満足。
「シルヴィちゃん、盛り上がってるとこ悪いんだけどさぁ、俺達こう見えて魔族って訳じゃないんだ。ただの髪が黒い種族の人間。ザイラスも目は紅目だけど人間だよ。」
おっと、そうだ。それを言おうとしていたんだった。
「おまえの憧れてる魔族じゃなくて悪かったな。」
そうシルヴィに言うと、シルヴィは分かりやすく ガーンってなってた。
だってしょうがないよな。嘘つく訳にもいかないし。
「町の噂で南へ越える山に魔族が出るって聞いたから、悪そうな商人に捕まったふりしてここまで来たんだ…。」
がっくりと肩を落とすシルヴィ。
そんなことまでして魔族に会いたいって、なんだこの子は。
「もうすぐ俺達を魔族だと思ってる奴等が俺達を討伐しに来る。
すぐそこの村の入り口まで送ってやるから帰れ。」
「ええ~!」
俺とフェイは渋るシルヴィを抱えてねぐらを出た。
仲間たちは 潤いがなくなる…とさめざめと泣いていた。
「や、ぜったいわたしをはめようとしているんだろ!
ザイラスは絶対魔族だ!」
「そう思うならそう思っていればいい。」
「あっはは~!シルヴィちゃん面白いねぇ!」
じたばたと足をばたつかせている。
うーん、魔族だったから逆プロポーズされたのか。
ちょっと残念な気がしてたのは秘密だ。
近くの村までさしかかった時だった。
「…ザイラス
あれ、もしかして…」
村の入り口には明らかに厳めしい軍隊のような奴等がいた。
俺達はこっそりと身を隠す。
「軍人さん、今からどちらへ?」
田舎ならではの人の良さそうな門兵が話しかける。
「…魔族狩りだ。」
「!!!」
「ザイラス、戻るぞ。」
「ああ。
シルヴィ、ここまでしか送れなくてすまない。あとはここの村で自分の家への帰り道を聞いてくれ。」
俺はシルヴィを降ろすと、フェイと一緒に駆け出した。
村のみんなはもう、逃げ切れただろうか。
逃げ切れるまで、持たせなければ。