せっかくなので
キャンベル事務局長の大声(怒号・唸り声等々)が聞こえなくなって、ホッと一息。
「え~っと……、このたびは、本当に、なんと言いますか……」
と、アメリアは口を開いた。事務局長の恐怖から解放され、とりあえずは少し落ち着いたのだろう。
「助けていただき、本当に! え~っと、ありがとうございました。まったく、その、一時は、え~っと、どうなることかと……」
アメリアは頭が地面に接触するくらいまで腰を曲げ、大げさに御礼の言葉を述べている。事務局長が去り落ち着いた後は、教祖様を目の前にして、興奮のあまり少々気が動転しているような様子。
教祖様は、何やらすまなさそうな表情を浮かべ、
「あの、その……、キャンベル事務局長は、本当は善良な人なのですが、ちょっと極端なところがあって……」
わたしとプチドラは、苦笑しながら顔を見合わせた。さっきの事務局長は「ちょっと」どころではなかったと思うけど……
「あの~、せっかくですから、時間があればですが……、コーブ事務局次長がいない間……いえ、それはここだけの話で、とにかく、しばらく部屋で、お話でもしていきませんか」
教祖様は言葉を続けた。わたし的には、実権を有しているとは思えない教祖様との無意味な長話なら時間の無駄と(ただし言葉遣いは丁重に)お断りしたいところ。
しかし、教祖様の前で(今や明らかに)舞い上がっているアメリアは、わたしが口を開くより早く、
「教祖様が、お話を! ここは是非、是非とも、お願いします!! ですよね、そうですよね、間違いないですよね、カトリーナさん!!!」
こうして(アメリアの勢いに押され)、図らずも、事務局次長がいない間に(「鬼の居ぬ間に洗濯」ということで)教祖様の話し相手を務めることとなってしまった。
教祖様は、何やら感慨深げに、
「ああ、ありがとう。人と普通にお喋りをするのは、本当に……、本当に久しぶりです」
話によれば、普段はコーブ事務局次長以外に部屋を訪れる者もなく、信徒との私的な会話も事実上禁止されている状態だったので、非常に息苦しい思いをしていたという。
「教祖様、それは、なんという…… お可哀想に……」
アメリアは、目を潤ませて言った。そして、両手の拳をぐっと握りしめ、
「いくら事務局次長とはいえ、え~っと……、教祖様を悲しませるようなことは、やはり、いけないと思います。ねえ、そうですよね、そう思いますよね、カトリーナさん!」
わたしに同意を求められても、なんともコメントのしようがないが……
「いえ、そこは……、コーブ事務局次長も、悪い人ではないのです。本当に、心から教団のことを考えているために……」
教祖様は、そこまで言いかけて、「ああ!」と口を押さえ、
「ええ、そうなのです。教団のことを考えているから…… 教団ができる前は、もっと優しかったのに……」
そして、何やらこみ上げてくるものでもあるのか、「うう」と声を押し殺すようにして嗚咽を始めた。




