襲撃
それは、俺達村の狩猟メンバー…つまり若い男性だけで狩猟に出かけた時のことだ。
俺達の村は黒髪の奴が多い。
黒髪の人間はそう多くないがこの国にも一定数いる。
ただ魔族と同じ髪色だということで、当然ながら起きるのが…迫害だ。
どの町にいても、黒髪の奴には仕事はみつからない。
それだけならまだいい。
捕まって奴隷にされてしまうなんて話もない訳じゃない。
そういった迫害から逃れてきた同じ黒髪の人間が集まってできたのが俺達の村だ。
他の町には行けない。
だから農作物も、肉や魚、衣類さえもすべて自給自足だ。
特に狩りに出るのは若い男性と相場が決まっていた。
森の中などでは魔物に出会うことも多いからだ。
今日もいつもどおり出かけて、いつもどおりの帰宅。
そう、思っていた。
「おっ…おい! あれ、なんだよ!!!」
今日一番の大物を捕まえた、薬屋の息子のギルが、早く親に見せてやりたいって、帰りの足取りがとても早くて。
少し先に村の見える高台に一番に登って言った言葉がそれだった。
眼下に見えたのは、村から立ち上る煙。
「なんだ…あれ…」
誰から走り出したか。
皆で慌てて村へ急いだ。
「…あ…
…う…うぁぁぁぁぁ~、ザイラスぅ~!」
村の入り口で俺のことを見るなり、抱きついてきたのは隣の家の娘のニカ。10歳で俺の妹みたいなやつだ。
とめどない涙を流して、止められない嗚咽にニカも苦しんでいる。
「おっ…おいニカ!なにがあった!!」
「し…しらない…っく… 知らないやつらが来てね…
火の矢を村に飛ばして…火事になって…
そいつらに向かってったじいちゃんたち…怪我させられて…」
「! じじい、生きてるか?」
「うん、大丈夫だけどね…」
「どうしたニカ。」
「そいつらまた来るって言ってた。マゾクはいらないって。
…次は皆殺しだって。」
「!!!」
この国には黒髪の人間を魔族の末裔だと信じこんで、殺そうとするやつらがいるのはじじい達から聞かされて知ってた。
…見つかったってことか。
偶然この村を見つけて襲撃したんだろう。
ということは、次はこの村を狙ってくる。
…万全の準備で。
その夜、じじい…もとい、長老宅に集まったのは女、子供を除く男性全員。
顔は当然暗い。
「あ~、こんな布団に寝かされた状態ですまない。皆に集まってもらったのは、昼間の襲撃事件のことでだ。」
豊かな白髭を蓄えた爺さんこと長老は、すでに歳をとって黒髪ではないが、この村を始めに作ってくれた人だ。迫害されていた黒髪の集まる村として、ある意味救いのように人は集まってきたという。
「やつらはまた来るじゃろう。
もしかしたら明日、明後日かもしれん。
この村がもし、なくなるとしてもだ。少なくとも女、子供達は逃さねばならん。
これから、この村の防衛、また子供達を逃がさせるためにどうするかを話し合う。」
それから、皆でどうしたらいいかを話し合った。
気がついたら夜が白みはじめていた位に、白熱した話し合いだった。
「こぉら!寝るでない!!!」
「あいたっ!!!」
じじいは寝こけていたフェイの頭を杖で殴った。
…じーさん怪我してんじゃねぇのかよ。
フェイはじーさんの孫。
つまりそのうち村長になるんだが、その自覚はまったくといっていいほどない。
「ってーか。結局そいつらを村に近づけなきゃいいんだろ?」
けろっと、フェイがあくびを噛み殺して背伸びしながら言った。
「簡単だろ。奴らの目を反らしゃいい。」
ニヤリと笑って俺の方を見た。
あ~、これまずいやつだ。
こいつがこの顔するとき、いいことひとつもない。
「ザイラスくぅん♪」
「…なんだよ フェイ」
くっそ、こいつ俺が断れないこと知ってやがる。
俺達家族…俺と、母親、父親だが。
ここにきたのは俺が3歳の頃だ。
5歳になる頃に母と父は流行り病であの世に逝った。
そのあとはこのじじいこと長老宅に引き取られてフェイとも兄弟同然に育ってきた。
…そうなんだよ。だからお前が何言うかは手に取るようにわかるぞバカ野郎。
諦めたように俺は言った。
「俺が囮になって、奴らを撹乱します。
その間に逃げてください」