1/53
プロローグ
「うぁぁぁぁぁ!!!」
国境近くの鬱蒼とした森林に悲鳴と、その声に驚いた鳥達の羽音が響き渡る。
馬車から転げ落ちた商人とおぼしき男は、腰が抜けたのか、ずりばいの状態から動けてはいないようだ。
恐怖する顔の脇すれすれに、弓矢が勢いよく飛んできて刺さる。
つい…っと、頬に落ちる血を感じた。
「荷物置いていけば命までは取らねぇさ。ほら、今逃げねぇと、殺されてぇのかと思っちまうぜぇ~?」
その声に後ろを振り返った男は。
じとり とイヤな汗をかいた。
弓矢を構えた狐目の男が、次の矢を放つ準備をしていたから というわけでもなく。
何人もの盗賊が自分を狙っていたから でもなく。
「魔…魔族…!!」
その盗賊たちが皆、濡れ羽色の 漆黒の髪色をしていたからだ。
「早く…行け!!」
その中でも中央にいたリーダーと思われる男は。
まるで血のような。
光輝く 紅色の瞳をしていた。
「ひいいいいい!!!!!」
抜けた腰はどこへやら。
商人は全速力でこの場所を抜け出していた。